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21】予定のない週末⑤
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21】予定のない週末⑤
どうして尽くしの週末。
周囲から見てもイケメンだと言われていた教え子と、ドーナツ店に入って、ドーナツを食べる状態になっている。それもこれも、僕の腹の虫がなったのが原因ではあるけれど。
軽く支払いについての小さな攻防があったものの、現物証拠のクーポンを見せられれば何も言えなくなり。
「コーヒーにしちゃいましたけど、良かったですか?」
とまぁ、食べましょうと話が進んだ。
「うん。大丈夫、有難う。久保君もコーヒーが飲めるの?」
トレーに乗っていたのは、同じ黒い色をした飲み物。コーヒーは昔から平気な方だったが、苦いのに久保君はやっぱり味覚も大人なのかな? と思えば、初めて久保君が黙り込んだ。
「あー……えっと、その」
それから急な動揺。
「コーヒーじゃないの?」
「に……苦いのは苦手なんで、ココアです……」
「ココア……可愛いね、久保君」
意外だなと思った時には、可愛いねと口から出てしまい。久保君が、少しだけ照れた表情をしていた。それから浅く下唇を噛んで、チラリと僕を見た。
(あ、この表情は昔と変わらないな)
照れた時の久保君は、小さい頃もこんな感じ。案外と子供らしい部分が残っていて、思わず僕の頬が緩むが久保君の方は不服そう。話題を変えるようにドーナツが入ったお皿を差し出した。
「それより先生、ドーナツ選んで下さい」
「はいはい。全部美味しそうだね。このチョコレート貰うね」
「どうぞ」
コーヒーと、甘いドーナツが絶妙なバランスで美味しい。そういえば、職場の先生以外で一緒に食事をするのは久しぶりだなと久保君を見れば、ココアを飲みながら僕を嬉しそうに見ていた。その視線は、ドーナツみたいに甘い気がして、何だが僕の方が砂糖をまぶされているような気持になる。
「うっ……」
「先生、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと久保君の視線が……」
「熱すぎました?」
「大人を揶揄うんじゃありません」
あはは、と互いに笑って。それでも久保君の視線は変わらないまま。嬉しそうで、それでいて甘い感じ。視線からも感じる好意に、嫌悪感は変わらずない。ただ、この甘さは宜しくない。気をしっかり持たなくちゃ! と思いながらも、降り注ぎ続ける粉砂糖のような甘さ。
(このまま、僕まで甘くなったらどうしよう)
そんな気持ちを打ち消すべく、苦みのあるコーヒーをゴクリと飲んだ。気づけばドーナツが1つ消え、2つ消え。お皿もコップも空になっている。僕のお腹も満腹で、久保君のお皿も同じ。つまり、僕と久保君はドーナツ店に行く目的を達成してしまったわけで。
(お開きかなぁ)
僕と久保君は、親しい友達ってわけじゃないし。
「……」
「……」
どちらから、お開きと言い難く沈黙。
「えっと……久保君、そろそろ」
お店を出ようか、と言い切る前に久保君が僕の手首を握った。
「先生、待って!」
「久保君?」
「この後、映画でもどうですか?」
「…………」
「………………いいよ」
最近感じ始めたが、僕って残念そうな顔というより久保君に弱くなってないかな?
*******
うーん。もう無理くり早めに終わらせた方が良いのかなぁ><
どうして尽くしの週末。
周囲から見てもイケメンだと言われていた教え子と、ドーナツ店に入って、ドーナツを食べる状態になっている。それもこれも、僕の腹の虫がなったのが原因ではあるけれど。
軽く支払いについての小さな攻防があったものの、現物証拠のクーポンを見せられれば何も言えなくなり。
「コーヒーにしちゃいましたけど、良かったですか?」
とまぁ、食べましょうと話が進んだ。
「うん。大丈夫、有難う。久保君もコーヒーが飲めるの?」
トレーに乗っていたのは、同じ黒い色をした飲み物。コーヒーは昔から平気な方だったが、苦いのに久保君はやっぱり味覚も大人なのかな? と思えば、初めて久保君が黙り込んだ。
「あー……えっと、その」
それから急な動揺。
「コーヒーじゃないの?」
「に……苦いのは苦手なんで、ココアです……」
「ココア……可愛いね、久保君」
意外だなと思った時には、可愛いねと口から出てしまい。久保君が、少しだけ照れた表情をしていた。それから浅く下唇を噛んで、チラリと僕を見た。
(あ、この表情は昔と変わらないな)
照れた時の久保君は、小さい頃もこんな感じ。案外と子供らしい部分が残っていて、思わず僕の頬が緩むが久保君の方は不服そう。話題を変えるようにドーナツが入ったお皿を差し出した。
「それより先生、ドーナツ選んで下さい」
「はいはい。全部美味しそうだね。このチョコレート貰うね」
「どうぞ」
コーヒーと、甘いドーナツが絶妙なバランスで美味しい。そういえば、職場の先生以外で一緒に食事をするのは久しぶりだなと久保君を見れば、ココアを飲みながら僕を嬉しそうに見ていた。その視線は、ドーナツみたいに甘い気がして、何だが僕の方が砂糖をまぶされているような気持になる。
「うっ……」
「先生、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと久保君の視線が……」
「熱すぎました?」
「大人を揶揄うんじゃありません」
あはは、と互いに笑って。それでも久保君の視線は変わらないまま。嬉しそうで、それでいて甘い感じ。視線からも感じる好意に、嫌悪感は変わらずない。ただ、この甘さは宜しくない。気をしっかり持たなくちゃ! と思いながらも、降り注ぎ続ける粉砂糖のような甘さ。
(このまま、僕まで甘くなったらどうしよう)
そんな気持ちを打ち消すべく、苦みのあるコーヒーをゴクリと飲んだ。気づけばドーナツが1つ消え、2つ消え。お皿もコップも空になっている。僕のお腹も満腹で、久保君のお皿も同じ。つまり、僕と久保君はドーナツ店に行く目的を達成してしまったわけで。
(お開きかなぁ)
僕と久保君は、親しい友達ってわけじゃないし。
「……」
「……」
どちらから、お開きと言い難く沈黙。
「えっと……久保君、そろそろ」
お店を出ようか、と言い切る前に久保君が僕の手首を握った。
「先生、待って!」
「久保君?」
「この後、映画でもどうですか?」
「…………」
「………………いいよ」
最近感じ始めたが、僕って残念そうな顔というより久保君に弱くなってないかな?
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うーん。もう無理くり早めに終わらせた方が良いのかなぁ><
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