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1】12年前の告白

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1】12年前の告白

 それは、きっとどこにでもあるような出来事。だが、僕にとっては初めての事だった。

『俺、先生が好き』

キャッキャッと明るい笑い声に、室内を走り回る足音の中に確かに聞こえた告白。可愛い教え子からの好意の言葉に、嫌なことは何もない。同じ目線になるように膝を折り、ニコリと微笑んで嬉しいと伝える。

『本当? 嬉しいな。先生も好きだよ』

これは本心。嬉しい。だが、相手は不服だったようで。僕の言葉に、柔らかな頬を膨らませて抗議した。

『先生、俺本当に先生が好きなの! 大きくなったら俺と結婚して!』

(そういう意味でか~~~~!)

生まれて数年。やっと歩くのに慣れ始め。更には園にやって来た頃は「母さんと一緒にいる!!」と大泣きしていたというのに。今ではズンズンと自分の脚でしっかり歩き、なんだったら駆けっこも速い。色々なことがあるだろうに、こんなに小さくても恋愛とは。

(子供の成長って早いなぁ……)

なんてしみじみ思いながら、目の前の小さな子供の告白を聞いていた。

『先生、お返事は!?』

他の先生からも、お返事をしようと伝えられていることもあり。不服そうな相手は、僕に返事を求める。

(う~ん……。無下に断ることも出来ないし。かといって、「同性の結婚」は出来ないと嘘を伝えるのも良くないし……うぅ゛~~ん……)

随分と難しい問題だと思う。
それもそうだろう。僕に告白しながら「結婚して!」と訴えているのは、小さな「男の子」なのだから。


『先生!』

『えっと……その……』

今の僕に言える言葉は少なくて、これからの将来。色々なことが待っているだろう未来に邪魔にならない程度に返事した。

『久保君は、先生よりも人生が長いからさ。結婚相手を決めるのは、まだ早いよ』

『やだ! 俺が卒園したら、先生誰かに取られちゃうかもしれないじゃん!』

現在進行形でいえば、恋人はいない。(自分で言っといてなんだが、少し傷ついた)
無いとは言えない未来だが、毎日忙しいこともあり恋愛する余裕も無い。だがここで大丈夫だよと言えば、何だか不味い気もする。どうしたものかと考えて、何とか出した妥協案。

『うーん……じゃあさ、久保君が高校3年生になって先生のこと忘れてなかったら、また来てよ』

『こーこーせー?』

『そう。小学校、中学校、それから高校って学校に行くんだ。長いでしょ?』

『えぇ゛―……』

きっとその時は、僕はよい叔父さんだろうし。きっと、久保君だって僕のことを忘れているに違いない。

そう高を括っていたのに…………────。


「水野先生」

「?」

不意に背後から名前を呼ばれて振り向いた。子供たちのような高い声でもなければ、お母さん方、他の先生の声でもない。誰かの保護者か? と思ったが、その姿はまだ幼く。学生服を着た青年が立っていた。

「誰かのお兄さんかな? 名前を教えて頂けますか?」

「俺だよ! 久保圭介。先生が言った通り、高校生になったから会いに来たんだ」

ニカッ! と笑った顔は、幼い頃と変わらず。
変わらないなぁと思いつつも、「あの告白」が僕の頭を過ったのだった。

********
宣伝】最近はPixivの方を更新してました!読んで頂けると幸いです(癖です)
■久しぶりに更新してみました。
繁忙なのと、思いついたら更新する予定なので、そっと見て頂けると嬉しいです。
完結できると良いな…(遠い目)
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