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■宙を舞う缶コーヒー①
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■宙を舞う缶コーヒー①
異世界転生。そんな文言を、俺は何度も見ている。どこでかって? 満員電車の中だ。いつも乗る車両のドアに、ペタリと貼られているシール。「異世界転生!」と書いてある後に続く文字は、それはもう夢のような文言が続く。大体どれも特別な力を持った勇者になれる。
(良いなぁ……俺も行けるもんなら、異世界転生ってのをしてみたいぜ)
そう思ったところで、俺がするべきことは次の駅で降りて会社へ向かうこと。静かながら、ミチミチと密どころか着の状態に耐えながら、俺は今日も仕事に向かった。
「高見くん、それが終わったコレ。宜しく頼むよ」
「はい」
「高見、コレ分かる?」
「それ、次の会議の資料ですよね?」」
「おお~! 流石、高見。なら高見がやっておいてくれよ」
「え? ちょっ……、俺今別の……」
「な? 高見」
待って下さいと口を動かそうとした時は、既に相手の姿は無かった。
「……はぁ……」
俺の名前は高見一郎。32歳、独身。身長は比較的高く、車内では一番高い。おかげで高見は名は体を表しているなと勝手に言われている。(偶然だろ)
どうでも良いが、童貞。告白されたことはあれど、今まで一度として首を縦に振ったことが無かった。気持ちも無いのに付き合うことも出来ないと、丁寧に断り続けて来た。
(恋愛に、興味が無いわけじゃないだが……)
何度目かの溜息。
カチッ……とパソコンのキーボードを打つ音に混じり俺の溜息が響いた。恋愛に興味が無いわけではないが、ドキドキと感じたことのない高揚感の経験が無い。あったとすれば、自身の自覚している性癖というべきか、何というべきか……「大きいもの」に興奮する以上の高揚が無かった。
昔から、飛行機に電車。大きな恐竜のぬいぐるみ。何かと大きいものが好きだった。ああ、1つだけ恋愛にならないが経験したことがあったと思い出したのは、随分前。学生時代に自身よりも身長の高い先輩にドキドキとしたっけ。
「恋愛……出来ないよなぁ……」
「ん? 高見君。どうしたの?」
「あ、いえ! すみません」
いけない。ボサッとしていたところで、仕事は終わらないんだ。そうだ、コーヒーでも飲んでシャキッとしよう。それが良い。ちょっと気分転換だと立ち上がり。別階にある自販機へと向かった。
最近冷えたこともあり、自販機には「あったか~い」の文字が並ぶ。無糖にするか、微糖にするか迷いながら、微糖のボタンを押していた。ガタッ! と音を立て落ちて来た缶コーヒーは文字通り温かい。冷えて来たし、温かいものに限るなとウキウキしながら来た道を戻っていた時のことだった。
「うぁっ…‥!?」
ガクン! と足裏が滑り、膝が伸び。一瞬の出来事のはずが、頭のどこかで冷静な俺が頭の中で言った。
(俺、階段から落ちてるな)
ズルッ! と身体が浮いて、何となく無重力。わぁ~、宇宙ってこんな感じなのか? と思いながら、打ちどころが悪くありませんようにとか、労災は出るのか? とか。ついでにちょっと仕事休んでも良いのかな? なんてことを考えながら、同時に少しだけ怖かった。
(俺、死なないよな……?)
そこで俺の意識はブツリと切れた。
*******
そっと投稿してみました
異世界転生。そんな文言を、俺は何度も見ている。どこでかって? 満員電車の中だ。いつも乗る車両のドアに、ペタリと貼られているシール。「異世界転生!」と書いてある後に続く文字は、それはもう夢のような文言が続く。大体どれも特別な力を持った勇者になれる。
(良いなぁ……俺も行けるもんなら、異世界転生ってのをしてみたいぜ)
そう思ったところで、俺がするべきことは次の駅で降りて会社へ向かうこと。静かながら、ミチミチと密どころか着の状態に耐えながら、俺は今日も仕事に向かった。
「高見くん、それが終わったコレ。宜しく頼むよ」
「はい」
「高見、コレ分かる?」
「それ、次の会議の資料ですよね?」」
「おお~! 流石、高見。なら高見がやっておいてくれよ」
「え? ちょっ……、俺今別の……」
「な? 高見」
待って下さいと口を動かそうとした時は、既に相手の姿は無かった。
「……はぁ……」
俺の名前は高見一郎。32歳、独身。身長は比較的高く、車内では一番高い。おかげで高見は名は体を表しているなと勝手に言われている。(偶然だろ)
どうでも良いが、童貞。告白されたことはあれど、今まで一度として首を縦に振ったことが無かった。気持ちも無いのに付き合うことも出来ないと、丁寧に断り続けて来た。
(恋愛に、興味が無いわけじゃないだが……)
何度目かの溜息。
カチッ……とパソコンのキーボードを打つ音に混じり俺の溜息が響いた。恋愛に興味が無いわけではないが、ドキドキと感じたことのない高揚感の経験が無い。あったとすれば、自身の自覚している性癖というべきか、何というべきか……「大きいもの」に興奮する以上の高揚が無かった。
昔から、飛行機に電車。大きな恐竜のぬいぐるみ。何かと大きいものが好きだった。ああ、1つだけ恋愛にならないが経験したことがあったと思い出したのは、随分前。学生時代に自身よりも身長の高い先輩にドキドキとしたっけ。
「恋愛……出来ないよなぁ……」
「ん? 高見君。どうしたの?」
「あ、いえ! すみません」
いけない。ボサッとしていたところで、仕事は終わらないんだ。そうだ、コーヒーでも飲んでシャキッとしよう。それが良い。ちょっと気分転換だと立ち上がり。別階にある自販機へと向かった。
最近冷えたこともあり、自販機には「あったか~い」の文字が並ぶ。無糖にするか、微糖にするか迷いながら、微糖のボタンを押していた。ガタッ! と音を立て落ちて来た缶コーヒーは文字通り温かい。冷えて来たし、温かいものに限るなとウキウキしながら来た道を戻っていた時のことだった。
「うぁっ…‥!?」
ガクン! と足裏が滑り、膝が伸び。一瞬の出来事のはずが、頭のどこかで冷静な俺が頭の中で言った。
(俺、階段から落ちてるな)
ズルッ! と身体が浮いて、何となく無重力。わぁ~、宇宙ってこんな感じなのか? と思いながら、打ちどころが悪くありませんようにとか、労災は出るのか? とか。ついでにちょっと仕事休んでも良いのかな? なんてことを考えながら、同時に少しだけ怖かった。
(俺、死なないよな……?)
そこで俺の意識はブツリと切れた。
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