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A.私は・・・

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 彼からの連絡をもらってからもしばらく私は悩んでいた。私の願いは彼がいなければ叶えることはできない。それでも、勇気のない私にはなかなか行く勇気が出せずに考えてしまう。彼が居なければならない、でも行くのは怖い。それでも、それでも、彼は私を選んだ。それならば行った方がいいのかもしれない。答えの出ない問答が脳内でぐるぐると回っている。彼がこのメリーゴーランドを回したのならば、止めたのもまた彼だった。

「世界が終わる前にどうしても言いたくて」

 私は彼のもとに行くことにした。行先は学校。どのみち本当なら学校に行く時間で、準備もしていた。彼に会う特別な準備だけして私は学校へと向かった。意外と静かな通学路を通って学校に向かう。喧騒は街の方から聞こえてくるばかりでここらはむしろ静寂が支配していると言える。

 靴箱を覗いてみると意外や意外、ちょこちょこと上靴が減っている。今朝のニュースを知らないか、信じていないのか。まあ、明日で世界が終わります何て言われてはいそうですか、なんて言えるのは相当に少数派だろうし、自分でもここまですんなりと信じることが出来たのが不思議だ。普段は疑い深い方ですらあるのに。

「こっちこっち」

 時折、人の気配を感じる校舎の中を教室に向かう。そこには私を呼び出した張本人がいた。いや、呼び出したのだからいてもらわないと困るけど。誰もいない教室でいつも彼が座っている席で彼は笑う。

「ごめんね、呼び出して」
「ううん。どうしようかなって迷っちゃってたから、助かったかも」
「そっか、ならいいんだけど」

 微妙に気まずい会話は続くこともなく途切れる。それも当然と言えば当然だった。彼は今年に転校してきていて、私はそこまで関わっているわけでは無い。強いて言うならよく目が合っているが、それだけだ。本当にそれだけだ。

「世界、終わるんだってね」
「らしいね」

 何の意味もないただ空白を埋めるだけの会話はきっと塵よりも軽い。お互いに顔を合わせることもできないまま続ける会話はきっと積もることもないまま風に飛ばされる。

 彼が何を言いたいのか、わざわざこんな日に呼び出してまで言いたいことは大体は想像がつく。そんなことを言われても私としては困るばかりだが。

「ねえ」

 意を決したように声がかかる。無為に過ぎる時間が耐えられないのか、沈黙に等しい会話に嫌気がさしたのか。どちらでも同じことだけど。隣に座っている彼から伝わってくる熱に等しい視線はそろそろ私に穴を空けそうだ。

「何?」
「好きなんだ。こんな状況になって、って思うかもしれないけど。それでも伝えたくて。自分勝手でごめん」
「うん、本当にね」

 私はずっと隠し持っていた包丁を彼に向かって振りぬいた。意外とあっさりと振りぬけた包丁は私の制服を赤く汚した。どうせ消えてなくなるなら汚れていても関係ないだろう。

「な、なんで」

 赤い泡を飛ばしながら目を見開いている彼に向かって、私はどう説明すればいいのか困った。本当はそこに座るはずだった彼女の為に席を空けたかった、と言ってもきっと彼は理解できないだろう。

「もし、明日世界が終わるならどうしますか?」
「は?」
「やったことあるでしょ?世界が終わるならって質問」

 零れる命の量を増やして紡ぐ言葉がそれでもいいのかと聞きたいところだけど、質問には答えてあげないと流石に理不尽だろう。

「私は、人を殺します」

 空の赤さが朝よりも増しているような気がする。
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