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出会いは星降る夜に
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「もういい!!」
「あ、ちょっと待ちなさい。今何時だと思ってるの?」
ばたんとドアを閉じる。そしてさっそく当てが無くなり、ふらふらと散歩を始める。母親とは妙にそりが合わない。実は継母だと言われても納得がいくくらいには性格が合わない。ちょっと気づくのが遅かったとか、出てくるのが遅くなったとか、そんな些細なことでいつも喧嘩をしてしまう。今日もまた喧嘩をしてその勢いで家を飛び出す。些細なことに対する些細な小言なのだから、受け流せればいいのだろうとは思う。でも受け流せず、言い返し喧嘩になる。思春期なのか母親譲りなのか、きっと母親譲りの短気だとは思う。空はカラッとしたいい天気で雨も降っていないし、寒くもない。こんな天気だと逆にどこに行こうか迷ってしまう。
歩いていると、いつの間にか懐かしい公園に辿り着く。思い出を懐かしむには夜が更けすぎているし暗すぎるが、多少思い出すにはここに来たという事実だけで十分だ。数々の懐かしい遊具に、久しぶりに遊びたいという欲求が頭をよぎるが高校生の身ではブランコもシーソーも大きすぎる。ふと小さい頃のことを思い出す。まだ幼稚園に入るか入らないかの頃、この公園によく母親と来ていた。それなりに人がいて、遊具や丘ちょっとした木々などがあってこどもの遊び場として最適だったんだろう。昔好きだった丘に座って、また少しだけ思い出す。確か、ここで行方不明になった人がいたはずだ。綺麗な黒髪ですらっとした体型でよく子供と遊んでいた。自分もたしか一緒になって遊んでいたはずだ。そう、確かあんな感じの美人だったはずだ。え?
「こんにちは。坊や、こんなところでなにしているの?」
「え?いや、ちょっと親と喧嘩しちゃって」
「あらそうなの?私でよければ話聞きましょうか?」
「え?いや、でも・・・」
「誰かに話すと気分が楽になるのよ。今の君は随分とひどい顔をしているわ」
どう見ても不審者だが全身から香る母性にあらがえず、話してしまう。
「そんなにお母さんとそりが合わないの?」
「そうですよ、まったく。いつもいつもぐちぐちと絡んできて、うっとしいにもほどがある。もうちょっと言い方とか考えてほしいもんですよ全く」
「ふふ。君の不満はよくわかったわ。あんまりストレスをためるのは身体に悪いし、ちょっと発散していかない?」
「え?」
ストレス発散ていうと・・・。いやまさか、そんなマンガみたいなこと、いやでもな・・・。
「あ、エッチなこと考えてるでしょ。エッチな顔してる」
この暗闇でよく顔が見えるなと思っていると、彼女は続けた。
「残念ながらエッチなことではないけど、君にすごい体験をさせて上げられるわ」
「すごい体験?」
「そう、すごい体験。ちょっと見ててね」
そうして彼女は虚空を見つめて、早口で何かを唱えながら祈り始めた。唱えたといってもなにを言っているかはわからないし、手の形が祈っているように見えただけだけど。見ていると、どこからか汽車の音が聞こえてくる。最近では古いドラマなんかでしか聞かないあの音だ。沸騰したやかんから聞こえてくるあの音とともに大きな列車がやってきて空中で止まった。あまりにも理解の及ばない状況にフリーズしていると列車のドアが開き、タラップが下りてくる。彼女の手にひかれるままに列車に乗り込むと、そのままドアが閉まる。聞くことはたくさんあるが状況がそれを許さない。
「さ、坊や。ちょっとした小旅行に行きましょうか」
「え、でも。お金も切符もないんですけど」
焦って今聞く質問じゃないことを聞いた気がするけど大事なとこだよね、たぶん。
「この列車はお金も切符もいらないわ。かわりにあなたの時間を貰うの」
「時間?それってどういうことなんですか?」
「もう乗っちゃったんだからその説明は後でやるわ。ほら、もう地面があんな遠くに行っちゃった」
その言葉に驚き、窓に飛びつく。さっきまでいたあの丘がどんどん遠くなっていく。飛行機に乗って滑走路を見るときにとは全く違う。窓も薄く、なにより外との距離が近い。どんどんと空に上がっていく。飛行機のようなあの身体が押さえつけられる感覚もなく、空に上がっていく。さっきまでいた街が小さくなっていく。街の光が小さくなっていくにつれて今度は空が近くなっていく。プラネタリウムでしか見たことのないような満天の星空が視界いっぱいに広がる。しばし、その光景に目を奪われる。
「で、時間を貰うってのはどういうことなんですか?」
「文字通りよ。あなたから時間を貰うのに。正確にはあなたの寿命を貰うの。それがどれくらいになるかは終わってみないとわからないけどね」
「は?寿命?貰う?悪魔かなにか?」
「別に悪魔ではないけれど。考えてもみなさい?汽車が空を飛んで、違う星にまで行くのよ。普通の汽車じゃないのに、普通の燃料では動けないのも道理じゃない?」
「まぁ、そうかもしれないけど・・・」
「あぁそれと、あまり長く行くと、寿命が無くなっちゃうかもしれないし、行く星は一つか二つのほうがいいわよ」
「え?寿命無くなることあるの?」
「あるわよ。あんまり起きたことないから、調子に乗ってあちこち行ったりしなければ大丈夫よ」
「それなら、いいのか・・・?」
「じゃあほら、細かいことは置いといて、席に座りなさい。たまに揺れることがあるからね」
