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■会社にいつも通り来たものの

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■会社にいつも通り来たものの

 俺の名前は水野。年は25歳。大学を卒業し、大変な就職活動の荒波を乗り越え。無事に就職した。新人と呼ばれる頃も過ぎ、生まれたてのヒヨコから、一人歩きを始めたヒヨコに変わってきた頃。今日も満員電車との戦いを終え、職場という戦場へとやって来た俺。(偉い)

ちなみに独身。恋人なし。今までも恋人がいたことなんて無く、いわゆる童貞。この点を突かれると、何も言えない。よく見る30歳までに~なんて人が勝手に言い出したものに乗ってしまえば、俺はそのうち魔法使いになってしまう。
恋人が欲しいのか? と聞かれれば、特別欲しいわけでもない。今、結構充実しているし。自分の美を追求するのは楽しいし。うん。本当。

……なんて言いながら、未だに初恋の玉砕を夢に見るくらい引きずっているわけだけど。

「ぐぇっ」

苦しい満員電車から解放され、ピッと小さな電子音を鳴らしながら改札口を後にした。もくもくと会社へと向かいながら、珍しく今日は一人頭の中で考えるのは初恋の思い出。

(俺も若かったもんなぁ……)

高校デビューは特にないまま、入学した高校。少し人見知りのある性格もあり、静かな図書委員になった頃。同じく物静かな先輩に恋をした俺。トン……、と置かれた本は俺も好きな本だったし、よく借りに来る人だなぁくらいだったのに。

『なぁ、名前何て言うの?』

『へ?』

声のする方へ顔を上げれば、随分と整った顔がそこにはあったわけで。

『み……水野、です……』

『ふーん。俺、加藤。3年。水野は?』

『1年です』


(くっっっっそ顔が良かったんだよなぁぁぁぁぁ)

切れ長の瞳に、重めの黒髪。眠たそうな眼差しはどこか色っぽく、ドキッとしたのが最初。正直、本当に顔が良かったんだ。即座に、「あ。好き」と頭の中に浮かんだ文字に、ドキドキとした心臓。初恋の相手が、まさか同性の男だなんてと思ったが、恋っていつ始まるか分からない。可愛い女の子じゃなく、俺は目の前のイケメンに一目惚れ。

それから、気づけば先輩と親しい仲になっていた。(まぁ、ほぼ先輩が毎日遅くまで図書室にいただけだけど。)
図書室に誰もいなくなれば、先輩が声を掛け何気ない話をする。聞けば、先輩は帰宅部で何にも部活には入っておらず、本が好きだから図書室に来てるんだと。あと静かで図書室が好きらしい。

『先輩は、俺が当番の時以外にも図書室を利用するんですか?』

『んー? しないよ? 水野いないと、すぐに帰る』

そんなことを言われてしまえば、俺も期待をしてしまうわけで。だが、1年と3年では別れが当然やって来る。迷いに迷った1年の冬。俺は意を決して先輩に告白し、フラれた。

(あー、駄目だ。思い出すんじゃなかった。これから仕事だっつーのに)

考えるのを止めると、あっという間に会社についていた。
社員証をかざし、社内へ。「おはようございます」と挨拶をして、自身の机へ。今日は外回りというより、内勤だったなと思いながら準備をしていると社内が騒がしい。

「そうだった。今日は転勤で移動になった人が来る日だったっけ」

空いているのは俺の隣。スキルアップも兼ねて、俺とペアを組むようになっているらしい。緊張するなと思いながら、笑顔の練習。よし、可愛いぞ。俺。テキパキと準備をしていると、「皆、今日は新しい仲間を紹介するぞ」と声が聞こえ始めた。

「おーす、水野」

「おはようございます、田中さん」

先輩の一人である田中さんが、俺に声を掛け集まる場所へ行こうぜと指を指す。小さな人だかりの出来ている場所へ向かえば、女性陣の嬉しそうな声にイケメンが来たのかぁと思いつつ。どんな人だろう? と人の間から姿を見れば、ヒュッ……! と喉が締まる音がした。

(え、待って。凄く……見覚えのある顏……)

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