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■子供っぽかったのは俺の方だったようで■

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■子供っぽかったのは俺の方だったようで■

「水野」

「じゃあ、失礼します」

(本当に我儘だ。先輩は、そんな目で見れないって俺に言ったのに。今さら、こんなに好意を見せて)

会社での昼食中にしては、随分と重い空気を出したと今さらながら思う。それに、振り返ることもしなければ、立ち上った時にまともに先輩の顔も見ていなかった。あの時、先輩はどんな顔をしていたんだろう?

***

もやついた気持ちのまま、数日が経っていた。時間が経つのは、本当に早い。

(……それもそうか。俺だって、高校生だと思ってたら、気づいたら社会人になってたし。もうすぐしたら良いおじさんだもんな)

ぼんやりしながら、仕事をする手は止めず。先輩との会話は必要最低限にしながら、一日一日が過ぎていた。慣れって怖い。

「水野」

「はい、主任」

「水野」

「はい、主任」

二人きりになった時も、先輩とは呼ばず。虚勢を張るように「主任」と他人ではあるが、なお一層他人行儀に振る舞った。そうすれば、だんだんと先輩が俺に声を掛ける回数も減っていき。今では会話は数回。挨拶と、仕事の確認。営業回りでも、差しさわりの無い程度で終わり。それから、昼食もワザと時間をズラしたり、定時になればすぐに帰った。

(あー……加藤先輩のこと、子供っぽいなんて言えないじゃん)

「俺の方が子供っぽい」

ボソリと心の声が漏れるように呟いてしまったが、幸い隣は空席。加藤先輩は新規の獲得に躍起になるように、一人外へ出ていた。
そんな仕事中の先輩を他所に、今日も定時で上がろうとカタカタとキーボードを叩く。冬の日の入りは早い。窓に見える空は、もう暗かった。

タン! と指先でキーボードを弾く。もう上がろうと最後の数字を入力し終え、日報を書き終え。最後に終業の時間を入力すれば、あとは帰るだけ。変わらず空席の隣をチラリと見た後、身支度を整ええていればポンと肩を叩かれた。

「ひっ!」

「おいおい、人を化け物みたいに驚いてるんじゃねぇよ。俺だよ。俺、田中様だ!」

「田中さん……」

「田中様!」

「田中様」

「よーし、水野。今日は飲みに行くぞ!」

「え」

「行きましょ~!」

「え、山本さんも!?」

「「それ~~~~」」

田中さんの後ろから、山本さんも現れ。問答無用で俺は二人に連れ去られて行った。

「嫌だ~~! 俺は、酒は飲みたくな~~い!」

「水野君。飲み放題で予約してるから、飲まないと損だよ。あ、違った。飲まなくても田中さんの奢りだから損はないね」

「おう、だから安心して飲め! そして酔え!」

「ぜっっっったい嫌です!」


俺の抵抗も虚しく。帰りの電車に乗ることは無く、向かった先は個室の居酒屋だった。

*******

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