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166】思い出だけでもというので③
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166】思い出だけでもというので③
「フラれるのは、本当にいいんです。俺の気持ちの整理のために、好きだと伝えただけなんで。ただ、そのっ……俺の我がままだって分かってるんですけど……!」
突然のマークの告白に、内心戸惑う私。
恋愛に対して疎いことはあるが、気持ちには返事をしなければならない。素直に疎いことは伝えた。中途半端な気持ちで返事をするのは、余計に傷つけてしまうだろう。だが、嫌いというわけでもない。今私が伝えられることといえば、好意に対して嬉しいという感想くらい。じゃあ、恋人になるのか? と問われれば、それとも違う。
マーク自身も、そういった関係は無理だろうと分かっているが傷つけなくない。
(こういう時。どういう風に言葉を選んだら良いのだろう?)
レオ殿なら、サラリと言葉が出て来るんだろうか? 一瞬、この場にいない人物のことを考えてしまった。
「アラン様」
その刹那。困ったような。それでいて、どうしたら良いか分からない表情。助けて欲しいと訴えるように、マークが私を見つめた。
「マーク?」
大丈夫だと言えば良いのだろうか? ああ、こんなことなら、恋愛小説でも読んでおくべきだったとか考えたが、私よりも速くマークが言った。
「アラン様。俺に思い出をくれませんか?」
「思い出?」
思い出。そう言われた言葉に、ピンとこなかった。
(思い出をくれないか、とは……?)
記憶に残るようなものが欲しいということなのだろう。だが一体なんだ? 今は特に渡せるようなものは持っていない。
「思い出……すまない、マーク。今は何も持ち合わせていないんだ。君が良ければ、今度何か贈り物をするが? 何か希望はあるか?」
「そういう大層なものじゃなくて良いんです。あの、アラン様。抱き締めても良いですか?」
抱き締める。まるでレオ殿のように許可を求めてくるマークに、私は別段拒絶する気は無かった。
「別に良いが」
「有難うございます。では、失礼します」
私に近づいて来たマークが、ゆっくりと腕を伸ばす。それから腕が私の背中へ。背丈は私と同じくらいのマークの身体と密着し、私は手をどうすれば良いか分からず地面に向かって伸ばしていた。背中からゆっくりと腕の圧を感じ、身体が更に密着する。ドキドキと胸は鳴らなかったが、嫌悪感も無かった。
「アラン様」
すりっ……と、マークが私の首筋に甘えるように頭を擦り寄せる。それから耳元で「アラン様」ともう一度囁いた。
「アラン様。一度で良いんです。口づけしても良いですか?」
「え……?」
思わず首を動かせば、すぐにマークと視線が合った。まっすぐに私を見つめる瞳は、変わらず助けてと訴えている。
「一度で良いんです。思い出が欲しいんです、アラン様。そしたら、もうこの気持ちを前に出さないようにするので」
心のどこかで、駄目だという気持ちと。私しかマークを助けてやれないの気持ちがあったが、私は騎士団長なんだ。可愛い部下を助けなければという気持ちが勝った。
「……分かった。マーク、一度だけだ。気持ちに応えられないが、一度だけ口づけを交わそう」
静かに目を閉じれば、ゆっくりと顔が近づいて来る気配を感じた。
──────ちゅっ。
触れるだけの感触は、柔らかく。一瞬だったのか、それとも暫く重ね合ったのか。分からないまま、気づけば唇は離れ。それから背中に回っていた腕も離れ。
「有難うございます、アラン様。俺の恋に、踏ん切りがつきました」
「……ああ、そうか。だが無理するなよ」
「はい! じゃあ、俺。訓練に戻りますね!!」
頭を深々と下げたマークが、急いで走り去っていく。残された私は、そっと自身の唇に触れた。
(レオ殿以外と、口づけをしてしまったな……)
不思議と感じたのは、罪悪感に似たものだった。
「いや、私たちはそういう関係ではないのだし」
それに、私の唇の一つや二つ。そう思いながら、私はマークが元気になれば良いと思った。
私たちのいる庭園が、城のある通りの上から見えて。さらには、たまたまその通りに人がいて。その人が、この国一番の賢者で。
「ふーん……」
一部始終を見られていたことを、私は知らない。
*******
お気に入り・エール・イイネ・コメント有難うございます!嬉しいです!
