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5】アタックしていくそうで
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5】アタックしていくそうで
昔の教え子との、12年ぶりのゆっくりとした再会。最初は久保君の成長ぶりに緊張したものの、変わらないところに安堵して。それから、今どきの学生生活を聞きながら会話に花を咲かせた。
そんな時だ。久保君の表情が、急に変わったのは。
何か言いたげな様子に、何か悩み相談かな? と、先程まで悩んでいた「あの事」を頭から抜けていた僕はすっかり油断していたんだ。その瞳が、今思えばどことなく熱を帯びていて。「先生」と言いながら、教え子と先生の関係ではなく。じわりとした熱を感じる視線に気づかなかったのは、僕が恋愛事から随分と離れていたから。
「久保君?」
どうしたんだい? と尋ねるように首を傾げれば、黙ったままの久保君の口が開いてポツリと言った。
「そのっ……先生。やっぱり俺は、先生が好きなんだけど」
「え……────?」
ポカン……と口を開いたままの僕と、僕と視線を合わせたままの久保君。短い時間だというのに、なんだが随分と長い時間のように感じた。
(え? 今、久保君は何て言った? 好き? 隙? 隙なんだけど? 隙があるってこと? いや、違うな。やっぱり好きってことだよね??)
僕の内心は、こんなにも忙しいが身体は動くことなく。ならせめて、視線を逸らせば? と思ったが、それは何だか久保君を拒絶するようで出来ず。
「先生は忘れてるかもしれないけど、俺やっぱり先生が好きなんだ」
黙ったままの僕に対して、久保君が言葉を続ける。真剣な表情が僅かに崩れ、叱られてしょげたように眉尻を垂らして、「忘れているかもしれないけど」と言った言葉に、つい反射的に返事していた。
「忘れてないよ」
開いていた口が嘘のように、スラスラと動いた。久保君のあんな表情を見ていたくなかったし、忘れていないのは事実だから。まぁ……告白に対する返事は何一つ考えていないけれど。
「本当!? 先生、覚えてる?」
「うん……だって久保君、僕が高校生になったらって言ったから、今日会いに来てくれたんでしょう?」
「そうだよ!」
しょげた表情が、また一気に明るくなる。
時間が解決するだろうと、後回しにしたわけじゃないが僕のことを忘れるだろうという方にかけた、昔の僕の精一杯の逃げ道。
(逃げ道にならなかったのかぁ……)
向けられる行為に、嫌悪感は無い。だが、すぐに答えが出せる関係でもない。
「そのっ……久保君……」
僕が何か言おうとすれば、「待って!」と久保君が制止した。
「待って。今の告白は挨拶みたいなものだから……! 先生、今の俺の事知らないし、俺も先生のことで知らない事があるし」
「うん」
「だから、これから前向きにアタックしていこうと思う!」
「うん?」
つまり、これからも僕は告白を受けるってことで合ってる?
その質問の答えは、扉の向こうの廊下がギシギシと音を立て近寄る人の気配で聞くことが出来なかった。僕も久保君もハッとして黙り込み。静かになったタイミングに園長先生たちが戻って来て。
「園長先生、有難うございました。また来ても良いですか?」
「勿論だよ、久保尾君。よかったら、今の園児たちにも学校の話とか聞かせてくれると嬉しいな」
「喜んで。遅くまで、失礼しました」
そう言って行儀良くペコリと頭を下げた久保君は、あっという間に帰って行ったのだった。
********
寝落ちして上げ損ねました
昔の教え子との、12年ぶりのゆっくりとした再会。最初は久保君の成長ぶりに緊張したものの、変わらないところに安堵して。それから、今どきの学生生活を聞きながら会話に花を咲かせた。
そんな時だ。久保君の表情が、急に変わったのは。
何か言いたげな様子に、何か悩み相談かな? と、先程まで悩んでいた「あの事」を頭から抜けていた僕はすっかり油断していたんだ。その瞳が、今思えばどことなく熱を帯びていて。「先生」と言いながら、教え子と先生の関係ではなく。じわりとした熱を感じる視線に気づかなかったのは、僕が恋愛事から随分と離れていたから。
「久保君?」
どうしたんだい? と尋ねるように首を傾げれば、黙ったままの久保君の口が開いてポツリと言った。
「そのっ……先生。やっぱり俺は、先生が好きなんだけど」
「え……────?」
ポカン……と口を開いたままの僕と、僕と視線を合わせたままの久保君。短い時間だというのに、なんだが随分と長い時間のように感じた。
(え? 今、久保君は何て言った? 好き? 隙? 隙なんだけど? 隙があるってこと? いや、違うな。やっぱり好きってことだよね??)
僕の内心は、こんなにも忙しいが身体は動くことなく。ならせめて、視線を逸らせば? と思ったが、それは何だか久保君を拒絶するようで出来ず。
「先生は忘れてるかもしれないけど、俺やっぱり先生が好きなんだ」
黙ったままの僕に対して、久保君が言葉を続ける。真剣な表情が僅かに崩れ、叱られてしょげたように眉尻を垂らして、「忘れているかもしれないけど」と言った言葉に、つい反射的に返事していた。
「忘れてないよ」
開いていた口が嘘のように、スラスラと動いた。久保君のあんな表情を見ていたくなかったし、忘れていないのは事実だから。まぁ……告白に対する返事は何一つ考えていないけれど。
「本当!? 先生、覚えてる?」
「うん……だって久保君、僕が高校生になったらって言ったから、今日会いに来てくれたんでしょう?」
「そうだよ!」
しょげた表情が、また一気に明るくなる。
時間が解決するだろうと、後回しにしたわけじゃないが僕のことを忘れるだろうという方にかけた、昔の僕の精一杯の逃げ道。
(逃げ道にならなかったのかぁ……)
向けられる行為に、嫌悪感は無い。だが、すぐに答えが出せる関係でもない。
「そのっ……久保君……」
僕が何か言おうとすれば、「待って!」と久保君が制止した。
「待って。今の告白は挨拶みたいなものだから……! 先生、今の俺の事知らないし、俺も先生のことで知らない事があるし」
「うん」
「だから、これから前向きにアタックしていこうと思う!」
「うん?」
つまり、これからも僕は告白を受けるってことで合ってる?
その質問の答えは、扉の向こうの廊下がギシギシと音を立て近寄る人の気配で聞くことが出来なかった。僕も久保君もハッとして黙り込み。静かになったタイミングに園長先生たちが戻って来て。
「園長先生、有難うございました。また来ても良いですか?」
「勿論だよ、久保尾君。よかったら、今の園児たちにも学校の話とか聞かせてくれると嬉しいな」
「喜んで。遅くまで、失礼しました」
そう言って行儀良くペコリと頭を下げた久保君は、あっという間に帰って行ったのだった。
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寝落ちして上げ損ねました
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