双子山女子高等学校

神谷 愛

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ギャルとの慌ただしい朝

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 委員長を宥めて私は保健室に行ったことにしてもらって、教室まで先に帰した後、さてどうしようか、と考える羽目になった。委員長は大丈夫な気がする、でも不安だ。母はセフレを作れと言った。それは達成した、早々に、そう本当に早々に達成した。簡単すぎやしないだろうか。委員長ちゃんが母の差し金ではないとどうして言い切れる。母は私と同じかそれ以上に女が好きだ。入学早々、どころか入学前に落とした女生徒を刺客に使ったとしても何の疑問もない。あとから母にさぁどうだ、見せに行って間抜けを晒すのは勘弁したい。あほ面を晒すだけならまだいい、猫山を、私の専属花柳係を取られることだけは避けなければいけない。どうすれば良いのか、と考えながら歩く。つい昇降口まで来てしまった。別にまだ帰る気はないんだけど、そしたら目の前にだいぶおどおどとした生徒が現れた。
「あ」
 目が合って思わず声が漏れる。や、別になにも悪いことはしていないんだけど。オリエンテーションをさぼるのは悪いうちには、多分、入らないだろう。向こうも入学初日から遅刻をかましてしまったことを恥ずかしく思っているのか、耳が真っ赤になっている。
「あの、私、1-2の義元っていうんですけど・・・」
 ・・・そういえば、私のクラスも1-2だったはずだ。ということはこの遅刻してきたギャルは私と同じクラスということだ。初日から二人が風邪でもないのに、少なくとも空席が二つあるということだ。先生は大変そうだ。
 と、そこまで考えてふと思う。一人ならばもしかして母の送った刺客の可能性がある。でも二人なら?三人なら?そうやって何人もいれば、大丈夫なのではないだろうか。そう簡単な話ではないだろう、でも母は言っていた。「ここにいるのはそれなりに我が家の支配下にある子しかいない」と。それはつまり十分すぎる下地があるということだ、私の苗字にそんな使い方が生まれるとは思っていなかった。誰と話しても妙な遠慮も、遊びに連れてくるにも一々驚かれる面倒な家にもこんな使い方があったとは。
「・・・?」
 返事をすることもなく、思案に沈んでいる私を不思議そうな顔で見ている。しっかりと染められた金髪はどこから見ても立派なギャルだった。入学式ということで綺麗に着ている制服もどこか窮屈そうで、胸元は今にも弾けそうなほど張っている。ブレザーに隠れてはいるが、学校に来るまでの間に一体何人の視線に晒されたのだろうか。そう思うと、無性にその服を脱がしたくなる。
「あ、ごめん、私も同じクラスなの。双山です、よろしく」
「そうなんだ!ん、双山?双山ってあの?」
 少し驚いた顔と、若干の逡巡。何回も見たことのある顔、まるで私ではなく後ろの看板を見ているような顔。さっきまでの気持ちがなんとなく萎んでいこうとしているのを感じる。

どうするべきか、適当にあしらって逃げるのか?
でもこの苗字がある限りずっとこの反応だ。今ここで逃げたとして他にセフレが作れることなんてあるのか、いやない。絶対に無い。つまりここでこのギャル、いや義元を落とせばきっとこの気持ちもどうにかなるはずだ。

「よし」
「え?何が?」
「ううん、どうせこのままじゃ遅刻だし、風邪ひいたことにすればいいよ。寝込んでたって言えばなんとかなるし、何なら私からも言っておくから」
「うーん、でも悪いし・・・」
 意外と強情だ。もしかしてギャルなのは見た目だけなのだろうか。真面目ギャル、うん、良い響きだ。なんか興奮してくる気もする。さっき十分以上に発散したはずなのに、興奮したときの動悸が止まらない。
「だーいじょうぶ!!理事長の娘のわがままさを舐めちゃだめだからね!!」
「・・・っふ」
「うん?」
「ふふっ、ふふふふ。あっははは!なにそれ!面白すぎでしょ、双山さん!」
 最初は手で押さえていた笑い声も直ぐに我慢が出来なくなって、静かな廊下に彼女の笑い声が響く。目立ってはよくないことに思い至ったのか、響くほどの笑い声もひそやかな笑い声に変わる。
「じゃあ、双山さんの好意に甘えようかな?宜しくね?」
「任せて!」
 と自信満々に言ったものの、私もここには初めて来るし、案内できるほど中に詳しいわけでもない。今から外に遊びに行ったところで目立ってしょうがないし、面倒なことになること必至だ。
「双山さんも、初めてなんでしょ?」
「え、まぁ、そうだけど」
「じゃあ、一緒に探検すればいいじゃん、どうせ、そのうち校内案内もするだろうし。先にやってもいいんじゃない?」
 確かに、そうだ。まだどこに都合のいい場所があるのかも把握していない。今後のことを考えるなら早急に見つけておかなければいけないし、何ならそこで義元さんを押すこともできるかもしれない。
「そういえば、義元さんって苗字?名前?」
「苗字だよ。義元が名前だったら男じゃん?」
「それもそっか。じゃあ、名前なんていうの?」
「里奈。よしもとりなって言うの。変わった苗字だよね」
「確かにあんまり聞かない苗字だね」
「そうなのよ、毎回説明するのも面倒だよ。流石にもう慣れたけどね」
 だいぶ辟易した顔は少しだけ私が思っていることに共通しているような気がして、少しだけ、隣を歩く彼女の方に少しだけ、寄った。ちょっとだけ、ちょっとだけ。
「「じゃあ、校内探検。れっつごー」」

 不良少女二人の静かな探検が始まった。
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