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56】【番外編】とある賢者が気になることは②
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56】【番外編】とある賢者が気になることは②
(アラン様に、女の気配は今のところ無さそうだ)
ほっと胸を撫でおろしつつ、機嫌が良くなる俺。王様まで機嫌が良いなと指摘するほど、俺は随分と明るい表情をしているらしい。今なら難しい問題も、ちょちょいと解決することだって出来る気がする。
「ああ、そうだ。王様、俺はもう戻っても?」
「お主……アランのところへ行くつもりだろう?」
「正解。王様も賢者の素質がありますよ。それとも名探偵の素質かな?」
「アランに関してのお主が、分かりやす過ぎるんじゃ」
「そうですか?」
「そうじゃ」
「まぁ……じゃあ、そういうことで。俺は戻りますよ」
「好きにせい」
大きな帽子を脱いで、深々とお辞儀。礼儀正しく部屋を出て、カツカツと城の中を歩いてみる。
(朝だったら、文官室があるチャンスがあるってことを知ったんだが……。この時間、アラん様はどこにいるだ?)
忙しいアラン様だ。毎日同じスケジュールというわけでもない。
「やはり文官室に行って、アラン様の予定を聞いた方が早いか?」
書庫、訓練場。はたまた、城を出ている可能性だって0じゃない。
(あー……今、凄くアラン様に会いたいんだけどな)
好きな人に会いたい。それは誰しも思うことだろう?
さてどうするか。やはり文官室に行った方が早いと足を向けた……までは良かった。
「ん? あれは……」
願ったり叶ったり。俺が見間違えるはずもない人物の後ろ姿が見えた。アラン様だ。書類を持っている様子。何か書類仕事でも片づけにやって来たのか? と思いつつ声をかけようとしたが、俺よりも早く声をかけた人物がいた。
「アラ……」
「アラン様!」
(ん?)
俺はまだアラン様までの距離は遠く、なんなら気づいて貰えない距離だ。だが俺よりも先に声をかけた人物──城内の女性はアラン様に至近距離で何か楽しそうに話していた。分け隔てなく接するアラン様だ。おそらくあの様子では、給仕関係だろうか。親しげに話したあと、そっと手の中から小さな包みを取り出して渡している様子が見えた。
(全く油断も隙もない……!)
端的にいえば嫉妬だ。羨ましいとか、俺も! とか。
城内ではアラン様の傍にいても違和感がないくらい、ゆったりと過ごしているというのに。タタタッ、と走ってアラン様の隣に行って良いのなら、俺だって。
ズンッ、と一歩大きく踏み出して早歩きでアラン様の元へ。だんだんと二人の会話も聞こえてきて、アラン様に作った菓子を食べて欲しいとのことらしい。
(ふーん)
「こんにちは、アラン様。今、お話し宜しいですか?」
「け、賢者様」
「おや、レオ殿。こんにちは」
落ち着いて、出来るだけ普段通りに。賢者として、愛想よく。自分に注意しつつ、俺はちゃんと笑えているだろうか。
「ええ、勿論。すまない。では私はこれで。菓子を有難う。あとで二人で頂くよ」
「は、はいっ!」
ニコリと柔和に微笑むアラン様。この顔が、騎士団長とは思えない顔へ変わるのを知っているのは俺だけ。そう自分に言い聞かせて、平常心を装った。
(今、この前みたいな口づけたらどんな顔をするんだろうか)
そんなことを思いながら、俺はアラン様が「行きましょう」と前を歩いてくれたので少しだけまた機嫌が良くなった。
(俺が案外とアラン様には単純だって、本人は知らないだろうなぁ)
そう思いながら、アラン様の手に握られた菓子に変わらず嫉妬する俺だった。
(あの菓子は、絶対俺が全部食べるぞ)
********
コメント有難うございました!(^^)嬉しかったです。
繁忙とネタ切れのため、暫く更新止まると思います><
(アラン様に、女の気配は今のところ無さそうだ)
ほっと胸を撫でおろしつつ、機嫌が良くなる俺。王様まで機嫌が良いなと指摘するほど、俺は随分と明るい表情をしているらしい。今なら難しい問題も、ちょちょいと解決することだって出来る気がする。
「ああ、そうだ。王様、俺はもう戻っても?」
「お主……アランのところへ行くつもりだろう?」
「正解。王様も賢者の素質がありますよ。それとも名探偵の素質かな?」
「アランに関してのお主が、分かりやす過ぎるんじゃ」
「そうですか?」
「そうじゃ」
「まぁ……じゃあ、そういうことで。俺は戻りますよ」
「好きにせい」
大きな帽子を脱いで、深々とお辞儀。礼儀正しく部屋を出て、カツカツと城の中を歩いてみる。
(朝だったら、文官室があるチャンスがあるってことを知ったんだが……。この時間、アラん様はどこにいるだ?)
忙しいアラン様だ。毎日同じスケジュールというわけでもない。
「やはり文官室に行って、アラン様の予定を聞いた方が早いか?」
書庫、訓練場。はたまた、城を出ている可能性だって0じゃない。
(あー……今、凄くアラン様に会いたいんだけどな)
好きな人に会いたい。それは誰しも思うことだろう?
さてどうするか。やはり文官室に行った方が早いと足を向けた……までは良かった。
「ん? あれは……」
願ったり叶ったり。俺が見間違えるはずもない人物の後ろ姿が見えた。アラン様だ。書類を持っている様子。何か書類仕事でも片づけにやって来たのか? と思いつつ声をかけようとしたが、俺よりも早く声をかけた人物がいた。
「アラ……」
「アラン様!」
(ん?)
俺はまだアラン様までの距離は遠く、なんなら気づいて貰えない距離だ。だが俺よりも先に声をかけた人物──城内の女性はアラン様に至近距離で何か楽しそうに話していた。分け隔てなく接するアラン様だ。おそらくあの様子では、給仕関係だろうか。親しげに話したあと、そっと手の中から小さな包みを取り出して渡している様子が見えた。
(全く油断も隙もない……!)
端的にいえば嫉妬だ。羨ましいとか、俺も! とか。
城内ではアラン様の傍にいても違和感がないくらい、ゆったりと過ごしているというのに。タタタッ、と走ってアラン様の隣に行って良いのなら、俺だって。
ズンッ、と一歩大きく踏み出して早歩きでアラン様の元へ。だんだんと二人の会話も聞こえてきて、アラン様に作った菓子を食べて欲しいとのことらしい。
(ふーん)
「こんにちは、アラン様。今、お話し宜しいですか?」
「け、賢者様」
「おや、レオ殿。こんにちは」
落ち着いて、出来るだけ普段通りに。賢者として、愛想よく。自分に注意しつつ、俺はちゃんと笑えているだろうか。
「ええ、勿論。すまない。では私はこれで。菓子を有難う。あとで二人で頂くよ」
「は、はいっ!」
ニコリと柔和に微笑むアラン様。この顔が、騎士団長とは思えない顔へ変わるのを知っているのは俺だけ。そう自分に言い聞かせて、平常心を装った。
(今、この前みたいな口づけたらどんな顔をするんだろうか)
そんなことを思いながら、俺はアラン様が「行きましょう」と前を歩いてくれたので少しだけまた機嫌が良くなった。
(俺が案外とアラン様には単純だって、本人は知らないだろうなぁ)
そう思いながら、アラン様の手に握られた菓子に変わらず嫉妬する俺だった。
(あの菓子は、絶対俺が全部食べるぞ)
********
コメント有難うございました!(^^)嬉しかったです。
繁忙とネタ切れのため、暫く更新止まると思います><
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