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【読み切り】スパークさんと19号さん

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■こんな設定■

■19号
・ぶかぶか白パーカーに黒いスキニーズボンの男の子
・身体は成長してるけど、赤ちゃん思考
・一人称は俺

■スパーク
・攻めの標準アバターみたいな感じの人
・黒スーツ、眼鏡

※2019年当時の台風擬人化です。何でも許せる方向け
※BLにはしましたが、他の意味で台風を揶揄したりする意図はありません。
ご理解頂ける方のみお進みください
※ご都合主義!短い!健全の小話です
大丈夫、許せる方のみお進み下さい


*******


■スパークさんと19号さん■

 俺自身、気づいたら身体が大きくなっていた。あれよあれよという間に、生まれたと思えばあっという間に子供の時期を過ぎてしまったような。
ああ、そうだ。これはなんていうんだろう。今から向かう方向の昔話で言えば、「浦島太郎」のようなものだろうか? 竜宮城から戻って来た浦島太郎のように、一人取り残されてしまったような。

(重たくなっちまったなぁ……)

意識を取り戻し、ううん……と引きずるように身体を起こした。すると見えた方向に、何となく興味が沸いたんだ。

(ああ、あそこは……)

19号。別名、ハギビス。
そう名付けられた俺は、本能的に分かっている自身の命の短さを感じつつ先に見える先に脚を進めたのだった。

海で生まれた俺は、陸を知らない。山も知らない。俺に名前を付けた人のことも知らない。
知りたいと思っただけなんだ。消えてしまう前に、見て見たいと思っただけなんだ。これは悪いことだっただろうか――――?

*********

 『皆さん、地球規模最大の台風19号の進路予想です』
『超大型の台風19号は……』
『台風の動きにご注意下さい』

「?」

一歩、また一歩と急いで脚を進めていると、どうやら向かう先では俺のことで持ち切りらしい。俺の進む方向が逐一気になっている様子だ。そんなに気にされたら照れると思いながら、なら少し方向を変えてみようと、俺は最初の方向から少しだけ反れた。だが目指す先は変わらない。俺が向かう頃は丁度向こうは休みらしい。

「何かあるかなぁ?」

なんて浮かれながら、大きなパーカーの袖口で上がる口角を隠しながら、あともう少し……歩いていると、海の先に陸地が見えた。

「カントーだ!」

俺が向かっている場所。
漁港、人、家、高い建物、沢山の灯り。
俺が知らないものばかりが詰まったソコ。
ああ、早く行かなくちゃ。俺が消えてしまう前に。俺が19号であるうちに。

海の上ばかり歩いて履いている靴は随分と重たくなっていて、疲れていたが嬉しくて駆けだした。ビチャビチャと靴裏に残った海水が飛び散ったが、気にしない。
早く、早く! ねぇ、君たちはどんな生活をしているの? どんなところに住んでいるの?

「カントーのみん……!」

「カントーの皆」、その言葉を言い切る前に、走り出した俺の腕は突然ガシリと掴まれたのだった。

(え……?)

片腕だけを掴まれ、走っていた勢いを持った身体が前のめりになる。
転びそうになったのを、なんとか耐えたが手首に感じる力は変わらない。俺も結構大きいはずだし、俺みたいな人が他にいるの? と咄嗟に力を感じる方を見れば、これまた知らない人が立って俺を見下ろしていた。

「……誰?」

白いブカブカのパーカー姿の俺と正反対の、きっちりとした黒いスーツを着て眼鏡を掛けた男がそこにいた。

「自己紹介が必要か?俺の名前はスパーク。19号、俺はお前を知っている。嫌というほどな」

「は????」

いや、どういうこと????

俺の疑問は解決することなく、気づいた時にはスパークと名乗った男が今度は俺の腰に腕を回していた。

「ひっ……!」

思わず悲鳴を上げた時には、その顔が俺の前まで近寄っていて。

(あ……)

出会いがしら3秒。
読んだことがない少女漫画なら、マジで恋する5秒前ってやつ? と思ってしまった。よく見なくても男の顔は端正な顔立ちで、切れ長の目が眼鏡のレンズ越しに変わらず俺を逃さない。掴まれた手首と腰が、離れない。あろうことか、このスパークは俺の股の間にも脚を入れ一層身体を密着させた。それは本当に俺を逃さないという意志を感じるほどだ。


「え、あ、え!?!?」

おまけに通った鼻筋に、薄く整った唇。

(これってもしかして。俺、キスされる……!?)

