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一足遅れた夏休み
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お待たせ、お代わりどうぞ。まあ、別にうまくもなんともない素人が入れたコーヒーだけどな。まぁ、喉が湿らせればなんでもいいだろう。それでどこまで話したっけ。・・・ああ、田舎に行ったところまでか。
気が向いた神様がスコップで、こう、掬ったらああいう地形になるのかね。四方が山に囲まれた土地になんで住もうと思ったのかね、先祖様は。祖父が住んでいたのはその山の間にある家だったよ。期待させたのなら申し訳ないが、テレビに映るような茅葺きみたいな屋根に狼に吹き飛ばされそうな木で作られた小屋みたいなやつじゃないぜ。普通の一軒家さ、こんな街中にあるものに比べればずいぶんと大きいはずだがね。で、そこの二階だったかな。確か、二階のはずだ。そこにしばらく住むことになったのさ。暫くと言っても精々夏休みの間だけの予定だったからな。どこかに日記やら写真があるかもしれんから探してみようか。
二階のもともと父親が住んでいた部屋に住むことになったんだ。なんだか妙な気分だったよ。なんだか父親と一緒にいるような、いないんだけどな。あれ、言ったっけ。田舎に行ったのは俺だけだったんだ。父親は仕事があるし、母親は来ようとしたらしいけど、少しは母親を休ませろっていうのが祖父たちの意見だったらしい。今考えれば合理的だし正しいんだけどな、あの時はなんだか厄介払いされたような気分だったよ。
そんな気持ちも向こうについて、送ってくれた両親が帰ったあとに夕食を食べるまでだったよ。意外と単純だよな。いつもと違う環境で自由にできることがわかったらそれなりに元気が湧いてくるんだから。まだ思春期に入ってもいなかったから、そこが良い風に働いたんだろうな。いや、楽しく思っていたのは本当に一日ぐらいじゃないかな。そんな顔をしないでくれよ。あんたが感情を優先して話してくれって言ったんだから。ああ、別に大きく間違っていることは無いと思うよ。あの二週間のことを忘れたことはないし、何回だって話したこともあるからな。信じた奴はほとんどいないし。信じた奴は親以外碌な奴じゃなかったよ。
田舎に住んでるって言っても別に引きこもっているわけじゃないからさ、祖父も祖母も働いてたんだ。特に昼間なんて俺に構うのも一苦労だったらしいよ。そうなると自然と外でフラフラし始めるわけだ。残念ながら、そこで一夏の恋には出会わなかったし、見知らぬ美人とお近づきにもならなかったよ。そもそもそんな歳でもなかったしな。色づいている余裕なんてなかったからな。
家の周りには畑と、家畜が放し飼いされてたかな。ま、俺には農業も畜産もよくわからん。ただ、友達もなにもなかったあの場所ではそれなりに遊び相手になってもらったような気がするよ。一応、しばらく山道を歩けば街のほうに行けたんだけどね。まあ、その話はもっと後になるから。そんなもんだよ、トンネルを抜けると街であった、ってね。とりあえず家の周りを歩いてみたりしてみたわけだ。
臭い,って言ったら怒られるのかね、独特な匂いが満ちた家畜小屋。肥料の匂いで満ちた畑。土の匂いって言うのかね、あれは。太陽の暑い匂いと川の涼しい匂い。甘い花の匂いと獣の糞の匂い。
ふむ、匂いばっかりだな。よっぽど慣れない匂いばっかりだったのかな。こんな街の中ではそうそう嗅ぐことのない匂いばっかりだったから、・・・そうか、だから、こんなに忘れられないのか、いや、それだけじゃないだろうけど・・・。ああ、いや、なんでもない。
そんな匂いに釣られて、あっちへこっちへ行ったよ。畑の真ん中にある肥料小屋は臭かったなあ。臭いってわかってるのに、何回も嗅いじゃうんだよな。なんでなんだろうな。川を覗けば、見たことのない魚がたくさん泳いでたし、山に入れば狐やら狸にも出会ったさ。流石に山に一人で深入りすることは無かったな。興味よりも怖いって気持ちのほうが強くてな。祖父に一人では絶対に行くなって言われてたのもあるかもしれないけど。
村の中を歩いてたらたまに人に出会うこともあったな。たぶん人よりも牛とか狐とかのほうが会った数は多いけど・・・。何言ってるのかわからん老女に一緒に何言っているのかわからない老人。今ならあれが限界集落っていうものなのはわかるけどさ、あの時は心の底からつまらないって思ったよ。でもそうやって不満を思えるだけマシだったんだろうな。
夜になって一人で布団の中に入ってたりすると意味もなく涙が止まらなくなってな。中学生にもなって泣きつくのも恥ずかしくてさ、一人で声が出ないように頑張って堪えたりもしたけど、鼻をすする音でたぶんばれてたんじゃないかな。恥ずかしくて結局最後まで聞くことはなかったけどね。
