32 / 39
32】突然の申し出
しおりを挟む
32】突然の申し出
気づいてはいけない音に、気づいてしまった気がする。いや、まだ気がする程度だ。きっとまだ大丈夫。まだ。そんな言い訳を何度もする日々が増えて来た。
(出来れば、もう久保君が来ませんように)
そんなことを思ってしまうくらい、久保君に会うのが怖かった。会わなければ、きっと何かが起こることはない。自分でなんてことをと思ってはいるが、やはり認めるのが怖いんだ。だが、僕の思い通りにはいかないことも多い。
「先生」
「水野君、いらっしゃい」
「……ウス」
今日も園児たちが帰ったあと、掲示物の準備をしていると久保君がやって来た。今では慣れたもので、他の先生たちも「水野先生は……」と場所を教えてくれるらしい。
(どうしたんだろう? 今日はなんだか大人しいな)
普段は嬉しそうな明るい表情が多い久保君が、どこか大人しい。長年先生をしていないし、ましてや過去自身の教え子だった子だ。それくらいは分かる。手伝うと僕と少し離れところで、画用紙を切ってくれる久保君に、背中を向けて声をかけてみた。
「久保君、今日何かあった?」
「何も無いですけど……やっぱり先生、俺のこと分かるんですか?」
「まぁ、一応先生だし? 嫌な事……って雰囲気ではないみたいだけど、元気がないな? って思って」
チョキッ……チョキッ……。
静かな中、僕たちの声とハサミの音が聞こえる。暫くして、ハサミの音がしなくなったと、ふと久保君の方を向けば久保君が真っすぐ僕を見ていた。その眼は、いつだって僕を思ってくれている時の眼。僕を好きだと言った時も、同じ目をしていたっけ。
「先生、俺暫く先生のところに来ないようにしますね」
「え?」
「今日で最後にするんで」
「久保君……?」
ハサミを置いて、また僕の前へ。静かに寄って来て、今では恰好良い青年の顔つきで互いの鼻筋が触れる距離で言った。
「キスして良い?」
ドキドキドキドキ。
はっ……と息を飲む感覚と、心臓が煩い音。まるで時間が止まったようだと思いながら、まさかの言葉に唇が震えた。
(キス……!?)
どうしてと思いながら、それ以上近づいて来ない久保君の顔を見る。何とも言えない表情に、これ以上は僕は気持ちを読み取ることが出来なかった。ただ二人だけの教室で言えた言葉は一つだけ。
「…………駄目だよ」
キスだなんて。駄目だよ。
心の奥で、本当に? と浮かんできそうな言葉を、無理やり消して気づかないフリをして。僕の言葉を聞いた久保君は、すぐに身体を離した。
「すみませんでした」
ペコリと頭を下げた久保君。
あらかた完成していたものを急いで片づけ、最後は僕の方も見らずに「じゃあ」とだけ言って出て行った。
「じゃあ、先生。安心して下さい。明日から、もう顔を出さないんで」
顔を見せないように去って行く久保君は、きっと泣いているんだ。
(君は昔から、泣きそうになったら顔を隠していたから)
知っていても、僕は引き止めもせず。
「……また僕フラれちゃったのかなぁ……」
付き合ってもいなくて。更には、僕の方が好きだと言われていたのに、フラれたと呟いていた。
*******
凄く久しぶりに更新しました…!><
お気に入りのままにして下さった方、有難うございます。
もうアレですが、諸々飛ばして早めに終わらせようかと思います><
気づいてはいけない音に、気づいてしまった気がする。いや、まだ気がする程度だ。きっとまだ大丈夫。まだ。そんな言い訳を何度もする日々が増えて来た。
(出来れば、もう久保君が来ませんように)
そんなことを思ってしまうくらい、久保君に会うのが怖かった。会わなければ、きっと何かが起こることはない。自分でなんてことをと思ってはいるが、やはり認めるのが怖いんだ。だが、僕の思い通りにはいかないことも多い。
「先生」
「水野君、いらっしゃい」
「……ウス」
今日も園児たちが帰ったあと、掲示物の準備をしていると久保君がやって来た。今では慣れたもので、他の先生たちも「水野先生は……」と場所を教えてくれるらしい。
(どうしたんだろう? 今日はなんだか大人しいな)
普段は嬉しそうな明るい表情が多い久保君が、どこか大人しい。長年先生をしていないし、ましてや過去自身の教え子だった子だ。それくらいは分かる。手伝うと僕と少し離れところで、画用紙を切ってくれる久保君に、背中を向けて声をかけてみた。
「久保君、今日何かあった?」
「何も無いですけど……やっぱり先生、俺のこと分かるんですか?」
「まぁ、一応先生だし? 嫌な事……って雰囲気ではないみたいだけど、元気がないな? って思って」
チョキッ……チョキッ……。
静かな中、僕たちの声とハサミの音が聞こえる。暫くして、ハサミの音がしなくなったと、ふと久保君の方を向けば久保君が真っすぐ僕を見ていた。その眼は、いつだって僕を思ってくれている時の眼。僕を好きだと言った時も、同じ目をしていたっけ。
「先生、俺暫く先生のところに来ないようにしますね」
「え?」
「今日で最後にするんで」
「久保君……?」
ハサミを置いて、また僕の前へ。静かに寄って来て、今では恰好良い青年の顔つきで互いの鼻筋が触れる距離で言った。
「キスして良い?」
ドキドキドキドキ。
はっ……と息を飲む感覚と、心臓が煩い音。まるで時間が止まったようだと思いながら、まさかの言葉に唇が震えた。
(キス……!?)
どうしてと思いながら、それ以上近づいて来ない久保君の顔を見る。何とも言えない表情に、これ以上は僕は気持ちを読み取ることが出来なかった。ただ二人だけの教室で言えた言葉は一つだけ。
「…………駄目だよ」
キスだなんて。駄目だよ。
心の奥で、本当に? と浮かんできそうな言葉を、無理やり消して気づかないフリをして。僕の言葉を聞いた久保君は、すぐに身体を離した。
「すみませんでした」
ペコリと頭を下げた久保君。
あらかた完成していたものを急いで片づけ、最後は僕の方も見らずに「じゃあ」とだけ言って出て行った。
「じゃあ、先生。安心して下さい。明日から、もう顔を出さないんで」
顔を見せないように去って行く久保君は、きっと泣いているんだ。
(君は昔から、泣きそうになったら顔を隠していたから)
知っていても、僕は引き止めもせず。
「……また僕フラれちゃったのかなぁ……」
付き合ってもいなくて。更には、僕の方が好きだと言われていたのに、フラれたと呟いていた。
*******
凄く久しぶりに更新しました…!><
お気に入りのままにして下さった方、有難うございます。
もうアレですが、諸々飛ばして早めに終わらせようかと思います><
11
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
今日も、俺の彼氏がかっこいい。
春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。
そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。
しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。
あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。
どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。
間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。
2021.07.15〜2021.07.16

僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる