双子山女子高等学校

神谷 愛

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飼い猫は言うことを聞く、聞かないこともある

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「ただいま」
 なんだかどっと疲れたような気がする。学校に行ったと言っても、教室には行っていないし、委員長とギャルに手を出していただけなんだけど。さて、見ないようにしていたけど、けっこう大きな問題が残っている。逃げたところでまた明日の朝に詰められるだけなんだけど、でも逃げてえしまいたいのは人の性だ。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「あ、うん」
「お母さまがお呼びです。逃げたらわかっているでしょうね、とのことです」
「・・・それ、聞かなかったことにできたりしない?」
「難しいかと、そこにいますし」
 すぐそこにあるリビングの中にいるらしい母の気配はさっきからしていた。絶対に面倒くさいと思って遅く帰ってきたことが裏目に出たらしい。理事長なんだから仕事に追われていればいいのに。
「ただいま」
「おかえり。今日は学校であなたに会った気がしたんだけど」
「・・・急に気分悪くなっちゃって外で休んでたんだよね」
「ふーん」
「・・・」
「ふーん」
「いや、本当だって。外でうろうろしてたら治ったから帰って来たんだって」
「まあ、そういうことにしてもいいけど」
 絶対にばれてる。というか絶対にクラスに行かなかったことからたぶんばれてる。まだ担任には会っていないけど流石にいなかったら報告しているだろうし、その報告は絶対に母に行っている。母は多少過保護気味なのでそういう報告は絶対に受け取っているはずだし、たぶんそれを受けて、あの時の空き教室に誰かが、たぶん教師が来たのだろうから。
「とりあえずごはん食べたら?」
「あ、うん」
 ちょっと気まずいけど、机に就く。ごはんはいつも通り美味しかった。・・・若干だけど、母の視線に棘があったような気がしたけど、たぶん気のせい、たぶん。
「それで、セフレは出来そうなの?」
「まー、なんとかなるんじゃない?」
「あの委員長には手出したんでしょ?なんか顔が真っ赤で教室に帰って来たって聞いたけど」
「なんでそんなことまで知ってるのさ。手は出したけど、最後まではシてないよ。前戯だけ」
「あら、そうなの。早く唾つけとかないと、ああいうのはすぐに悪い先輩に手を出されるわよ」
 嫌なことを言う。確かによく見れば綺麗、というよりも性的な体をしているし、目立たない感じが好きな人もいるだろう。というか、今先輩って言った気がする。
「やっぱり女子高だと女子同士の恋愛が多いの?」
「多いんじゃない?他の学校に詳しいわけじゃないけど。セフレもカップルも見かけるわよ」
「カップルはともかく、セフレって見てわかるの?」
「何となくね。現場を押さえたこともあるし」
 この人のことだから、最初から知っているうえで泳がせて、最後に致そうとした時点で部屋に入るなんてことをしかねない。そしてどっちも手籠めにしていそうだ。
「何?」
 私のいぶかし気な視線に気づいたのか、不思議そうな顔を向ける。これ以上喋っていると余計なことまで言ってしまいそうだったので、早々に部屋に帰ることにした。
「じゃ、ごちそうさま」
「あら、早いのね。明日はちゃんと授業出なさいよ。理事長の娘だってそこまで勝手はさせないんだからね」
「はいはい」


