最低。最悪。大嫌い。

神谷 愛

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大嫌い。

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「今日、ここ」
 思わず送ったメッセージに後悔が追いつく頃にはもう既読のマークがついていた。後悔先に立たず、南無。送った住所は家の近くのコンビニ。返事はすぐだった。
「七時以降ぐらいなら」
 家族サービスをしているはずなのに、夕飯時に来られるらしい。父親をちゃんとしているのか、不安になる。呼び出した側が言う言葉ではないだろうが。
 休みは家にいることが多い。今日はなんとなくの気まぐれで街まで出かけた。本当に偶然だった。街を歩いているアイツの家族を見てしまった。妻と子供と仲睦まじく歩いているアイツは欠けたることのない満月のような笑顔だった。少なくともいやいや家族と出かけているようには見えなかった。それが、本当に、心の底から、癇に障った。言うことを聞くとは思っていなかった。少し困らせて、今度それを口実にでも使おうとか、そんな程度だった。でも返事はすぐで、しかも夜の帳が下りきる前に来るときたものだから、本当に後悔と驚愕で胸が詰まった。

「来るとは思ってなかったよ」
「呼んだのはお前なんだけど」
「まあ、それも、そうだな」
「んだよ、歯切れ悪いな」
 コイツはきっと見られたことを知らない。それならもっと何か言うだろうし、悪態をつくだろうし。そんな考えがぐるぐると頭を巡る。だからこそ、言うべきではなかった、と思う。それでも後悔は先に立つほど優しくも空気も読まない。
「今日は家族サービスの日じゃないのか」
「・・・見てたのか」
「偶然な」
「別に途中で切り上げたわけじゃねぇよ。もともと夜には家にいる予定だったしな」
 そんな嘘か本当かもわからない言葉をそのまま信じるしか俺には無い。当然だ、例え嘘だったとしてどの面下げて責めたてるというのか。
「・・・そうか。まあいいや、こっち」
「どこ行くんだ。ここ住宅地だろう」
「わかってるだろ」
「ふん」
 微妙に何を言えばいいのかわからないまま家までの道を歩く。いつものスーツとは違う、どこかラフであまり見たことのない恰好だ。
「最近、ってわけでもないんだけど。嫁とはそもそもうまくいってないんだ」
「・・・」
「ほとんどデキ婚だったしな。子供が生まれてすぐは少し良くなったけど、やっぱり駄目だった。子供の前じゃなきゃ話すことすらないよ」
「ふぅん」
「最近は拍車がかかってきてな、ほとんど他人だよ。一緒に暮らしてるだけのな」
「だから、俺のせいだって?」
「それもある。でもなるべくしてって感じだからな。別にお前のせいでは、ないかな」
 少しだけ胸が軽くなった。今さらだが俺のせいで家庭がダメになったとか言われたらもう償う方法すら思いつかない。俺とシて多少なりともコイツの心が軽くなるのらそれでもいい、嫌われるよりはマシだ。最近は前よりもずっと物腰が柔らかくなった、ような気する。
「なっ」
 家について玄関に上げた瞬間、コイツに唇を奪われていた。今までそんなことは無かった。無理やりされて嫌々しながら最終的に諦めるのがずっとだった。でも、今、目の前にはいつもの俺のように唇を奪ったアイツがいた。
「家のことはお前のせいじゃないって言ったな」
「そうだな」
「でも、俺のことはお前のせいだ」
「は?」
 何を言っているのか理解できなかった。その二つは同義だと思うのだが。言い返す言葉も思いつかず、二の句を待つ。アイツの耳は今までに見たことがないぐらい赤くなっていて、まるであの日を思い返しているかのようだった。


「お前のことを三年も好きだった。入学式で一目ぼれして、それからずっとだ!!俺がどれだけお前のことを考えたか、お前は知らないだろうよ!それをあっさりと振られたんだぞ!」
「・・・」
「やっと忘れたつもりで、結婚して子供まで作ったのに!同窓会でも大丈夫だと思ったのに!お前のせいで、滅茶苦茶だ!」
「その・・・」
「お前は責任を取る義務がある。違うのか!こっちを見ろ!」
 気まずくて一瞬そらした目も、顔も、無理やり捕まえられて、アイツの顔を真正面から見る。熱に浮かれた意識じゃない、冷や水を浴びたような冷静な意識が脳内を巡る。
「わかったよ。自分で言ったんだ。後からやっぱりってのは無しだぞ」
「こっちのセリフだ」


