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32】突然の申し出
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32】突然の申し出
気づいてはいけない音に、気づいてしまった気がする。いや、まだ気がする程度だ。きっとまだ大丈夫。まだ。そんな言い訳を何度もする日々が増えて来た。
(出来れば、もう久保君が来ませんように)
そんなことを思ってしまうくらい、久保君に会うのが怖かった。会わなければ、きっと何かが起こることはない。自分でなんてことをと思ってはいるが、やはり認めるのが怖いんだ。だが、僕の思い通りにはいかないことも多い。
「先生」
「水野君、いらっしゃい」
「……ウス」
今日も園児たちが帰ったあと、掲示物の準備をしていると久保君がやって来た。今では慣れたもので、他の先生たちも「水野先生は……」と場所を教えてくれるらしい。
(どうしたんだろう? 今日はなんだか大人しいな)
普段は嬉しそうな明るい表情が多い久保君が、どこか大人しい。長年先生をしていないし、ましてや過去自身の教え子だった子だ。それくらいは分かる。手伝うと僕と少し離れところで、画用紙を切ってくれる久保君に、背中を向けて声をかけてみた。
「久保君、今日何かあった?」
「何も無いですけど……やっぱり先生、俺のこと分かるんですか?」
「まぁ、一応先生だし? 嫌な事……って雰囲気ではないみたいだけど、元気がないな? って思って」
チョキッ……チョキッ……。
静かな中、僕たちの声とハサミの音が聞こえる。暫くして、ハサミの音がしなくなったと、ふと久保君の方を向けば久保君が真っすぐ僕を見ていた。その眼は、いつだって僕を思ってくれている時の眼。僕を好きだと言った時も、同じ目をしていたっけ。
「先生、俺暫く先生のところに来ないようにしますね」
「え?」
「今日で最後にするんで」
「久保君……?」
ハサミを置いて、また僕の前へ。静かに寄って来て、今では恰好良い青年の顔つきで互いの鼻筋が触れる距離で言った。
「キスして良い?」
ドキドキドキドキ。
はっ……と息を飲む感覚と、心臓が煩い音。まるで時間が止まったようだと思いながら、まさかの言葉に唇が震えた。
(キス……!?)
どうしてと思いながら、それ以上近づいて来ない久保君の顔を見る。何とも言えない表情に、これ以上は僕は気持ちを読み取ることが出来なかった。ただ二人だけの教室で言えた言葉は一つだけ。
「…………駄目だよ」
キスだなんて。駄目だよ。
心の奥で、本当に? と浮かんできそうな言葉を、無理やり消して気づかないフリをして。僕の言葉を聞いた久保君は、すぐに身体を離した。
「すみませんでした」
ペコリと頭を下げた久保君。
あらかた完成していたものを急いで片づけ、最後は僕の方も見らずに「じゃあ」とだけ言って出て行った。
「じゃあ、先生。安心して下さい。明日から、もう顔を出さないんで」
顔を見せないように去って行く久保君は、きっと泣いているんだ。
(君は昔から、泣きそうになったら顔を隠していたから)
知っていても、僕は引き止めもせず。
「……また僕フラれちゃったのかなぁ……」
付き合ってもいなくて。更には、僕の方が好きだと言われていたのに、フラれたと呟いていた。
*******
凄く久しぶりに更新しました…!><
お気に入りのままにして下さった方、有難うございます。
もうアレですが、諸々飛ばして早めに終わらせようかと思います><
気づいてはいけない音に、気づいてしまった気がする。いや、まだ気がする程度だ。きっとまだ大丈夫。まだ。そんな言い訳を何度もする日々が増えて来た。
(出来れば、もう久保君が来ませんように)
そんなことを思ってしまうくらい、久保君に会うのが怖かった。会わなければ、きっと何かが起こることはない。自分でなんてことをと思ってはいるが、やはり認めるのが怖いんだ。だが、僕の思い通りにはいかないことも多い。
「先生」
「水野君、いらっしゃい」
「……ウス」
今日も園児たちが帰ったあと、掲示物の準備をしていると久保君がやって来た。今では慣れたもので、他の先生たちも「水野先生は……」と場所を教えてくれるらしい。
(どうしたんだろう? 今日はなんだか大人しいな)
普段は嬉しそうな明るい表情が多い久保君が、どこか大人しい。長年先生をしていないし、ましてや過去自身の教え子だった子だ。それくらいは分かる。手伝うと僕と少し離れところで、画用紙を切ってくれる久保君に、背中を向けて声をかけてみた。
「久保君、今日何かあった?」
「何も無いですけど……やっぱり先生、俺のこと分かるんですか?」
「まぁ、一応先生だし? 嫌な事……って雰囲気ではないみたいだけど、元気がないな? って思って」
チョキッ……チョキッ……。
静かな中、僕たちの声とハサミの音が聞こえる。暫くして、ハサミの音がしなくなったと、ふと久保君の方を向けば久保君が真っすぐ僕を見ていた。その眼は、いつだって僕を思ってくれている時の眼。僕を好きだと言った時も、同じ目をしていたっけ。
「先生、俺暫く先生のところに来ないようにしますね」
「え?」
「今日で最後にするんで」
「久保君……?」
ハサミを置いて、また僕の前へ。静かに寄って来て、今では恰好良い青年の顔つきで互いの鼻筋が触れる距離で言った。
「キスして良い?」
ドキドキドキドキ。
はっ……と息を飲む感覚と、心臓が煩い音。まるで時間が止まったようだと思いながら、まさかの言葉に唇が震えた。
(キス……!?)
どうしてと思いながら、それ以上近づいて来ない久保君の顔を見る。何とも言えない表情に、これ以上は僕は気持ちを読み取ることが出来なかった。ただ二人だけの教室で言えた言葉は一つだけ。
「…………駄目だよ」
キスだなんて。駄目だよ。
心の奥で、本当に? と浮かんできそうな言葉を、無理やり消して気づかないフリをして。僕の言葉を聞いた久保君は、すぐに身体を離した。
「すみませんでした」
ペコリと頭を下げた久保君。
あらかた完成していたものを急いで片づけ、最後は僕の方も見らずに「じゃあ」とだけ言って出て行った。
「じゃあ、先生。安心して下さい。明日から、もう顔を出さないんで」
顔を見せないように去って行く久保君は、きっと泣いているんだ。
(君は昔から、泣きそうになったら顔を隠していたから)
知っていても、僕は引き止めもせず。
「……また僕フラれちゃったのかなぁ……」
付き合ってもいなくて。更には、僕の方が好きだと言われていたのに、フラれたと呟いていた。
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凄く久しぶりに更新しました…!><
お気に入りのままにして下さった方、有難うございます。
もうアレですが、諸々飛ばして早めに終わらせようかと思います><
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