「ふぅ、猫山さん、いる?」
「ここに」
 いつの間にか私の部屋のドアの横にいた猫山さんを呼ぶ。わざわざ呼ぶ理由なんてそう多くはない。それに今はシャワーも浴びた。さっき夕飯も済ませた。もうすることは無い。それならすることも一つしかない。
「よいしょっと」
 ふわふわの猫山さんの体に抱き着く。しっかりとした体、でも太っているわけでもなくしっかりとバランスよく肉と筋肉がついている感じ。何か既視感があると思ったら委員長ちゃんだ、確かに委員長ちゃんは猫山さんと体の感じが似ている。流石に猫山さんのほうが整ってはいるけど。それでも、なんだか委員長ちゃんが心に残る。未だに名前も聞いていない彼女のことが妙に気になってしょうがない。
「お嬢様?」
「ううん、こっち来て」
 猫山さんと一緒にベッドに飛び込む。一緒に、というか無理やり一緒に飛び込ませただけだけど。真っ白なシーツの海の中で、猫山さんと二人きり、よくあることだけど、なんか物足りない。猫山さんと委員長が似ている部分が多いせいでなんだか妙に重ね合わせてしまう。
「お嬢様」
「んんんーーーー」
 急に覆い被さるように口を塞がれる。急なことで対応することもできずに、ひたすらに為されるがままに唇を奪われ続ける。全く抵抗の意思を抱かせないままに吸われ続ける。
 唾液を吸われるかのように舌が絡まる。舌を通じて彼女との体液が交換がされていく。ただ舌が絡まる、唾液が伝う、それだけの、それだけの行為が私の動悸を激しくさせる。いきなりだったので思わず閉じた瞼を開ける。
 そこには目を開いて私を見つめる彼女の顔があった。顔がある、なんて言えるほど彼女のとの距離は離れていないけど、彼女の瞳に私の顔が映っている。相変わらずわかりづらい顔で私の唾液を搾り取ろうとしている。強く吸われると呼吸がしづらくて、酸欠気味になる。でもその感じが妙に気持ちがよくて、思わずうっとりしそうになる。彼女だから安心しているというのもあるだろうが。
「はぁっ」
 私の眼が溶ける前に彼女の唇が離れる。やっと酸素が配給された脳が今さらながらに快感をリフレインする。脳に反響する快感が跳ねて跳ねて跳ねまわる。
「猫山さん、どうしたっ、の?」
 彼女の手が急に私の股間に伸びる。あれだけ密着していれば私の体が反応していることもまるわかりだろうが、何も言わずにここまで攻め立てるのも珍しい。何か嫌なことがあったのだろうか。彼女は私の専属花柳係だが、それ以前に私の姉的存在でも、世話係でもある。何かあれば力になりたいと思う程度には私は彼女のことが好きだ。
「朝にあれだけシたのに、ずいぶん元気のいいことですね」
 私の耳元で囁きながら下着の中に手を滑り込ませる。さっきから部屋着を膨らませているソレは彼女のほっそりとした指にあっさりと反応してびくりと震える。朝から数えて何回出したのか覚えていないが、あれだけシてもまだ尚彼女の手で反応してしまう。我ながら呆れる性欲の強さだ。
 部屋着の中でする水音が聞こえてくる。キスで復活した性欲はまだ発散する相手を探して、涎をこぼしている。それを潤滑油に彼女の手が一層激しく動く。
「猫山さん、待って、部屋着、汚れちゃうから・・・」
「そんなこと今まで気にしたことないでしょう?今さら何を言っているんですか」
 少し低めの彼女の声が囁くようにしゃべっていることも加え、官能的に体に響く。触らずとも胸の先が固くなっていることがわかる。
「学校でずいぶんとお楽しみだったようですけど」
「え?」
「私がどれだけお嬢様の相手をしていると?触ればなんとなくわかりますよ」
 撫でるように、焦らすように、優しく、軽く、指が滑る。それだけで限界がせり上がってくる。ぞくりとした快感とぞわりとした射精感が全身を走る。激しく動かされたわけでもない、強く握られたわけでもない。それでも今日一日の中の最短で出る、はずだった。
「え、猫山さん」
「まだ、ダメ」
 発射寸前で止められた欲はどうしようもなく中空に浮く。そんな私の困った顔を見ながら軽くキスをされる。私の顔を見ながら言葉を紡ぐ。
「お嬢様、私の名前は?」
「え?」
「名前で呼んだこと無いですよね」
「それは、そうかも、でも」
「いいから、名前で呼んでくれないなら続きはしてあげません」
「急にどうしたの?」
「・・・」
 そういって無言で私のことを見つめる。これ以上の問答はしないと言外で伝えてくる。その頬は少しだけ赤くて、少しだけ少しだけ膨らんでいる、ような気がした。
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