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10】ハサミの音で聞こえない
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10】ハサミの音で聞こえない
「はぁ……久保君、彼女いないのかしら?」
「斉藤先生まで何を言い出すんですか」
ため息交じりでそう言ったのは、斎藤先生だ。昨日に続き、園児の皆が帰った後。教室で今日も展示物の作業をしていた。うっかり昨日切り落としてしまった画用紙は、別のパーツに再利用しつつ、壁に貼るための展示を切っていく。
「だって、あんなにイケメンなのに。昨日なんて、わざわざ顔だけ見に来て帰って行ったのよ? 健気過ぎるわよ。水野先生ったら、愛されてるわぁ……」
「あ゛ぃっ……!? ゴホン。愛されているかはさておき、教え子から慕われるのは嬉しいですよね」
「ね! 私の教え子たちも、来たりしないかしら?」
「そういいながら、斎藤先生の教え子さんたちもよく顔を出してくれてるじゃないですか」
「まぁね」
そうだ。案外とこの園の卒園生たちは顔を出しに来てくれることが多い。といっても、女の子たちが多くて、男の子で高校生になってというのは、よく考えてみると初めてかもしれない。だから一層久保君の存在が目立つのだと思う。
「でも、わざわざ顔だけよ? チラッと見て終わり! って、そんなことある? 久保君は本当に水野先生のことが好きだったものね」
「はは……」
(顔だけでもって、わざわざ顔を出したのって……)
告白された手前、自意識過剰だと言われてしまうかもしれない。だがあれは、久保君なりのアタックなのかもしれないと思ったのは秘密だ。
「さ! 斎藤先生、集中しましょう!」
「老眼に細かい作業は、目が疲れちゃうわよ」
チョキチョキとハサミを進めながら、考えるのは久保君のこと。
(そういえば、恋愛的な好きってどういう感じなんだろう?)
人生経験はそこそこ。付き合ったことはあるが、正直自分から好意を寄せてというのはなかった。若気の至りというのか、告白されてなんとなく……な恋愛ばかり。付き合ったら好きになるかもしれない、なんて軽い気持ちで付き合ってみたところで本気になることはなく。それは相手にも伝わったようで、告白してくれた相手から別れの言葉を告げられてきた。
チョキッ。
『先生。俺、先生が好きなんだけど?』
チョキッ。
教え子でなければ、もしかしたらまた軽い気持ちで付き合っていたかもしれない。(我ながら悪い大人だ)
チョキッ。
『水野先生!』
チョキッ。
「……」
(…………好きの気持ちはまだ分からないし、断らなきゃいけないけれど。久保君が僕を好きだと言ってくれる瞳は好きだな)
チョキッ。(ドキン)
最後に切落とした画用紙を見つめながら、最後にまた胸の奥で鳴った心音に気づかなかった。そんな中、刻々と時間だけは過ぎてゆき。もうお開きの時間。そろそろ職員も帰る時間だ。
「あら。今日は久保君、来なかったですね」
「来なくて良いんですよ。学生生活が充実してるってことです。こんなおじさんに会いに来るより、学生生活が一番ですから」
寂しいなと思ったのは、きっと気のせいだ。
*******
久々の更新…!
「はぁ……久保君、彼女いないのかしら?」
「斉藤先生まで何を言い出すんですか」
ため息交じりでそう言ったのは、斎藤先生だ。昨日に続き、園児の皆が帰った後。教室で今日も展示物の作業をしていた。うっかり昨日切り落としてしまった画用紙は、別のパーツに再利用しつつ、壁に貼るための展示を切っていく。
「だって、あんなにイケメンなのに。昨日なんて、わざわざ顔だけ見に来て帰って行ったのよ? 健気過ぎるわよ。水野先生ったら、愛されてるわぁ……」
「あ゛ぃっ……!? ゴホン。愛されているかはさておき、教え子から慕われるのは嬉しいですよね」
「ね! 私の教え子たちも、来たりしないかしら?」
「そういいながら、斎藤先生の教え子さんたちもよく顔を出してくれてるじゃないですか」
「まぁね」
そうだ。案外とこの園の卒園生たちは顔を出しに来てくれることが多い。といっても、女の子たちが多くて、男の子で高校生になってというのは、よく考えてみると初めてかもしれない。だから一層久保君の存在が目立つのだと思う。
「でも、わざわざ顔だけよ? チラッと見て終わり! って、そんなことある? 久保君は本当に水野先生のことが好きだったものね」
「はは……」
(顔だけでもって、わざわざ顔を出したのって……)
告白された手前、自意識過剰だと言われてしまうかもしれない。だがあれは、久保君なりのアタックなのかもしれないと思ったのは秘密だ。
「さ! 斎藤先生、集中しましょう!」
「老眼に細かい作業は、目が疲れちゃうわよ」
チョキチョキとハサミを進めながら、考えるのは久保君のこと。
(そういえば、恋愛的な好きってどういう感じなんだろう?)
人生経験はそこそこ。付き合ったことはあるが、正直自分から好意を寄せてというのはなかった。若気の至りというのか、告白されてなんとなく……な恋愛ばかり。付き合ったら好きになるかもしれない、なんて軽い気持ちで付き合ってみたところで本気になることはなく。それは相手にも伝わったようで、告白してくれた相手から別れの言葉を告げられてきた。
チョキッ。
『先生。俺、先生が好きなんだけど?』
チョキッ。
教え子でなければ、もしかしたらまた軽い気持ちで付き合っていたかもしれない。(我ながら悪い大人だ)
チョキッ。
『水野先生!』
チョキッ。
「……」
(…………好きの気持ちはまだ分からないし、断らなきゃいけないけれど。久保君が僕を好きだと言ってくれる瞳は好きだな)
チョキッ。(ドキン)
最後に切落とした画用紙を見つめながら、最後にまた胸の奥で鳴った心音に気づかなかった。そんな中、刻々と時間だけは過ぎてゆき。もうお開きの時間。そろそろ職員も帰る時間だ。
「あら。今日は久保君、来なかったですね」
「来なくて良いんですよ。学生生活が充実してるってことです。こんなおじさんに会いに来るより、学生生活が一番ですから」
寂しいなと思ったのは、きっと気のせいだ。
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久々の更新…!
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