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■噂をすれば何とやら■

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■噂をすれば何とやら■

 気づけば、一年の季節はあっという間に過ぎていた。
春が過ぎ、外回りのスーツの汗染みが気になる夏を過ぎ、秋を過ぎ。俺が少し苦手な冬が近づいていた。

「はぁ~……暖房が効いている社内は最高ですね」

「水野、冬苦手だもんな」

「はい。寒いのが苦手なんです」

今日も俺は真面目に仕事。(偉い)きちんと仕事を終え、昼食を兼ねた休憩時間。タイミング良く昼食を食べるという田中さんと一緒に、俺も昼食を食べ終えたところだ。まだまだクリスマスまで遠いというのに、町中は明るいイルミネーションに包まれながらクリスマスを前面に出してきている。

(季節は変わってるけど、俺と加藤主任の関係は変わってないな…………当たり前か)

「クリスマスまでに、どうにかして彼女が欲しい……!」

くぅぅっ! と感情重めに訴える田中さんを見ながら、俺はいつも通り。昼食に節約も兼ねて握って来たおにぎりを食べるだけ。

「田中さん、モテてると思うんですけど? 俺が営業行くと田中さんは? と取引先の女性陣から大人気ですよ」

「え!? 何だそれ、初耳! どこ!? どこの取引先!!」

「ははっ……」

詳しく教えろ! と詰め寄って来た田中さんに「落ち着いて下さい」と言いながら、また一口おにぎりを口へと放り込んだ。

「俺は逆にイケメンの質問ばっかなんだけどなぁ」

「そうですか」

「なぁ、あのイケメンさ。本当に今も彼女いないのかよ? 仕事も出来るイケメンだぞ? 絶対おかしいだろ?」

そうですよね。俺もそう思います。
何て言葉は口から出ず。また俺以外の誰かが先輩の隣にいる想像をしたくなくて、自分でも意地悪だなと思うような。マウントを取るような言葉が出ていた。

「さぁ……。加藤主任、ああ見えて結構子供っぽいですよ? この前も駄々捏ねてましたし」

俺の前でだけだけど。

「何だぁ? 水野。お前だけが知ってるってやつ? 自慢かよ~」

「ぁ、ちがっ。そういうわけじゃ……!」

田中さんが、ニヤリと笑ってくれたから良かった。俺が田中さんの立場だったら、こんな風に言えない。

「水野はイケメンのこと、色々知ってるもんなぁ?」

「そういうわけじゃないです。田中さん、揶揄わないで下さいよ。ほら、お昼食べて下さい!」

「照れるなよ。全く、水野は可愛い後輩だなぁ~」

田中さんの彼女が欲しいという話から、逸れてしまった。話を軌道を、修正しなければ。やれやれと一瞬だ。一瞬だけ視線を逸らすように、目を閉じた時。俺と田中さんの間にも、もう聞き覚えのある声が響いた。


「ええ、そうですね。水野は可愛い後輩ですよね」


「お……っ、おお。イケメンじゃないか」

「せ……加藤主任……」

その手には、珍しく食堂でお昼を選んだのか。通勤鞄ではなく、ピンク色のトレーを手にした先輩が立っていた。

■噂をすれば何とやら■

(先輩、いつも間から現れ過ぎでは!?)

■噂をすれば何とやら■

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