おいおい、そんなに退屈そうな顔をするなって。わかってるって、まだ役者が揃ってないって言いたいんだろ?ここから登場するのさ。何もない田舎で出会った高校生ぐらいの大人にな。いや、高校生を大人とは言わんか。でも中学生から見れば高校生なんて大人の仲間入りしてるみたいなもんだろう。
気が向いた神様がスコップで、こう、掬ったらああいう地形になるのかね。四方が山に囲まれた土地になんで住もうと思ったのかね、先祖様は。祖父が住んでいたのはその山の間にある家だったよ。期待させたのなら申し訳ないが、テレビに映るような茅葺きみたいな屋根に狼に吹き飛ばされそうな木で作られた小屋みたいなやつじゃないぜ。普通の一軒家さ、こんな街中にあるものに比べればずいぶんと大きいはずだがね。で、そこの二階だったかな。確か、二階のはずだ。そこにしばらく住むことになったのさ。暫くと言っても精々夏休みの間だけの予定だったからな。どこかに日記やら写真があるかもしれんから探してみようか。
二階のもともと父親が住んでいた部屋に住むことになったんだ。なんだか妙な気分だったよ。なんだか父親と一緒にいるような、いないんだけどな。あれ、言ったっけ。田舎に行ったのは俺だけだったんだ。父親は仕事があるし、母親は来ようとしたらしいけど、少しは母親を休ませろっていうのが祖父たちの意見だったらしい。今考えれば合理的だし正しいんだけどな、あの時はなんだか厄介払いされたような気分だったよ。
そんな気持ちも向こうについて、送ってくれた両親が帰ったあとに夕食を食べるまでだったよ。意外と単純だよな。いつもと違う環境で自由にできることがわかったらそれなりに元気が湧いてくるんだから。まだ思春期に入ってもいなかったから、そこが良い風に働いたんだろうな。いや、楽しく思っていたのは本当に一日ぐらいじゃないかな。そんな顔をしないでくれよ。あんたが感情を優先して話してくれって言ったんだから。ああ、別に大きく間違っていることは無いと思うよ。あの二週間のことを忘れたことはないし、何回だって話したこともあるからな。信じた奴はほとんどいないし。信じた奴は親以外碌な奴じゃなかったよ。
田舎に住んでるって言っても別に引きこもっているわけじゃないからさ、祖父も祖母も働いてたんだ。特に昼間なんて俺に構うのも一苦労だったらしいよ。そうなると自然と外でフラフラし始めるわけだ。残念ながら、そこで一夏の恋には出会わなかったし、見知らぬ美人とお近づきにもならなかったよ。そもそもそんな歳でもなかったしな。色づいている余裕なんてなかったからな。
家の周りには畑と、家畜が放し飼いされてたかな。ま、俺には農業も畜産もよくわからん。ただ、友達もなにもなかったあの場所ではそれなりに遊び相手になってもらったような気がするよ。一応、しばらく山道を歩けば街のほうに行けたんだけどね。まあ、その話はもっと後になるから。そんなもんだよ、トンネルを抜けると街であった、ってね。とりあえず家の周りを歩いてみたりしてみたわけだ。
臭い,って言ったら怒られるのかね、独特な匂いが満ちた家畜小屋。肥料の匂いで満ちた畑。土の匂いって言うのかね、あれは。太陽の暑い匂いと川の涼しい匂い。甘い花の匂いと獣の糞の匂い。
ふむ、匂いばっかりだな。よっぽど慣れない匂いばっかりだったのかな。こんな街の中ではそうそう嗅ぐことのない匂いばっかりだったから、・・・そうか、だから、こんなに忘れられないのか、いや、それだけじゃないだろうけど・・・。ああ、いや、なんでもない。
そんな匂いに釣られて、あっちへこっちへ行ったよ。畑の真ん中にある肥料小屋は臭かったなあ。臭いってわかってるのに、何回も嗅いじゃうんだよな。なんでなんだろうな。川を覗けば、見たことのない魚がたくさん泳いでたし、山に入れば狐やら狸にも出会ったさ。流石に山に一人で深入りすることは無かったな。興味よりも怖いって気持ちのほうが強くてな。祖父に一人では絶対に行くなって言われてたのもあるかもしれないけど。
村の中を歩いてたらたまに人に出会うこともあったな。たぶん人よりも牛とか狐とかのほうが会った数は多いけど・・・。何言ってるのかわからん老女に一緒に何言っているのかわからない老人。今ならあれが限界集落っていうものなのはわかるけどさ、あの時は心の底からつまらないって思ったよ。でもそうやって不満を思えるだけマシだったんだろうな。
夜になって一人で布団の中に入ってたりすると意味もなく涙が止まらなくなってな。中学生にもなって泣きつくのも恥ずかしくてさ、一人で声が出ないように頑張って堪えたりもしたけど、鼻をすする音でたぶんばれてたんじゃないかな。恥ずかしくて結局最後まで聞くことはなかったけどね。
おいおい、そんなに退屈そうな顔をするなって。わかってるって、まだ役者が揃ってないって言いたいんだろ?ここから登場するのさ。何もない田舎で出会った高校生ぐらいの大人にな。いや、高校生を大人とは言わんか。でも中学生から見れば高校生なんて大人の仲間入りしてるみたいなもんだろう。
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