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■おにぎり1つ
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■おにぎり1つ
「……」
「……」
加藤先輩が転勤してきてから、なんだかんだで1か月が経った。
時間が過ぎるのは、あっという間だなとしみじみと思う。最初よりは、加藤先輩目当ての女性陣は少なくなったものの、何かあれば良く声を掛けられている。
俺は変わらず。節約のため、おにぎりとカップスープを持参しているし、先輩は変わらず「水野おにぎりが食べたい」と一か月言い続けている。それから、おにぎりを持参していなければ、一緒に昼食を取るようになっていた。
(先輩、言い出したら聞かないからな)
まるで、先輩の母親にでもなった気分だ。
「…………」
本当に。
チラリとパソコン画面の時計を見れば、12時を過ぎている。
一息入れるのにはちょうど良い頃合い。俺の腹だって減って来た。一人席を立って休憩するにはもってこいなのだが……。
(ぐぅぅう……おにぎりを……おにぎりを加藤先輩の分まで作ってきてしまった……!)
別に、先輩に食べて貰いたいとかじゃない。
米を冷凍しようにも、冷凍室が一杯だった。けれど冷蔵庫に入れるにも量が多過ぎる。結果、じゃあ多めにおにぎりを作るかとなっただけで、先輩へのお裾分け目的じゃない。
(かといって、どうやって渡すか。それに、先輩あんなに言っているが本当に俺の握ったおにぎりなんか食べたいのか? 人が握った米だぞ?)
「お先、休憩行ってきます」
「俺も行く」
「加藤先輩……」
俺がガタンと席を立てば、加藤先輩も席を立った。
「でも先輩、お昼持って来てるんですか?」
「カップ麺買って来た」
「そうですか」
机周りを片づけ、おにぎりの入った小さなバックを持って、別階の休憩スペースへ。時間帯的に先客がチラホラといた。
「あ! 加藤主任~。こんにちは~」
「水野く~ん!」
キャッキャと黄色い声と手を振られ、小さく会釈。
(うっ……これは渡しずらいな。先輩はカップ麺持って来てるって言ってたし、多めにつくったおにぎりが、俺が食べるか)
静かにバッグを握る右手に力が入った。
「席、どのあたりにしますか? 主任」
「人がいないところ」
「はいはい」
グルリと見渡せば、奥の壁際が空いていた。俺も静かに食べたいので、そこで良いかと脚を進める。俺が席について勝手に食事を取る準備をしていると、先輩は買って来たというカップ麺にお湯を注いで戻って来た。今度は変わるように、俺がカップスープにお湯を淹れに行く番。サーバーからお湯を入れていれていれば、「よぉ、水野。昼飯か?」と田中さんに声を掛けられた。
「田中さん、出張から戻って来たんですね」
「おうよ。は~ちょっと旅行気分は良いが、やっぱり移動は疲れるな~」
「お疲れ様です。田中さんもお昼ですか?」
「そうなんだが……」
ああ、そうだ。田中さんにおにぎりあげちゃえばいいんじゃないか?
「あの、田中さん」
「ん?」
お腹減ってるなら……と続く言葉は無く。
「水野。遅い」
ヌッ……と現れたのは、俺にしか分からない程度の少し機嫌の悪そうな加藤先輩だった。
*******
「……」
「……」
加藤先輩が転勤してきてから、なんだかんだで1か月が経った。
時間が過ぎるのは、あっという間だなとしみじみと思う。最初よりは、加藤先輩目当ての女性陣は少なくなったものの、何かあれば良く声を掛けられている。
俺は変わらず。節約のため、おにぎりとカップスープを持参しているし、先輩は変わらず「水野おにぎりが食べたい」と一か月言い続けている。それから、おにぎりを持参していなければ、一緒に昼食を取るようになっていた。
(先輩、言い出したら聞かないからな)
まるで、先輩の母親にでもなった気分だ。
「…………」
本当に。
チラリとパソコン画面の時計を見れば、12時を過ぎている。
一息入れるのにはちょうど良い頃合い。俺の腹だって減って来た。一人席を立って休憩するにはもってこいなのだが……。
(ぐぅぅう……おにぎりを……おにぎりを加藤先輩の分まで作ってきてしまった……!)
別に、先輩に食べて貰いたいとかじゃない。
米を冷凍しようにも、冷凍室が一杯だった。けれど冷蔵庫に入れるにも量が多過ぎる。結果、じゃあ多めにおにぎりを作るかとなっただけで、先輩へのお裾分け目的じゃない。
(かといって、どうやって渡すか。それに、先輩あんなに言っているが本当に俺の握ったおにぎりなんか食べたいのか? 人が握った米だぞ?)
「お先、休憩行ってきます」
「俺も行く」
「加藤先輩……」
俺がガタンと席を立てば、加藤先輩も席を立った。
「でも先輩、お昼持って来てるんですか?」
「カップ麺買って来た」
「そうですか」
机周りを片づけ、おにぎりの入った小さなバックを持って、別階の休憩スペースへ。時間帯的に先客がチラホラといた。
「あ! 加藤主任~。こんにちは~」
「水野く~ん!」
キャッキャと黄色い声と手を振られ、小さく会釈。
(うっ……これは渡しずらいな。先輩はカップ麺持って来てるって言ってたし、多めにつくったおにぎりが、俺が食べるか)
静かにバッグを握る右手に力が入った。
「席、どのあたりにしますか? 主任」
「人がいないところ」
「はいはい」
グルリと見渡せば、奥の壁際が空いていた。俺も静かに食べたいので、そこで良いかと脚を進める。俺が席について勝手に食事を取る準備をしていると、先輩は買って来たというカップ麺にお湯を注いで戻って来た。今度は変わるように、俺がカップスープにお湯を淹れに行く番。サーバーからお湯を入れていれていれば、「よぉ、水野。昼飯か?」と田中さんに声を掛けられた。
「田中さん、出張から戻って来たんですね」
「おうよ。は~ちょっと旅行気分は良いが、やっぱり移動は疲れるな~」
「お疲れ様です。田中さんもお昼ですか?」
「そうなんだが……」
ああ、そうだ。田中さんにおにぎりあげちゃえばいいんじゃないか?
「あの、田中さん」
「ん?」
お腹減ってるなら……と続く言葉は無く。
「水野。遅い」
ヌッ……と現れたのは、俺にしか分からない程度の少し機嫌の悪そうな加藤先輩だった。
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