【完結・BL】誰かを忘れられない、お父さんと僕【年下×年上】

彩華

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【BL】ふと、初めて父親になった時のことを思い出した【息子×養父】

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■ふと、初めて父親になった時のことを思い出した■

 ああ、どうしてこんなことしてるんだっけ?

ぼんやりと頭の隅で考えた。駄目だ。押し返さないと。俺のせいで、こんな。コイツには、コイツの人生があって大学に行ったらきっと彼女も出来るはずなんだ。
なのに、こんな────そんな言葉は浮かんでくるのに「お父さん」と俺を呼んだ顔が、やっぱり親子だ。少し垂れた目尻がアイツにそっくりだな、なんて思ってしまったから。


(    )


未だに忘れられない初恋の影に、俺はただ流されるまま。

「……こんなおっさん、抱いても後悔しかねぇからな」

何て答えてしまい。

「そんなことないよ」

目の前の、もっと小さなころから知っている今では我が子同然のコイツの感情に甘えた。


********

 それは、普段と何も変わらない一日だった。
突然鳴った携帯電話。表示を見れば、母さんの文字。また何か心配事か? と思いながらも、プッ……とすぐに通話のボタンを押した。

「もしもし、母さん? どうかした?」

母さんの声が、いつもより慌てている様子だったのを覚えている。その後、どんな話をしたか覚えていないが、しっかり覚えているのは「落ち着いて聞いてね?」の後に続く言葉。それから、ヒュッ……と心臓が詰まって、息苦しくなって。昔から知っているアイツの笑顔が頭の裏にチラついた。

初恋の相手が、交通事後で亡くなった、と。

結婚式に招待されて、友人代表で話した。そうだ、アイツには奥さんだって、子供だっていた。母さんに食い入るように話を聞けば、奥さんも同じく亡くなり奇跡に助かったのは子供だけとも聞いた。

「葬儀は?」

渇いたままの喉で日時を聞いて、そのまま急いで地元に帰ったのは覚えている。
久しぶりです、なんて正月でもなく。全然めでたくない白と黒に覆われた家の中に、アイツと奥さんが眠っていたっけ。

(子供の奇跡的に無事で、大きな損傷は免れている事故なら、二人も奇跡的に助かればよかったのに……)

珍しく心の中で、悪態をついた。
お経が読まれる中、すすり泣く声と聞こえるのは残った子供はどうするのか? という現実問題。夫婦の親はともに高齢。他の親族もこの世の中だ。子供一人、急に受け入れられる余裕もない。もしかしたら、施設に入れるしかないという。

「……」

葬儀は着々と進み。
チラリと訳も分からないまま、残った子供を見れば以前見た時よりもアイツに似ていた。

(それなら俺が……)

幼馴染で初恋で、しかも男で。
子供とアイツを重ね、最期は小さな骨になったアイツの子供に声を掛けたのは俺の方だった。


「なぁ、君。俺のこと知ってるかな? お父さんの友達なんだけど……そのっ、君が良かったらだけど、俺のとこ来る? 無理にとは言わないけど……」

俺の言葉を聞いて、じっ……と俺を見上げた子供。

「……良いの?」

子供らしい高い声がしたあと、小さな手が俺の手を握った。

「おじさんのとこで暮らしたい」


それが、俺が初めて父親になった日。

*************
*********
******

 それから、トントンと子供を引き取り育てることの了承を得て、片手以上の年月が過ぎた。男で一つ、苦労してないとは言わないが不自由はないよう育てて来たつもりだったのに。

一緒に暮らすようになって、何度目かの桜の花が咲く季節。
とりわけ、今年は高校を卒業する特別な春。大学にも合格し、小さかった子供が大人へと一歩近づく頃。

(そろそろ、距離を置いた方が良いな)

自身の引きづる初恋を、どこかコイツに重ね合わせるのが申し訳なく感じ始めている時だった。



「お父さん。僕、お父さんのこと好きなんだけど?」



その一言に、駄目だと思いながら何故か喜ぶ俺がいた。

■ふと、初めて父親になった時のことを思い出した■
 
 それから流されるように、俺は欲に溺れ。
最後に意識を手放しながら、遠くで「お父さん、僕のこと好きになりなよ」という言葉が聞こえていた。

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