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20】予定のない週末④
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20】予定のない週末④
大人として。可愛い教え子が、残念そうな顔のまま僕の前から消えてしまいそうになったのを引き留めようとしたのに。どちらが大人か分からないくらい、商業施設の雑踏に消えない腹の虫が鳴ってしまったわけで。
グゥゥゥゥッ~~~~ッ。
「あ……///」
「……」
僕にしっかり聞こえた音は、久保君にも聞こえていて。
「先生はハンバーガーと、ドーナツ。どっちが食べたいですか?」
笑うこともせず、淡々と食事を提案してくれた。しかも僕が朝に食べたいと思ったものの二択だ。ちょっと久保君ってば、僕の心が読めるの? と子供のようなことを思ってしまったが、大人の僕が頭の中で「そんなことないでしょ」と切り捨てる。それよりも、二択の答えだ。ハンバーガーとドーナツ。どちらも食べたいけれど、コンディション的に選べるのは一つだけ。
「……ドーナツ」
「分かりました。じゃあ、ドーナツ食べに行きましょう」
「うん」
30を過ぎた身体に、急な油物は無理があるとドーナツを所望した僕だった。ドーナツ店は今いるフロアにあって、お昼よりも前の時間で丁度空いていた。
「先生、席を取ってて貰えますか? 俺、適当にドーナツを取って来ますね」
「あ、うん……」
これまたテキパキと指示を出してくれる久保君。どっちが年上か分からないなぁと思いながら、空いている席へ。遠目に久保君を見つめていると、近くの席に座っている女性陣の席から「あの人恰好良くない?」と聞こえた。
(やっぱり僕以外が見ても、久保君は恰好は良いんだなぁ)
再確認しちゃったなと思いながら久保君の横顔を見れば、やっぱり恰好良かった。真剣な横顔で選んでいるのがドーナツという光景に、思わずクスリと笑ってしまう。
(真剣に選んでるなぁ……)
久保君って、ドーナツ好きだったっけ? と記憶を辿るが、何でも好き嫌いなく食べていて健康優良児だった記憶しかなかった。僕が考え込んでいるうちに、久保君はドーナツを選び終えたらしい。トレーに乗ったお皿に、いくつかのドーナツと飲み物が乗っていた。
「先生?」
「あ、ごめんね。支払うから、いくらだった?」
「良いですよ。俺、丁度クーポンとか持ってたんで」
「いや、でもそこは僕も大人として」
「期限が近いクーポンとポイント払いしたんで、現金は使ってませんよ。ほら」
「……本当だ」
先生が気を遣うと思って、と久保君が証明するようにクーポンを見せて来た。どうやらお正月に買ったクーポンで、期限迫っていたらしい。ぐぬぬ……と粘れば「さ、食べましょう」と押し切られてしまった。
「コーヒーにしちゃいましたけど、良かったですか?」
「うん。大丈夫、有難う。久保君もコーヒーが飲めるの?」
トレーに乗っていたのは、同じ黒い色をした飲み物。やっぱり味覚も大人なのかな? と思えば、初めて久保君が黙り込んだ。
「あー……えっと、その」
「コーヒーじゃないの?」
「苦いのは苦手なんで、ココアです」
「ココア……可愛いね、久保君」
意外だなと思った時には、可愛いねと口から出てしまい。久保君が、少しだけ照れた表情をしていた。
*********
大人として。可愛い教え子が、残念そうな顔のまま僕の前から消えてしまいそうになったのを引き留めようとしたのに。どちらが大人か分からないくらい、商業施設の雑踏に消えない腹の虫が鳴ってしまったわけで。
グゥゥゥゥッ~~~~ッ。
「あ……///」
「……」
僕にしっかり聞こえた音は、久保君にも聞こえていて。
「先生はハンバーガーと、ドーナツ。どっちが食べたいですか?」
笑うこともせず、淡々と食事を提案してくれた。しかも僕が朝に食べたいと思ったものの二択だ。ちょっと久保君ってば、僕の心が読めるの? と子供のようなことを思ってしまったが、大人の僕が頭の中で「そんなことないでしょ」と切り捨てる。それよりも、二択の答えだ。ハンバーガーとドーナツ。どちらも食べたいけれど、コンディション的に選べるのは一つだけ。
「……ドーナツ」
「分かりました。じゃあ、ドーナツ食べに行きましょう」
「うん」
30を過ぎた身体に、急な油物は無理があるとドーナツを所望した僕だった。ドーナツ店は今いるフロアにあって、お昼よりも前の時間で丁度空いていた。
「先生、席を取ってて貰えますか? 俺、適当にドーナツを取って来ますね」
「あ、うん……」
これまたテキパキと指示を出してくれる久保君。どっちが年上か分からないなぁと思いながら、空いている席へ。遠目に久保君を見つめていると、近くの席に座っている女性陣の席から「あの人恰好良くない?」と聞こえた。
(やっぱり僕以外が見ても、久保君は恰好は良いんだなぁ)
再確認しちゃったなと思いながら久保君の横顔を見れば、やっぱり恰好良かった。真剣な横顔で選んでいるのがドーナツという光景に、思わずクスリと笑ってしまう。
(真剣に選んでるなぁ……)
久保君って、ドーナツ好きだったっけ? と記憶を辿るが、何でも好き嫌いなく食べていて健康優良児だった記憶しかなかった。僕が考え込んでいるうちに、久保君はドーナツを選び終えたらしい。トレーに乗ったお皿に、いくつかのドーナツと飲み物が乗っていた。
「先生?」
「あ、ごめんね。支払うから、いくらだった?」
「良いですよ。俺、丁度クーポンとか持ってたんで」
「いや、でもそこは僕も大人として」
「期限が近いクーポンとポイント払いしたんで、現金は使ってませんよ。ほら」
「……本当だ」
先生が気を遣うと思って、と久保君が証明するようにクーポンを見せて来た。どうやらお正月に買ったクーポンで、期限迫っていたらしい。ぐぬぬ……と粘れば「さ、食べましょう」と押し切られてしまった。
「コーヒーにしちゃいましたけど、良かったですか?」
「うん。大丈夫、有難う。久保君もコーヒーが飲めるの?」
トレーに乗っていたのは、同じ黒い色をした飲み物。やっぱり味覚も大人なのかな? と思えば、初めて久保君が黙り込んだ。
「あー……えっと、その」
「コーヒーじゃないの?」
「苦いのは苦手なんで、ココアです」
「ココア……可愛いね、久保君」
意外だなと思った時には、可愛いねと口から出てしまい。久保君が、少しだけ照れた表情をしていた。
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