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33】本当に来なくなった

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33】本当に来なくなった

 「じゃあ、先生。安心して下さい。明日から、もう顔を出さないんで」

久保君は、僕にそう言ってから、本当に来なくなった。ゆりちゃんは少し寂しそう。
最初の2,3日は普通だった。それが1週間を過ぎて、他の先生たちも「久保君、来なくなりましたねぇ……」と残念そうに僕に言った。

「やっぱり、高校生って忙しいでしょうね」

「そうですね」

「また久保君、来てくれるといいですね、水野先生」

「はは……そうですね……」

そうだ。久保君は、高校生なんだ。いつまでも、僕みたいなおじさんを相手にしている時間なんて無い。今しか出来ないことが沢山ある。勉強だって、遊びだって。それに……恋だって。僕なんかより、久保君は他の人と恋愛をした方が良いんだ。
でもチクリと胸は痛むもので。

(ならあんな風に、好きだと言われない方が良かった────)

「水野先生? どうしたの?」

「ああ、ゆりちゃん」

僕が下を向いていると、足元から声がした。「先生?」と見上げるゆりちゃんが、心配そうに僕を見上げている。駄目だ。僕は、この子たちの先生なんだ。ちゃんとしないと。

「大丈夫だよ。ちょっと何か落ちていないか、見ていただけなんだ」

ゆりちゃんは僕の顔を見た後、気持ちを見抜いたように言った。

「……先生。先生は、ゆりたちのお世話をしてくれている時は先生だけど、帰りの時間がきたら、先生じゃないんだよ? 先生も、ゆりたちに言っているでしょう? 無理しなくて良いんだよ」

「ゆりちゃん……」

本当は久保君に会いたいだろうに、久保君の名前を一言も出さないゆりちゃん。

「有難う。心配させちゃったね。僕は大丈夫だよ」

「本当? 今度先輩が来たら、ゆりが叱ってあげるからね?」

「大丈夫だよ」

ゆりちゃんの頭を撫でた。それからゆりちゃんのお母さんが迎えに来て、教室には僕一人だけ。久保君がやって来る前に戻っただけだ。これが普通だったんだ。

考えるのを止めようとしていると、不意に窓に人影が見えた気がして、思わず振り返ってしまった。

「……ああ、百合ちゃんか。久しぶり」

「先生?」

見えた人影は、久保君と同じ卒業生。綺麗になった女の子の百合ちゃんだった。僕の様子に、ゆりちゃんと同じようにキョトンとした目で僕を見る。

「先生、どうしたの? そういえば、圭介は?」

「何でもないよ。大丈夫。久保君は、暫く来てないよ」

「は?」

「久保君。もう会いに来ないって言ってたから、用事があるなら学校の方が良いかも」

「は?? ちょっと、先生。それ、どういうこと……?」

「……」

「分かった。とりあえず、用事が出来たから、先生。今日は帰るね! またね!」

「ゆりちゃん?」

「圭介のこと、ぶん殴ってくる!」

「ゆりちゃん!!」

止めようとしたが、ゆりちゃんの足は速く。あっという間に、門の方へと駆けて行った。

(そういえば、ゆりちゃん昔から駆けっこ速かったな)

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