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■高一の冬の夢

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■高一の冬の夢


 『ごめん』


さぁっ……と聞こえた音は、風の音か。はたまた、俺の血の気が引く音か。「あ……」と小さく呟く俺に、もう一度「ごめん」とだけ聞こえる言葉に言わなきゃ良かったと心底後悔した。

『俺、そんな目でお前のこと見れない』

高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。

********

 「あー……、またこの夢か……」

ハッとして目を見開いた。視界の先には何の変哲もない壁、天井があるだけ。ムクリと身体を起こせば、母さんの声は聞こえない。おまけに壁に制服も掛かってない。先程までの鮮明な出来事が、過去のことだと知らせる。代わりに掛かっているのはスーツ。部屋だって一人暮らし。夢から覚めた現実は、俺の青い春はとうに過ぎたことを知らせているわけで。

「今日も仕事だ」

そう呟いて、ベッドから出て。シンクの側で、温めた食パンを食べる。その後は念入りに。顔を洗い、化粧水に乳液。乾燥はお肌の敵! しっかり朝も保湿する。何でかって? 俺が可愛くいたいから。理由はそれだけで十分。今の世の中、性別なんて関係なく自分がありたい姿でいた方が良い。それから髪を整え、歯を磨き。遅刻しないように準備して、俺も立派な社会人ってわけ。

「行ってきます」

玄関で挨拶しても、同棲している彼女もいない俺の部屋から「行ってらっしゃい」と聞こえる返事も無く。パタンとドアの鍵を閉めて、俺は今日も会社という戦場へ向かった。

「うっ……!」


ミチミチと肩を押しつぶされる毎日の満員電車。苦しいが、それはこの電車内の皆同じだから我慢する。皆戦場に向かう仲間だ。うんうん。皆、現実社会は過酷だか頑張ろうな! だけどやっぱり、正直苦しい。

(あー……)

電車の窓の向こうに、ビルが並ぶのを見ながら今朝の夢を思い出す。
自身の淡い初恋。見事に玉砕した初恋。自分でも驚いたが、自分の気持ちを否定することが出来なかった。相手は可愛い女の子ではなく────自身の同じ、同性の先輩に恋をした。

(未だに夢見るくらい好きなのかよ。俺)

もうきっと会うこともないのに。
フラれた後、彼女を作ることも無く終わった高校生活。おまけに、一周回って相手のせいではないのに、見返してやるとばかりに可愛くあろうと。綺麗であろうと努力を始め、今では自分でも可愛いと思う。逃がした魚は大きいぞと、どこか思っている俺がいる。
何て女々しい。それでいて、負けず嫌い。未練タラタラじゃないかと溜息をついたが、刹那「ぐぇっ」と密集した電車内でカエルのような声が漏れた。

(満員電車、つらぁぁぁ~~!)

この時の俺は、会社で何が待ち受けているかなんて当然知る由も無かった。

*******
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