双子山女子高等学校

神谷 愛

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入学式の前の一悶着

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 学校側に指定されている時間よりもかなり早く、母に指定された時間ちょうどに学校につく。猫山とは一端離れ、理事長室に向かう。母に言われて別々になったけど、わざわざそんなことをするほど学校に人はいなかった。うちは地元ではそれなりに名の知れた家だけど、かと言って狙われたり、襲われたりするようなほどではない。掃除が行き届いたリノリウムの床は綺麗好きの母の性格が見えて、なんとなく居心地が悪い。いずれは慣れるとは思うけど、それまではこの床の上を歩かなければけないらしい。
 理事長室に近づくほどになんとなく足が重くなる。いや、別になにか悪いことをしたわけじゃない。でも、なんとなく、ああいう場所に向かうのは気が引けてしまう。やっと着いたけど何か意趣返しがしたくなってノックせずに理事長室に入る。
「ああ、おはよう。成美。こういう場所に入るならノックをしたほうがいいわよ」
「はいはい」
 目の前でパソコンを見ながら飲み物を啜っている母親は我ながら私によく似ている。いや、逆か。顔つきはよく似ているが長く切りそろえられた髪を丁寧にポニーに纏め、眼鏡をかけている姿は今の私とは別に似ていない。あと胸とか。まだ成長期だし、と自分に言い聞かせても中学の三年間で特段変わらなかった胸囲がそれを否定し始める。
「それで、なんで呼ばれたの?家じゃダメなの?」
「別にダメじゃないけど、ここのほうがわかりやすいから」
 何が、という言葉は内線で誰かを呼び始めた母に止められた。誰かを呼んでいる間に母の入れたコーヒーを飲む。ブラックだった、苦い。思わず出した舌を引っ込めるころ、呼ばれた人が来た。
「えっと、理事長。なんの用事ですか?」
 ドアを開けて入ってきたのはすらっとしてセーラー服を綺麗に着こなす、たしか、生徒会長とかだった、はず。身長の割に妙に気が弱そうな感じは、完全に母の好きそうな人だった。
「・・・」
 部屋にいる理事長に似た顔をしている私と何も言わないで見つめている理事長に戸惑っている様子が伝わってくる。高校生ってなんだかすごい大人だと思っていたんだけど意外とそうでもないのかもしれない。
「美玲、こっち来なさい」
「あ、はい」
 何の説明もしない、意見を聞くこともない、母の悪い癖だ。なんでも自分でやろうとしてしまう。美玲と呼ばれた人は不審そうな顔をしながらも反論などすることもなく机のところに行く。別に教師でも何でもないのに言うことを聞いてもらえるらしい。今更か。
「きゃっ」
「よく見なさい、成美。濡れてないでしょう?」
 何か言うこともなく、急に会長のスカートを持ち上げ、私に見せてくる。まぁ、染みができるほど濡れているわけではないのはわかるけど。
「ん」
 そのまま流れるように、彼女の口をしっかりと自分の唇で塞いでしまう。今思いついたような動きではない、まるでそうすることが当然とでも言うような動き。会長も驚きこそすれ拒否も何もない。為されるがままにその身を委ねている。というか肉親のキスがこれほどキツイとは思わなかった。なんか、家でももう少し気を付けようと思った。多分、出来れば、覚えていたら。
 どれぐらい時間が経ったのかはわからない、別に長い時間ではないとは思うけど。ちょっとばかし背中がゾワゾワとする時間だった。
「ほら」
 そういって母はまたスカートを持ち上げる。もう会長も声を上げない。というより、あげる気がもうなさそうな顔をしている。蕩けた顔と融けた理性が溶け込んだような眼は焦点が合っている感じはしないのに、どこを見ているかははっきりとわかる。
 スカートの中にある下着はさっきとは違うものを履いているのかと思うほど色が変わっていて、ぐっしょりと濡らした液体は下着だけでは吸いきれないのか、太ももまで垂れている。そんな彼女の様子を尻目に母は説明を始めた。
「猫山家は私達のための家。私達が気持ちよくなるために存在している家よ」
「は?」
「不思議に思ったことあるでしょ?なんで服を脱いだだけであそこまで濡れているのか。いつでも準備万端なのか」
「まぁ」
「そういうことよ。でもこの学校の生徒はそうじゃない。そこのところをよく理解しておくことね」
「何が言いたいの?」
「あなたももうそろそろ成人でしょ。そろそろ女の扱い方を教えておこうと思って。男はもう少し先かしら」
 何やらすごいことを言い始めた。多感な青春を迎えようとしている高校生の娘に言うことなのだろうか。確かに不思議には思っていたけど、今の説明で理解できた、わけではないけど、まぁそういうことなのだろう。
「とりあえずクラスの女子の一人でも自分のものにしなさい。ああ心配しなくてもいいわ。ここに通っているのはそれなりに我が家の支配下においている家の子しかいないから」
「つまり、多少強引にしてもいいってこと?」
「失敗はしょうがないけど、そんなことしたらあなたの花柳係は取り上げるからね」
 つまり、真面目にクラスの子を手籠めにしろということらしい。碌にやったことも知識もないのに、いったいどうやってすればいいのか見当もつかない。
「あ、違うわよ。別に心を落とせって言っているわけじゃなくて、体を落としなさいって言ってるの。要するにセフレにできればいいわ」
 我が母ながらドン引きだ。クラスにセフレを作るなんて、作るなんて、どうしよう、ちょっと興奮してきた。朝ちゃんと収めたはずの欲に熱が走り始める。
「さっきも言った通り、無理やり襲ったところで濡れないし、あんたに抱かれてもくれないわ。ちゃんと手順を踏んで手に入れなさい」
「・・・頑張ってみる」
「じゃ、早く教室に向かいなさい。私は今から美玲を使いたいから。見たいなら見てってもいいけど」
「いや、いいかな。教室行くね」
 キスでもちょっとあれなのに、母の行為を眺めるなんて冗談じゃない。それなら一人で収めたほうがずっとましだ。どうせ多少遅れたところで問題ないだろうし。

「お”っ」

 きっちりと閉めたはずのドアの向こうからさっき見た会長からは信じられないような低い声が聞こえてきた。最悪なことにその声が最後の背中を押して、完全に欲望に芯が入ってしまう。
 やっぱり見ていけばよかったと後悔した。ちょっとだけ、本当にちょっとだけだ。いや、本当に。
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