「ん」
 浴室でするキスはいつもとは違ってアイツの積極性が段違いだった。向こうから入ってくる舌の温度もいつもよりも高いような気がする。互いに開いた目には互いの顔が映っている。自分がどんな顔をしているのか見たくなくて、はっきり見ないようにしておく。
「・・・足りねぇ」
「お前さ、」
 こちらの言葉なんて聞く気もない熱いキスが降ってくる。抱き合っている下半身に当たっているモノはいつもよりも硬くなっていて、既に濡れている。
「ぷはっ。初めてキスする高校生じゃないんだからよ」
「うるせぇ」
 やっと口を離したので肺が必死に酸素を取り込もうと頑張っている。それでもアイツはまだ尚、キスをしようとしてくる。
「落ち着けって」
「ひゃっ」
 完全に油断していたのかいつも乳首を抓った時とは違うかなり甘い声が漏れる。
「まだ始めてないのに、盛り上がりすぎ。まだベッドについてないぞ」
「はっ。じゃあ、ベッドに行ったら始めるのか?」
「当たり前じゃん。責任なんて言ったこと後悔させてやるよ」
 さっきまでの心配混じりの不安はコイツの姿を見ているといつの間にか霧消していて、それまでの時間を取り返すように気持ちが昂るのを感じる。今日だけは、絶対に気絶するまでやってやるという気持ちさえ湧いてくる。
「ちゃんと洗ったのかよ」
「当たり前だろ家で綺麗にしてきてるわ。ていうか毎回そうだろ」
「そりゃそうだ」
 ベッドに四つん這いになったアイツの尻にはしっかりと拡張されないと入らないであろう大きさのプラグがすっぽりと収まっている。微かに震える臀部は引き抜かれることを期待しているのか、それともこれから入れられることを期待しているのか。
「引き抜くぞ~」
「言わなくていい」
「カウントダウンは?」
「いらない」
 にべもなく断られたが、そう言いながらも耳はさっきよりも赤いし、期待に震える尻はさっきと変わらない。軽くプラグの先を叩けばびくりと大きく震える。辛うじて声だけは我慢しているが、それも限界がすぐに来るだろう。
 プラグの先をもってゆっくりと、ゆっくりと引き抜く。間違っても勢いで全部を抜いてしまったりしないようにゆっくりと少しづつ抜いていく。
「んぅ、んっ、ふっ」
 引き抜く長さが増えるほど我慢できる声も減っていく。もう吐息でごまかせる声ではないが、それでも我慢するつもりらしい。いじらしい姿は見るほどに愛おしい。そして同時に沸き上がるどうしようもなく膨らむ嗜虐心が止まらない。半分を超えたあたりでふと思いつき、そのまま一気に中に挿れなおす。
「お”っ、てっめっ」
 急に挿し戻された衝撃で涎も言葉も制御できなくなったらしい。こちらを潤んだ目で睨みつけてくる。普通に睨んでもさして怖くもない顔立ちなのに、頬を赤らめながら、涎を零しながら言われても余計に興奮するだけなのだが、本人的にはちゃんと凄んでいるつもりらしい。
「悪い悪い、じゃあ抜くな」
「ゆっくり抜けよ、ゆっくり、う”う”っ」
「もう抜いちゃった」
「・・・」
 言葉を待つつもりは無かったので何も言わずに全部入っていたプラグを纏めてすべてを引き抜く。準備が出来ていなかったのか、引き抜いた衝撃で腰でも抜けたのか、枕に顔を突っ伏して息を荒げている。息が整うのを待つべきなのだろうが。こちらに向けて突き上げた尻と、ぽっかりと開いた準備万端の穴を見ていると我慢の限界なんてあってないようなものだ。

