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9】先輩は今日も来る?②
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9】先輩は今日も来る?②
(出来たら今日は、久保君が園に顔を出しませんように)
申し訳ないと思いながら、少しだけ。これ以上久保君が女の子たちを夢中にしませんようにと願ったのは迎えの時間が近づいて来た頃だった。
「先生! 先輩が来たらゆりに、ぜっっったい教えてね!」
そう念押しをしてきたのは、ゆりちゃんだ。朝も久保君に彼女がいるのか聞いてきてから、こんな調子。
「分かってるよ、ゆりちゃん。もし来たらね。それよりも、ゆりちゃん。帰る準備だよ」
「はーい」
帰りの会を終え、今日もまた送迎バスに乗せたりお迎えに来る親御さんたちを待って行く組に分かれていた。カチカチと動く時計にやって、妙にドキドキするのは初めてのこと。
カチカチカチ。
ドキドキドキ。
(ああ゛~~、何だか時間が経つのが早いのような、遅いような。ああ゛~~……! 早く今日が終わって欲しい~~!)
会いたくないわけじゃないが、どんな顔をして良いのか分からない。どんなアタックを受けるのかとか、色々思いだしたり考えてしまったり。おかしいな。僕、凄く久保君のこと考えてる? と思ってしまう。
久保君を待っていたゆりちゃんは、迎えが来て残念そうに帰って行ってお迎えを待っている子たちはもういない。今日は早めに教室を片づけて、展示物を進めて。職員室に行かずに外が見える教室でチョキチョキとハサミ走らせていれば、僕の前で同じく作業をしていた斎藤先生がチラリと僕を見て言った。
「水野先生。今日も久保君くるかしら?」
「斎藤先生まで……」
「今日はもう、来ませんよ」
「そうかしらねぇ……。私は来ると思うんだけど」
「ほら、もう昨日の時間過ぎてますし。まっすぐ家に帰ってますよ」
さ! 作業進めちゃいましょ! と話を戻そうとすれば先ほど僕と視線の合っていた斎藤先生の視線が違う方を向いていて。おまけにその顔は笑顔で。
「先生! こんばんは!」
「!?」
背後から聞こえた明るい声に、恐る恐る振り向けば、そこにいたのは昨日再会した教え子が一人。もとい、僕のことが好きだと言ってくれた久保君。
「久保君……」
「あ! 今日はすぐ帰ります。顏が見たくて寄っただけなので! 水野先生、斎藤先生もさようなら」
短くそう言って戻って行った姿は、夕方僕たちが見送った子供と変わらなかった。
「……ね? 水野先生。私の言う通り、久保君来たでしょう?」
斎藤先生の言葉に、「そうですね……」と小さく返事しながら。うっかりハサミを滑らせて、切らなくて良いところも切ってしまった。
********
(出来たら今日は、久保君が園に顔を出しませんように)
申し訳ないと思いながら、少しだけ。これ以上久保君が女の子たちを夢中にしませんようにと願ったのは迎えの時間が近づいて来た頃だった。
「先生! 先輩が来たらゆりに、ぜっっったい教えてね!」
そう念押しをしてきたのは、ゆりちゃんだ。朝も久保君に彼女がいるのか聞いてきてから、こんな調子。
「分かってるよ、ゆりちゃん。もし来たらね。それよりも、ゆりちゃん。帰る準備だよ」
「はーい」
帰りの会を終え、今日もまた送迎バスに乗せたりお迎えに来る親御さんたちを待って行く組に分かれていた。カチカチと動く時計にやって、妙にドキドキするのは初めてのこと。
カチカチカチ。
ドキドキドキ。
(ああ゛~~、何だか時間が経つのが早いのような、遅いような。ああ゛~~……! 早く今日が終わって欲しい~~!)
会いたくないわけじゃないが、どんな顔をして良いのか分からない。どんなアタックを受けるのかとか、色々思いだしたり考えてしまったり。おかしいな。僕、凄く久保君のこと考えてる? と思ってしまう。
久保君を待っていたゆりちゃんは、迎えが来て残念そうに帰って行ってお迎えを待っている子たちはもういない。今日は早めに教室を片づけて、展示物を進めて。職員室に行かずに外が見える教室でチョキチョキとハサミ走らせていれば、僕の前で同じく作業をしていた斎藤先生がチラリと僕を見て言った。
「水野先生。今日も久保君くるかしら?」
「斎藤先生まで……」
「今日はもう、来ませんよ」
「そうかしらねぇ……。私は来ると思うんだけど」
「ほら、もう昨日の時間過ぎてますし。まっすぐ家に帰ってますよ」
さ! 作業進めちゃいましょ! と話を戻そうとすれば先ほど僕と視線の合っていた斎藤先生の視線が違う方を向いていて。おまけにその顔は笑顔で。
「先生! こんばんは!」
「!?」
背後から聞こえた明るい声に、恐る恐る振り向けば、そこにいたのは昨日再会した教え子が一人。もとい、僕のことが好きだと言ってくれた久保君。
「久保君……」
「あ! 今日はすぐ帰ります。顏が見たくて寄っただけなので! 水野先生、斎藤先生もさようなら」
短くそう言って戻って行った姿は、夕方僕たちが見送った子供と変わらなかった。
「……ね? 水野先生。私の言う通り、久保君来たでしょう?」
斎藤先生の言葉に、「そうですね……」と小さく返事しながら。うっかりハサミを滑らせて、切らなくて良いところも切ってしまった。
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