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■ヤワじゃないのは知ってるけど■
しおりを挟む■ヤワじゃないのは知ってるけど■
「悪い! 水野、これ持って行くの頼んでも良いか?」
両手をパンッ! と鳴らし、俺に頭を下げているのは田中さんだ。その隣にドン! 文字が見えるくらいの存在感を放っているのは、コピーされたチラシの山。小さな山ではなく、結構な厚みのある山。見るからに重そうだ。
田中さんには、いつも手伝って貰っているし、気にかけて貰っている。そんな田中さんが、俺にお願いだなんて……。そんなの、二つ返事で「はい」と言うに決まっている。
「はい、勿論良いですよ。田中さん」
「本当に悪いな、水野。コピーは終わったんだが、これから俺は出ないといけないし、コレを持って行く時間が無くて……」
「田中さん、外回りが多いですもんね。俺は今日何も入っていないので、大丈夫ですよ」
「重いのにごめんな。今度、何か奢るから!」
「気にしないで下さい、俺だって筋肉あるんで! 行ってらっしゃい」
本当に申し訳なさそうな顔をしながら、時間が無いのだろう。椅子に掛けていた上着を取って、急いで出て行った。
「……さて」
コピーの隣の小さなテーブルの山を、どう片付けようか。一つの山を細かくすれば、一回の重さは減るが往復する回数が増える。
「一回が重くっても回数が減るなら、一気に持って行こう」
上着を脱いで、軽装になり。ぐっ……、と机とチラシの間に指を差し込む。見かけ通りの重さ。腕に紙が食い込むし、気を抜けば腕が折れそうだ。
「お……っ゛も……!」
プルプルと腕は震えているが、何とか抱え終え。さぁ、目的の部屋まで行こうとすれば急に腕の荷物が軽くなった。
「持つ」
「加藤先輩」
俺の前に現れたのは、加藤先輩。外から戻って来たばかりなんだろう。チラリと先輩の机を見れば、カバンが適当に置かれ、椅子の上にも上着が二つ折りで掛けられていた。綺麗いに置かれていないところ見ると、すぐに手伝いに来てくれたんだろう。
「お疲れ様です」
「ああ、有難う」
「で? 先輩は何を……」
首を上下に動かせば、先輩が俺の腕からチラシの山を取って先程の机に戻している。また俺の腕は軽くなったが、残る山は大きい。その山を、「よいしょ」と掛け声を掛け持ち上げる先輩。
「持って行くんだろう? どこまでだ?」
「え、いや、いいですよ!? 加藤先輩、今帰って来たばかりじゃないですか」
「帰って来たばかりは、関係なくないか?」
「疲れてるでょ!」
「そんなの気にしなくて良い。ほら、持ったままもキツイだろ。早く場所を教えろ」
「1つ上の、会議室までです」
「分かった。よし、行くぞ」
俺の行き先を聞けば、すぐに出口に向かう先輩。明らかに先輩のチラシの山の方が大きい。
「加藤先輩」
「んー?」
「俺、そんなにヤワじゃないので、もう少し持てますけど」
「そうだな。でも、俺が多く持ちたいんだよ」
「それに急いで手伝ってくれなくても……」
「それも良いんだよ。困ってる人がいたら助けるのが、俺の中では当たり前なんだから」
「そ……うですか……」
俺が、か弱いというわけでなく。ヤワじゃないといえば、肯定してくれただけでも嬉しかった、それに、ただ困っているという理由だけで手伝ってくれた先輩の優しさは、昔と変わらないなと思う。こういう特別じゃない。加藤先輩は、ふとした時に当たり前のことを、当たり前に。さらっとする人なんだ。
「有難うございます。悔しいけど、恰好良いです」
「だろ?」
そう言えば、先輩が嬉しそうに俺の顔を見て笑った。
■ヤワじゃないのは知ってるけど■
田中さんには、加藤先輩にも手伝って貰いましたと言っておこう。何か奢ってくれるかもしれない。
******
ちょっと詰んだので、何か浮かぶまで更新止まります><
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