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■連れて来られたものの■
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■連れて来られたものの■
「……」
ドン! と身構えるように目の前にあるのは、ありふれたマンションのドア。俺の家のドアじゃない。この部屋の家主は、俺の隣に立っている人物────加藤先輩。
あのまま俺は先輩から逃げることが出来ず、ズルズルと先輩の家について来た。(正しくは、連れて来られた)
当然ながら、先輩がドアノブに鍵を押し込んで、ギィッ……とドアが開いた。
「ただいま」
「……」
「水野、いらっしゃい。遠慮せず上がってくれ」
「お邪魔します……」
(先輩。誰もいないのに、ちゃんと「ただいま」って言うんだ)
そんなことを思ったのは、多分自分の緊張を和らげたいから。パチパチと部屋の電気がついてゆき、案内されたのはリビング。俺よりも少し部屋が広いくらいで、部屋数は大して変わらないように見える。
「これが給料の差かぁ……」
「そこか?」
今の部屋でも十分満足しているが、広い部屋はやっぱり良い。というか、何だか置いているものもお洒落で迂闊に座ることも躊躇する。
「立ったままも、きついだろ? 適当に上着を脱いで座れよ」
「良いんですか?」
「ああ」
座れと言われて、恐る恐るソファーの上に腰を下ろした。
「くつろいでいろ」
家主である加藤先輩にそういわれながら、背後でカチャカチャと食器を扱う音がする。俺は今、先輩にとってお客さんなんだと思えば、部屋に上がっていることと、お客さんなんだと理解して少しだけ畏まった。座っている足をくっつけて座るのは、卒業式以来だろうか。
「卒業式……」
いけない。ついうっかり、先輩の卒業式を思い出してしまった。あの日も、フラれた日と同じくらい泣いたっけ。
「水野、ミルクティーで良かったか?」
「わっ……!? 有難うございます」
一人で数秒感傷に浸っていれば、ヌッと隣から加藤先輩が現れた。上着を脱いでシャツかと思えば、ラフなスウェットに着替えている。何だか新鮮だ。食器の音がしている最中、一旦静かになったと思ったのはコレかと思いながら、湯気の立つマグカップを受け取った。コーヒーじゃなくて、ミルクティーなのが何だか先輩らしい。
数回フーッと息を吹きかけ、冷ます。もう良いかと一口飲めば、ビールの後に胃に優しくてホッとした。
「美味しい」
「メーカーのインスタントは裏切らないな」
うんうんと頷きながら、先輩が俺の隣に座る。流石に男二人がソファーに座るには狭く感じつつ暫しの沈黙。
(今さらながら、緊張してきた……。ヤバイ。俺今、先輩の部屋にいるんだ。先輩の家に来るの初めてだ)
ドッドッドッドッドッ。
(ドキンとかじゃないのかよ~! めちゃくちゃ俺緊張してるじゃん!)
漫画なんかであるドキン(キュン)なんて甘いのを想像したが、現実は違う。平静を装いながら、全然可愛くない音が鳴っている。
「……」
「…………」
「…………水野、こんな時に何なんだけどさ」
「はい」
「俺、やっぱり水野が好きだよ」
■連れて来られたものの■
******
どうしようか軽く詰んでます
「……」
ドン! と身構えるように目の前にあるのは、ありふれたマンションのドア。俺の家のドアじゃない。この部屋の家主は、俺の隣に立っている人物────加藤先輩。
あのまま俺は先輩から逃げることが出来ず、ズルズルと先輩の家について来た。(正しくは、連れて来られた)
当然ながら、先輩がドアノブに鍵を押し込んで、ギィッ……とドアが開いた。
「ただいま」
「……」
「水野、いらっしゃい。遠慮せず上がってくれ」
「お邪魔します……」
(先輩。誰もいないのに、ちゃんと「ただいま」って言うんだ)
そんなことを思ったのは、多分自分の緊張を和らげたいから。パチパチと部屋の電気がついてゆき、案内されたのはリビング。俺よりも少し部屋が広いくらいで、部屋数は大して変わらないように見える。
「これが給料の差かぁ……」
「そこか?」
今の部屋でも十分満足しているが、広い部屋はやっぱり良い。というか、何だか置いているものもお洒落で迂闊に座ることも躊躇する。
「立ったままも、きついだろ? 適当に上着を脱いで座れよ」
「良いんですか?」
「ああ」
座れと言われて、恐る恐るソファーの上に腰を下ろした。
「くつろいでいろ」
家主である加藤先輩にそういわれながら、背後でカチャカチャと食器を扱う音がする。俺は今、先輩にとってお客さんなんだと思えば、部屋に上がっていることと、お客さんなんだと理解して少しだけ畏まった。座っている足をくっつけて座るのは、卒業式以来だろうか。
「卒業式……」
いけない。ついうっかり、先輩の卒業式を思い出してしまった。あの日も、フラれた日と同じくらい泣いたっけ。
「水野、ミルクティーで良かったか?」
「わっ……!? 有難うございます」
一人で数秒感傷に浸っていれば、ヌッと隣から加藤先輩が現れた。上着を脱いでシャツかと思えば、ラフなスウェットに着替えている。何だか新鮮だ。食器の音がしている最中、一旦静かになったと思ったのはコレかと思いながら、湯気の立つマグカップを受け取った。コーヒーじゃなくて、ミルクティーなのが何だか先輩らしい。
数回フーッと息を吹きかけ、冷ます。もう良いかと一口飲めば、ビールの後に胃に優しくてホッとした。
「美味しい」
「メーカーのインスタントは裏切らないな」
うんうんと頷きながら、先輩が俺の隣に座る。流石に男二人がソファーに座るには狭く感じつつ暫しの沈黙。
(今さらながら、緊張してきた……。ヤバイ。俺今、先輩の部屋にいるんだ。先輩の家に来るの初めてだ)
ドッドッドッドッドッ。
(ドキンとかじゃないのかよ~! めちゃくちゃ俺緊張してるじゃん!)
漫画なんかであるドキン(キュン)なんて甘いのを想像したが、現実は違う。平静を装いながら、全然可愛くない音が鳴っている。
「……」
「…………」
「…………水野、こんな時に何なんだけどさ」
「はい」
「俺、やっぱり水野が好きだよ」
■連れて来られたものの■
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どうしようか軽く詰んでます
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※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
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