「んん”」
 結局声をかける余裕もなく、ぽっかりと開いた穴に自分でも驚くほど硬く服らんだモノを入れ込む。今まで何回も入った穴だ。もはや自分専用だと胸を張って言えるほどには使い込まれた穴はいつもの通り、のはずだった。
「うわ。すご」
 いつもとは明らかに違う密度でうねる中は絶対に絞るまで離さないという強い意志すら感じる。奥まで入れるまでもない。うねる腸壁は奥の奥までノンストップで運んでしまう。
「・・・すごいじゃん。ヤる気が過去一」
「・・・偶には、いい、だろ。早く」
「はいはい。そんな急かさなくてもちゃんとやるって」
 うねるままに奥まで突き込んだ後はそのまま激しく突く、のではなくそのまま慣らすように動きを止めながらたまに揺らす。
「あっ、んっ」
 ゆっくりとした揺れはさっきまでのうねりが段々と収め、逆にねっとりと絡みついて隙間をなくすように締まっていく。ゆっくりとした感触を味わいながら空きの手でさっき弄ったきりだった乳首を触る。ビンビンになったままの先端を指の腹でゆっくりと転がす。自分のと比べると全く大きさが違うことがわかる。明らかに尖って大きさも倍以上あるような気がする。ここまで大きくしたのは自分だ思うと、独占欲と所有欲が満たされていく。別にそんなことをしなくてもずっと心まで自分のものだというのに。
「動かしてもいい?」
「聞、くなってぇ」
「聞きたいんだよ。ほら、好きに甘えてみせろって」
「・・・」
「ほら、抜いちゃうよ?」
「や、やめ、触りながら揺らすなってぇ」
「・・・」
「わかった、から、わかったって。・・・お願い、します。激しくして、くだ、ください・・・」
「・・・」
「な、なんか、言え、んひぃい!!」
 思わず腰を大きく動かしていた。何か言おうとは思っていた。からかう言葉の一つぐらいは考えていたはずなのに、そんなものはすぐに吹き飛び、腰を動かすだけで精一杯だった。
「やめ、な、なんか、あんっ」
 さっきの甘えた声の余韻は未だに消えずに脳の中で反響を繰り返す。反響が反響して消える気配はない。激しくしてほしい、という言葉だけは辛うじて理解できたのでいつもより強めに腰を動かす。肉がぶつかる音はいつもよりもずっと強く、明日になっても腫れが残りそうだ、お互いに。
「ごめん、もう無理、出そう」
「俺も、もう、イくから。一緒に・・・」
「いいよ、ねえ」
「な、んっ、なにっ」
「ゴムしてないじゃん。このまま出したら孕む?」
「は、出来ないだろ。俺の穴が気持ち良すぎたか?んぅっ」
「余計なこと言わなくてもいい、孕むの、孕まないの?」
「何を、せめて、一回、腰、止めてぇ」
「止めない、孕むの、孕まないの」
「わかった、わかったって、孕む、孕むから、中に、出し、てぇ」
 言質が取れた。言った言葉は戻らないし、言われた言葉も戻らない。ただその事実だけがそこに残って、残った事実は今までコイツと過ごした全ての時間の中で一番の充足感を溢れさせた。
「お前は、今までも、これからも、ずっと、俺のものだ。だから、孕むんだろう?」
「・・・」
 浅い呼吸はもう言葉が届いているのかも分からない。それでもこちらに流れている目を見る限り伝わっているような、気はする。どちらでも、いい、どっちでも、いいんだけど。







 熱は冷める。火種があれば、酸素があれば、また煌々とその灯を燃やす。それでも醒めるのだ。冷めた後に残る灰と燃え滓を一度は見つめなければいけないのだ。

 寝ているアイツを置いておいて、顔を洗いに行く。顔を洗おうとして鏡を見る。思わずまじまじと見てしまった。そこには、紛うことなく、他人の人生を破壊した男が、罰を受けることもなくのうのうと生きている姿が。
「・・・っ」
 思わず鏡に拳を叩き込んでいた。割れた鏡で切れた手からは血が滴っている。赤くて、熱い、外道の血が。流石に大きな音で目が覚めたらしいアイツがこちらにやってくる。
「何やって、うわ。どうしたんだ、っていうか大丈夫か」
「足が滑った。やっぱりいい歳してやりすぎたな。腰が笑ってら」
「まぁ、俺もそうだが」
「なあ」
「あん?」
「俺のこと、好きなのか?」
 どんな返事であっても受け入れるつもりだった。でも、アイツは、何の邪気もない笑顔で、詰まることも考えることもなく言い切った。
「はっ。大嫌いに決まってるだろ」
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