思わずギュッ! と瞼を閉じれば、思っていた衝撃は唇には訪れず低い声が耳元に響いた。鼓膜を震わせる低音は、掴まれている腰まで響いて初めての感覚にゾクリとしながら腰が震えた。

「ふ、ぁ……ぁ」

「19号。お前が全部悪いとは言わないが、お前に仕置きをするために、俺は来たんだ」

仕置き!?

その言葉に驚いて、すぐに目を開きスパークを見た。

「え、あ、スパーク……さん?仕置きって……?」

だって俺はまだ生まれたばかりだから。
俺はまだ何も悪い事なんてしてない。どうして? どうして?

そんな疑問ばかりが俺の頭を埋め尽くし始める。知らない男の人に道は阻害され、抱き締められ、本当に俺が何をしたって言うんだ!

「俺、まだ何も悪い事してないですよ……?」

「……やはり、お前の眼は大きいな。その眼の大きさに、お前はどれほどの力があるか知っているのか?」

「?」

「お前が全部悪いとは言わない。ただ、お前は大きくなり過ぎたんだ。それにタイミングも悪かった。もう少し規模を弱め、平日にくれば一部には歓迎されただろうに……」

「どういうこと……?」

俺はまだ思考が身体の成長に見合っておらず、理解が難しかった。

「お前は地球史上最大級の力を持っている」

今度こそ鼻筋にかかった眼鏡がカチャンと音を立て、俺の唇は塞がれたのだった。


「……ん、ぁ……」


重なった唇が、俺の呼吸を奪う。閉じている唇に「開けろ」というように触れて来た舌が、許可もしていないのに俺の口内へと侵入してきた。
歯列をなぞるだけでゾクリとした感覚が走る。それだけでも辛いのに、侵入した舌は熱く、上顎の裏からなぶるように口内を撫でた。

「~~~~っ♡!!、ふっ♡んぅぅっ!!」

ゾクゾクとする刺激が俺を襲う。
助けて、助けて! 体中がビクビクと震えている。反射的に逃げようとしても、抱き締められた身体は逃げることは出来ない。俺に出来る事は舌の侵入を許し、初めての刺激に耐えることだけだった。

レロッ。レロォ。ぴちゃっ。

「ふ、ぅ、ぅぅっ♡」

この距離ではきっとスパークは俺の荒い鼻息を肌に感じているはずなのに、この男は顔色一つ変える様子がない。俺の舌の根元にまで自身の舌を絡め、ぐりぐりと撫でるとようやく俺の口内から侵入者である舌が出て行った。

ゆっくりと離れていく舌先に、俺とスパークを繋ぐ細い糸が出来ていて、それが何となく俺の頭をまたおかしくさせる。クラクラとする頭でその糸を見ていると、中心部分でプツリと切れた。身体の力が抜けて、このままでは倒れてしまいそうだった。いや、正直倒れたかった。この感じたことのない刺激に仕置きがまだあるというのなら、倒れた方がマシだ。

「しおき……終わった……?」

「まだだ。せめて優しくしてやる」

どこが優しいんだ! そう反論したくても、行き絶え絶えの俺は言えるはずもなく。

「俺は、ただ……世界を見たかっただけなのに……」

少しだけ泣きなくなった。いや、視界が少しぼやけたから泣いてしまったんだろう。
その涙を拭ったスパークの仕草に、不覚にも胸がドキンと鳴った。
はぁはぁと乱れる呼吸の中、もう一度近づいてくる顔に、俺は瞼を閉じたのだった――――。

*******
紹介にも記載しておりましたが、2019年当時のものです
偶然発掘し、勿体ないのでアップしました。記憶が全くなくて、自分で発掘してびっくりしました。
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