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22】予定のない週末⑥

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22】予定のない週末⑥

 「先生、何か見たい映画あります?」

「僕は俗世に疎くて」

「俗世」

「久保君は何か見たいのある?」

「あ! 先生見て! 懐かしい! 俺が小さい時に見てたアニメ映画があってる!」

「ご長寿アニメだからね。今でも園の子どもたちに人気だよ」

そんな会話をしているのは、広い映画館のラウンジ。ドーナツを食べ終えて、じゃあお開き……というところを、また久保君に弱い僕は「この後、映画でもどうですか?」の言葉に良いよと首を縦に振ってしまった。
エレベーターに乗って上の階へ。広くて大きなラウンジには、今放映中の映画のポスターが沢山あって、作品によってはお客さんが記念撮影なんかをしていた。

「色々な作品があってるんだね」

テレビをあまり見ないので詳しくないが、これが今の俳優さんかぁ……とポスターを眺める。そんな中、端にあったポスターに食いついた久保君。懐かしい! と駆け寄ったのは、ご長寿アニメの映画だった。そういえば、園の子どもたちもチラホラ見てきたと言っていたっけ。

(まずいな。出来れば、久保君以外の知り合いに会いませんように)

何度目かの懇願。

「へぇ~……」

久保君も、昔を懐かしんでいるんだろうか。

「久保君、これ見たいの?」

「ううん?」

思いのほか即答で、少しだけ笑いそうになった。僕の方も、その方が助かる。

「じゃあ、他の映画だね」

うーん……と時間と作品名を交互に見ていると、久保君がイケメンだと聞こえた時と同じように、また違う言葉が聞こえた。

「あそこのイケメン、もう先生って呼んでるけど顧問の先生かな?」
「映画部?」


(……まずい)

二度目の不味いは結構深刻だった。気にしていなかったが、言われてみればそうだろう。先生と休日を過ごしているなんてこと、あるんだろうか? ……いや、人によるな?
すぐに否定するのは良くないが信条で考えてみたが、実際自分は先生と休日を過ごすなんて部活以外になかった。

(先生なんて呼ばれたら、そうなるよなぁ……)

話していた子たちに悪気はないのは勿論だが、誤解を招くのは良くない。確かに久保君の先生だが、それは過去のこと。幼稚園の頃の先生でした、なんて誰に説明するんだろう?

「……」

「先生?」

タタタッ、と僕のところに駆け寄って来て様子が変だと気付く久保君。小さく手招きして、ひそっ……と内緒話をするように言った。

「久保君。公共の場所で先生って呼ぶのは禁止ね」

「え゛!?」

何で!? と驚く久保君に、大人な僕は冷静に説明する。

「久保君は、休みの日に学校の先生と一緒に過ごしたりする?」

「俺、帰宅部だししないなぁ。あと部活入ってたとしても、部活以外で過ごさないな」

「でしょ? そういうことだよ」

「?」

「二人の時とか、園以外で僕を先生って呼んじゃだめってこと」

「何で?」

「久保君のためだよ。変な誤解を受けなくないでしょ?」

「先生がそういうなら……」

仕方ないと納得してくれた久保君。この辺は物分かりが良くて良かったと思ったが、「じゃあ」と続いた言葉に今度は僕の方が「何で」と言ってしまった。

「じゃあ……水野さん?」

「何で!?」

*******

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