上 下
10 / 39

10】ハサミの音で聞こえない

しおりを挟む
10】ハサミの音で聞こえない

 「はぁ……久保君、彼女いないのかしら?」

「斉藤先生まで何を言い出すんですか」

ため息交じりでそう言ったのは、斎藤先生だ。昨日に続き、園児の皆が帰った後。教室で今日も展示物の作業をしていた。うっかり昨日切り落としてしまった画用紙は、別のパーツに再利用しつつ、壁に貼るための展示を切っていく。

「だって、あんなにイケメンなのに。昨日なんて、わざわざ顔だけ見に来て帰って行ったのよ? 健気過ぎるわよ。水野先生ったら、愛されてるわぁ……」

「あ゛ぃっ……!? ゴホン。愛されているかはさておき、教え子から慕われるのは嬉しいですよね」

「ね! 私の教え子たちも、来たりしないかしら?」

「そういいながら、斎藤先生の教え子さんたちもよく顔を出してくれてるじゃないですか」

「まぁね」

そうだ。案外とこの園の卒園生たちは顔を出しに来てくれることが多い。といっても、女の子たちが多くて、男の子で高校生になってというのは、よく考えてみると初めてかもしれない。だから一層久保君の存在が目立つのだと思う。

「でも、わざわざ顔だけよ? チラッと見て終わり! って、そんなことある? 久保君は本当に水野先生のことが好きだったものね」

「はは……」

(顔だけでもって、わざわざ顔を出したのって……)

告白された手前、自意識過剰だと言われてしまうかもしれない。だがあれは、久保君なりのアタックなのかもしれないと思ったのは秘密だ。

「さ! 斎藤先生、集中しましょう!」

「老眼に細かい作業は、目が疲れちゃうわよ」


チョキチョキとハサミを進めながら、考えるのは久保君のこと。

(そういえば、恋愛的な好きってどういう感じなんだろう?)

人生経験はそこそこ。付き合ったことはあるが、正直自分から好意を寄せてというのはなかった。若気の至りというのか、告白されてなんとなく……な恋愛ばかり。付き合ったら好きになるかもしれない、なんて軽い気持ちで付き合ってみたところで本気になることはなく。それは相手にも伝わったようで、告白してくれた相手から別れの言葉を告げられてきた。

チョキッ。

『先生。俺、先生が好きなんだけど?』

チョキッ。

教え子でなければ、もしかしたらまた軽い気持ちで付き合っていたかもしれない。(我ながら悪い大人だ)

チョキッ。

『水野先生!』

チョキッ。

「……」

(…………好きの気持ちはまだ分からないし、断らなきゃいけないけれど。久保君が僕を好きだと言ってくれる瞳は好きだな)

チョキッ。(ドキン)

最後に切落とした画用紙を見つめながら、最後にまた胸の奥で鳴った心音に気づかなかった。そんな中、刻々と時間だけは過ぎてゆき。もうお開きの時間。そろそろ職員も帰る時間だ。



「あら。今日は久保君、来なかったですね」

「来なくて良いんですよ。学生生活が充実してるってことです。こんなおじさんに会いに来るより、学生生活が一番ですから」

寂しいなと思ったのは、きっと気のせいだ。

*******
久々の更新…!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうも俺の新生活が始まるらしい

氷魚彰人
BL
恋人と別れ、酔い潰れた俺。 翌朝目を覚ますと知らない部屋に居て……。 え? 誰この美中年!? 金持ち美中年×社会人青年 某サイトのコンテスト用に書いた話です 文字数縛りがあったので、エロはないです ごめんなさい

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

彼はオレを推しているらしい

まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。 どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...? きっかけは突然の雨。 ほのぼのした世界観が書きたくて。 4話で完結です(執筆済み) 需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*) もし良ければコメントお待ちしております。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

処理中です...