更新しました!また詰んだので次回はちょっと時間あくかもです><
「フラれるのは、本当にいいんです。俺の気持ちの整理のために、好きだと伝えただけなんで。ただ、そのっ……俺の我がままだって分かってるんですけど……!」
突然のマークの告白に、内心戸惑う私。
恋愛に対して疎いことはあるが、気持ちには返事をしなければならない。素直に疎いことは伝えた。中途半端な気持ちで返事をするのは、余計に傷つけてしまうだろう。だが、嫌いというわけでもない。今私が伝えられることといえば、好意に対して嬉しいという感想くらい。じゃあ、恋人になるのか? と問われれば、それとも違う。
マーク自身も、そういった関係は無理だろうと分かっているが傷つけなくない。
(こういう時。どういう風に言葉を選んだら良いのだろう?)
レオ殿なら、サラリと言葉が出て来るんだろうか? 一瞬、この場にいない人物のことを考えてしまった。
「アラン様」
その刹那。困ったような。それでいて、どうしたら良いか分からない表情。助けて欲しいと訴えるように、マークが私を見つめた。
「マーク?」
大丈夫だと言えば良いのだろうか? ああ、こんなことなら、恋愛小説でも読んでおくべきだったとか考えたが、私よりも速くマークが言った。
「アラン様。俺に思い出をくれませんか?」
「思い出?」
思い出。そう言われた言葉に、ピンとこなかった。
(思い出をくれないか、とは……?)
記憶に残るようなものが欲しいということなのだろう。だが一体なんだ? 今は特に渡せるようなものは持っていない。
「思い出……すまない、マーク。今は何も持ち合わせていないんだ。君が良ければ、今度何か贈り物をするが? 何か希望はあるか?」
「そういう大層なものじゃなくて良いんです。あの、アラン様。抱き締めても良いですか?」
抱き締める。まるでレオ殿のように許可を求めてくるマークに、私は別段拒絶する気は無かった。
「別に良いが」
「有難うございます。では、失礼します」
私に近づいて来たマークが、ゆっくりと腕を伸ばす。それから腕が私の背中へ。背丈は私と同じくらいのマークの身体と密着し、私は手をどうすれば良いか分からず地面に向かって伸ばしていた。背中からゆっくりと腕の圧を感じ、身体が更に密着する。ドキドキと胸は鳴らなかったが、嫌悪感も無かった。
「アラン様」
すりっ……と、マークが私の首筋に甘えるように頭を擦り寄せる。それから耳元で「アラン様」ともう一度囁いた。
「アラン様。一度で良いんです。口づけしても良いですか?」
「え……?」
思わず首を動かせば、すぐにマークと視線が合った。まっすぐに私を見つめる瞳は、変わらず助けてと訴えている。
「一度で良いんです。思い出が欲しいんです、アラン様。そしたら、もうこの気持ちを前に出さないようにするので」
心のどこかで、駄目だという気持ちと。私しかマークを助けてやれないの気持ちがあったが、私は騎士団長なんだ。可愛い部下を助けなければという気持ちが勝った。
「……分かった。マーク、一度だけだ。気持ちに応えられないが、一度だけ口づけを交わそう」
静かに目を閉じれば、ゆっくりと顔が近づいて来る気配を感じた。
──────ちゅっ。
触れるだけの感触は、柔らかく。一瞬だったのか、それとも暫く重ね合ったのか。分からないまま、気づけば唇は離れ。それから背中に回っていた腕も離れ。
「有難うございます、アラン様。俺の恋に、踏ん切りがつきました」
「……ああ、そうか。だが無理するなよ」
「はい! じゃあ、俺。訓練に戻りますね!!」
頭を深々と下げたマークが、急いで走り去っていく。残された私は、そっと自身の唇に触れた。
(レオ殿以外と、口づけをしてしまったな……)
不思議と感じたのは、罪悪感に似たものだった。
「いや、私たちはそういう関係ではないのだし」
それに、私の唇の一つや二つ。そう思いながら、私はマークが元気になれば良いと思った。
私たちのいる庭園が、城のある通りの上から見えて。さらには、たまたまその通りに人がいて。その人が、この国一番の賢者で。
「ふーん……」
一部始終を見られていたことを、私は知らない。
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