青鬼さんは食べられたい

くうもす

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青鬼と恵方巻

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「柊くん、企画書を読んだが、これでは通せない」

戸惑う優斗を切長の冷たい目で一瞥し、上司はノートパソコンを片手で閉じた。

「やり直しだ。今日中に仕上げるように」
「か、課長、どこが悪かったかを具体的に……」
「自分で考えなさい」

上司はくるりと椅子を半回転させ、棚からファイルを取り出して開く。その精悍な横顔を見ながら優斗は小さくため息をついた。
どうやら自分の存在は、この冷徹な上司の意識から即刻締め出されてしまったようである。

とぼとぼと席に戻る優斗に、同僚や先輩社員が同情めいた視線を向ける。

「今日の青鬼は一段と冷えてるな」
「美形なだけに、あの無表情が尚更怖い」

冷徹非道で名高い青山課長。
上下関係に関わらず鋭い指摘を飛ばし、歯に着せぬ物言いでバッサリ切り捨てる。しかし、実力はピカイチ。斬新かつ無駄のない発想で三十そこそこの若さでありながら顧客件数はダントツ。

故に、誰も逆らえない。
我が部署に燦然と君臨するボスに付いた渾名は『青鬼』
眉ひとつ動かさず人を凍りつかせる、その攻撃名は「ブリザード」


だが……


「優ちゃん、思いっきりやって!」

優斗は、尻を突き出す男を呆れて見下ろした。

「毎年飽きないね~」

優斗が片手に掲げているのは四角い枡。
炒り豆がこんもりと盛られている。

「毎年節分を心待ちにしているんだよ。優ちゃんに豆をぶつけて貰えるなんて何て素敵な日だろう!」
「へぇそう、良かったね。はい、じゃあ行くよ~『鬼は~外~!』」

優斗は、豆を掴むと、パンツ一丁で四つん這いになる男へと投げつけた。小さな豆の粒が男の身体にぶつかり、パツパツと音を立てて跳ね散る。

「んあっ、最高だよ!!」

歓喜の声を上げる男を見て、優斗は苦笑いをする。

「青鬼が豆をぶつけられて喘いでると知ったら、みんなは卒倒するだろうなぁ」
「あれは仮の姿。本当の僕は優ちゃんしか知らないんだから」

切長の瞳を潤ませて頬を染める青鬼は、とても可愛らしい。優斗はゾクゾクと背中を震わせた。

そう、青山課長と優斗は幼なじみで恋人同士。
青山の性癖を知るのは、この世に優斗ただ一人。

優斗は豆をぶつけられ、白い肌を桃色に上気させた恋人に近付く。鋭利なラインを描く顎を掴み、上を向かせた。

「それで、この後はどうする?」
「いつものアレで。帰りに買ってきたから」

優斗は、テーブルに置かれたビニール袋を確かめ、ニンマリと笑う。

「恵方巻きを口に突っ込んだまま、俺のを挿れるんだっけ?」

青鬼は、はぁはぁと喘ぐ。

「改めて口に出して言われたら、興奮してきた」
「やらしいなぁ、このドMの青鬼は」
「はぁっ、優ちゃん、早く食べさせて!」
「ハイハイ」

優斗は袋から恵方巻きの入ったパックを取り出し、封を開ける。
そして、期待に目を蕩けさせ、大きな口を開けて待つ男に突き出した。堪えきれずに赤い舌が迎え出て、唾液が床に滴り落ちる。覗き込んだ股間は膨らみ、ボクサーパンツを押し上げていた。

優斗もまた、口の中にじわっと染み出る唾液を啜る。

恵方巻きを男の喉に押し込みながら、腰のベルトを片手で外す。焦れてもたつく手を懸命に操り、ズボンを下げた。
見下ろせば、口に恵方巻きを咥えながら優斗の滾るものを凝視する男がいる。

「鬼さん、パンツを下げて」

上擦った声で命じれば、年上の美しい男は、ふるふると身体を震わせながら腰に手をかけた。顕になる無防備な肌は、何度見ても優斗の欲を駆り立てる。

「床に背中をつけて脚を開いて。そう、良い子。俺の棍棒でグリグリしてあげる。いっぱい突いて虐めてあげるからね」

舌舐りをする優斗と、怯えた目で興奮する青鬼。
節分の夜は艶めかしく更けていく。


これが、彼らにとって恒例の節分行事である。


おしまい
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