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■持って無かったけれど■

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■持って無かったけれど■

 ふと、最近というか。自身の恋愛について冷静に考えてみた。
正直、加藤先輩にフラれ。まだ純粋だった頃に失恋してからというもの、次に別の誰かを好きに……という気持ちにならなかったのが、俺の気持ちのうえでは正しい。
多分、俺にとって人生最初にして、最大の恋。だから、そう……。例えば、今。俺の目の前で、田中さんが「聞いてくれよ、水野~」と加藤先輩の席に座って世間話をしているが特に「俺も!」と同意することが無かっただけなんだ。
そんな最中、話題が変わり。田中さんが「


「はぁ~。お前のところのイケメンは良いよなぁ。俺の得意先の奥さんも、イケメンのことが耳に入ったらしくて、写真無いの? って聞いてきたぞ」

どうやら、田中さん加藤先輩関係らしい。だが、別段。怒っているとか、困っているという様子ではない。それに、田中さんがこうソワソワしながら話すのは何か頼み事がある時だ。

「ははっ……。え、でも田中さんって、主任の写真持ってましたっけ?」

「持ってるわけないだろ! そこでだ、水野。お前に頼みにがある」

「はい」

「お前、あのイケメンの写真持ってないか?」

「しゃ゛っ……しん」

学生時代のなら、実は未だに持ってますねとは言えず。思わず狼狽えて変な声が出た。

(そういえば俺。今の先輩の写真持って無いな)

俺の言葉に、「意外!」と驚いた顔をした田中さん。

「そうなのか!? てっきり水野ならイケメンの写真持ってると思ったんだけどなぁ」

「残念。水野君が写真持ってたら、私も分けて欲しかったのに」

「山本さん!?」

俺の後ろから聞こえた声に振り返れば、山本さんが立っていた。

「お! 山本」

「お疲れ様です。私も目の保養に、主任の画像貰えたらと来たんですが……」

「水野、本当に持ってないのか?」

「そうよ、水野君。実は一枚、良い感じの写真とかあるんじゃないの?」

「ちょっ、無いです! 持ってないですよ!」

二人とも圧が凄い。思わず顔の前でガードするように、手で視線を遮った。

(誰か! 俺を助けて!!)

そう願った時、俺を助けてくれる人物が一人。


「お疲れ様です。水野を囲んで、どうしたんですか?」


「イケメン!」
「主任!」

「……!」

チラリと覆った手の間。指を左右に広げて盗み見ると、そこには加藤先輩が立っていた。どうしたと聞きながら、少しだけいつもより低い声。

「主任。二人とも、主任の写真が欲しいそうです」

「写真?」

「あー、そのっ。得意先回りで、イケメンの噂が広がってて顔が見たいって言われて……悪いとは思ったんだが、水野に写真が無いか聞いてたとこだったんだ」

「そうですか。水野」

「はいっ!?」

先輩が俺の名前を呼んだかと思えば、座っていた椅子を動かし。それから肩に先輩の手が触れた。

「田中さん、はい。携帯です。撮って下さい」

「え? あ、おう!」

「え?」


カシャッ。


「有難うございます。今の写真、送りますね」

「お、おう……」

「これで、俺と水野の可愛さも広めておいて下さい」

「な゛っ……!」

「行動もイケメン過ぎるだろ! 写真助かる! 有難う!」

「田中さん……」

「安心しろ、山本。送ってやる」

「有難うございます……!」

パクパクと口を動かす俺をよそに、田中さんと山本さんは満足したのか自分の席に戻って行った。残ったのは、俺と加藤先輩だけ。
チラリと先輩を見れば、何食わぬ顔をして先輩が言った。

「安心しろ、水野。お前にも写真送った」

「べ……つに、俺は欲しくは……」

ヴーッ、と振動した俺の携帯に、先輩が言った通り。撮ったばかりの写真が送られてき不覚にも喜んでしまった。

■持って無かったけれど■

(今の先輩の写真を、手に入れてしまった……!)

******
明けましておめでとうございます。
本年もお願いします
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