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亀に出会ったアキレス

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 春。出会いの季節と、別れの季節と、入学の季節と、卒業の季節と、とにかくいろんな意味を背負わされた季節がまた飽きもせず回ってくる。晴れてこの春から高校生になった私はせめて顔ぐらいは元気で行こうと思って少し気合を入れて学校にやってきたわけだけれど、そんな決意がそうそう続くはずもなかった。そんなことは私が一番わかっているはずなんだけど。春だからって人はそんな簡単に変わったりしない。
 そう思っていた、確かにあの瞬間まではそう思っていた。つまらない話をつまらない空間で聞き流して、教室での自己紹介が始まって、一応クラスメイトの顔ぐらいは覚えなければ、と必死に覚えていたところで彼女の出番が回ってきた。
「亀山 優子です。よろしくお願いします」
 高すぎない声と、少し高めの身長から想像できないほどにおっとりとした立ち居振る舞いの彼女に私は一瞬で心を奪われた。ほんのりとした笑顔はきっとあの人は優しいんだろうなと思わせるには十分すぎるほどで、実際に彼女は優しかった。
 彼女に心奪われた私はその後の自分の番で何を言ったのかあんまり覚えていないほどだった。朧気な記憶を掘り起こすと、別に変なことを言ったりも大きな失敗をしていないはずだ、たぶんだけど、たぶん。
「駿河さんだよね?隣、よろしくね」
 新学期特有の名前順の席の結果、私の席は彼女の隣だった。自分で言うのも悲しくなるけど、私は取り立てて何かができるわけでもなければ、見目が麗しいわけでもない。そんな私のことを覚えてくれていることも、仲良くしようとしてくれていることも嬉しかった。
 最初はみんな一緒に行動することが多い。だからその間に彼女と連絡先を交換することもできた。毎日連絡したいと思ったけど、さすがに気持ち悪いかもと思って日にちを少し開けたりしながら連絡した。我ながら気持ち悪いとも思った。でも、それでも、私は彼女に嫌われたくなかったし、少しでも心の中で私を思ってほしかった。

 少し前よりも仲良くなって、二人で出かけるようなこともあった。一緒に並んで、また彼女の魅力に一人で打ちひしがれることがある。それでも、彼女のことが嫌いになるなんてことは無かった。自らとあまりに隔絶した存在に嫉妬することなんてできなかった、できるわけがなかった。むしろそんな気持ちをひた隠しにするほうが難しかった。
 憧れは理解から最も遠い、なんてクラスの男子が言っていたのを聞いたことがある。あの時はそんなこともあるのかと思っていたけど、今になるとなんで理解したいとすら思うことがない。ただ、傍にいてほしい。いなくても私のことを考えていてほしい。

 そうやって何回か月を超えて、何回かのテストを超えたあたりで彼女にまじめな顔で遊びに誘われた。本能が叫んでいる。行くなって。でも誘われた時に断ることができない相手と断ることができない場合というものが存在する。今回はその両方だった。
 彼女の誰も知らない一面を知ることができるかもしれないなんて考えながら向かった。
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