そうして奇妙なお姉さんと奇妙な列車に乗っての小旅行が始まった。
「あ、ちょっと待ちなさい。今何時だと思ってるの?」
ばたんとドアを閉じる。そしてさっそく当てが無くなり、ふらふらと散歩を始める。母親とは妙にそりが合わない。実は継母だと言われても納得がいくくらいには性格が合わない。ちょっと気づくのが遅かったとか、出てくるのが遅くなったとか、そんな些細なことでいつも喧嘩をしてしまう。今日もまた喧嘩をしてその勢いで家を飛び出す。些細なことに対する些細な小言なのだから、受け流せればいいのだろうとは思う。でも受け流せず、言い返し喧嘩になる。思春期なのか母親譲りなのか、きっと母親譲りの短気だとは思う。空はカラッとしたいい天気で雨も降っていないし、寒くもない。こんな天気だと逆にどこに行こうか迷ってしまう。
歩いていると、いつの間にか懐かしい公園に辿り着く。思い出を懐かしむには夜が更けすぎているし暗すぎるが、多少思い出すにはここに来たという事実だけで十分だ。数々の懐かしい遊具に、久しぶりに遊びたいという欲求が頭をよぎるが高校生の身ではブランコもシーソーも大きすぎる。ふと小さい頃のことを思い出す。まだ幼稚園に入るか入らないかの頃、この公園によく母親と来ていた。それなりに人がいて、遊具や丘ちょっとした木々などがあってこどもの遊び場として最適だったんだろう。昔好きだった丘に座って、また少しだけ思い出す。確か、ここで行方不明になった人がいたはずだ。綺麗な黒髪ですらっとした体型でよく子供と遊んでいた。自分もたしか一緒になって遊んでいたはずだ。そう、確かあんな感じの美人だったはずだ。え?
「こんにちは。坊や、こんなところでなにしているの?」
「え?いや、ちょっと親と喧嘩しちゃって」
「あらそうなの?私でよければ話聞きましょうか?」
「え?いや、でも・・・」
「誰かに話すと気分が楽になるのよ。今の君は随分とひどい顔をしているわ」
どう見ても不審者だが全身から香る母性にあらがえず、話してしまう。
「そんなにお母さんとそりが合わないの?」
「そうですよ、まったく。いつもいつもぐちぐちと絡んできて、うっとしいにもほどがある。もうちょっと言い方とか考えてほしいもんですよ全く」
「ふふ。君の不満はよくわかったわ。あんまりストレスをためるのは身体に悪いし、ちょっと発散していかない?」
「え?」
ストレス発散ていうと・・・。いやまさか、そんなマンガみたいなこと、いやでもな・・・。
「あ、エッチなこと考えてるでしょ。エッチな顔してる」
この暗闇でよく顔が見えるなと思っていると、彼女は続けた。
「残念ながらエッチなことではないけど、君にすごい体験をさせて上げられるわ」
「すごい体験?」
「そう、すごい体験。ちょっと見ててね」
そうして彼女は虚空を見つめて、早口で何かを唱えながら祈り始めた。唱えたといってもなにを言っているかはわからないし、手の形が祈っているように見えただけだけど。見ていると、どこからか汽車の音が聞こえてくる。最近では古いドラマなんかでしか聞かないあの音だ。沸騰したやかんから聞こえてくるあの音とともに大きな列車がやってきて空中で止まった。あまりにも理解の及ばない状況にフリーズしていると列車のドアが開き、タラップが下りてくる。彼女の手にひかれるままに列車に乗り込むと、そのままドアが閉まる。聞くことはたくさんあるが状況がそれを許さない。
「さ、坊や。ちょっとした小旅行に行きましょうか」
「え、でも。お金も切符もないんですけど」
焦って今聞く質問じゃないことを聞いた気がするけど大事なとこだよね、たぶん。
「この列車はお金も切符もいらないわ。かわりにあなたの時間を貰うの」
「時間?それってどういうことなんですか?」
「もう乗っちゃったんだからその説明は後でやるわ。ほら、もう地面があんな遠くに行っちゃった」
その言葉に驚き、窓に飛びつく。さっきまでいたあの丘がどんどん遠くなっていく。飛行機に乗って滑走路を見るときにとは全く違う。窓も薄く、なにより外との距離が近い。どんどんと空に上がっていく。飛行機のようなあの身体が押さえつけられる感覚もなく、空に上がっていく。さっきまでいた街が小さくなっていく。街の光が小さくなっていくにつれて今度は空が近くなっていく。プラネタリウムでしか見たことのないような満天の星空が視界いっぱいに広がる。しばし、その光景に目を奪われる。
「で、時間を貰うってのはどういうことなんですか?」
「文字通りよ。あなたから時間を貰うのに。正確にはあなたの寿命を貰うの。それがどれくらいになるかは終わってみないとわからないけどね」
「は?寿命?貰う?悪魔かなにか?」
「別に悪魔ではないけれど。考えてもみなさい?汽車が空を飛んで、違う星にまで行くのよ。普通の汽車じゃないのに、普通の燃料では動けないのも道理じゃない?」
「まぁ、そうかもしれないけど・・・」
「あぁそれと、あまり長く行くと、寿命が無くなっちゃうかもしれないし、行く星は一つか二つのほうがいいわよ」
「え?寿命無くなることあるの?」
「あるわよ。あんまり起きたことないから、調子に乗ってあちこち行ったりしなければ大丈夫よ」
「それなら、いいのか・・・?」
「じゃあほら、細かいことは置いといて、席に座りなさい。たまに揺れることがあるからね」
そうして奇妙なお姉さんと奇妙な列車に乗っての小旅行が始まった。
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