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1】プロローグ:始まりは昔のことだった
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1】プロローグ:それは昔のことだった
「カレン。掃除が終わったら、紅茶を淹れてくれる?」
「はい、奥様。かしこまりました」
私の名前はカレン。しがないメイドだ。
自身の出自は、聞いた話によるとポツンと。小さな籠に入って、今仕えているお屋敷の前に置かれていたらしい。故郷も知らず、親の顏も知らず。何て親だと思ったが、今の私はメイドとして幸せな生活を送っているので考えないようにしている。
赤ん坊だった私を受け入れ。さらには働かせて下さっているのは、この国の中でも一番大きなお屋敷────グラハム家。貴族であり、この地区を収める伯爵家。奥様は、赤ん坊の私を一番に見つけ、すぐに抱きかかえて下さったらしい。その後、孤児院にだって入れることが出来たのに、奥様は私を孤児院に入れることはせず。使用人の子として育てて下さっている。
「ああ、そうだ。カレン」
「はい、奥様」
「お茶は、二人分ね? 貴方と私。二人きりで、私の部屋よ。分かった?」
「はい! はい奥様! すぐにお伺いします!」
奥様が戻って来たと思えば、ウインクを一つ。話の素振りに、ピンとくる私は、嬉しくて思わず小さく飛び跳ねた。奥様と二人きりのお茶会だ! と急いでいる掃除を済ませ、用具を片づけ。私は習った通りの美味しいお茶の淹れ方で、奥様へ紅茶を運んだ。
コンコン、とノックを二回。それから小さく咳払いをして、声をかける。
「奥様、カレンです。紅茶をお持ちしました」
ガチャリと開いた扉に、微笑む奥様。
「カレン、待っていたわ」
「失礼致します」
広いお屋敷の一室。奥様の部屋も広くて大きい。テーブルの上に、紅茶のセットと焼き菓子。
「奥様、一緒にクッキーをお持ちしました」
「嬉しいわ」
「さぁ、カレン。座って、この部屋には二人だけよ」
「はい、奥様」
二人きりの時、奥様は母親のように私に接して下さる。とても優しい奥様だ。
「カレン。最近の学校生活はどう?」
「まずまずです。文学ともに、グラハム家のメイドとして恥ずかしい評価は受けておりません!」
「まぁ、頼もしい。といっても……子供の成長とは早いものね。赤ん坊だったあなたが、もう12歳だなんて」
「奥様のおかげです。感謝しきれません」
「そんなことは無いわ。ところでカレン。お願いがあるのだけれど」
「お願い? 奥様が、私にですか?」
「ええ、カレンに是非お願いしたいことなの」
「何でしょう?」
「失礼、少し待っていてね」
ニコリと奥様が微笑んで、一度部屋を出る。奥様のお願いとは? と意外なことに、何だろう? と思いながら少しだけ緊張した。
(私に是非お願いしたいだなんて)
素直に嬉しい。きっと私は、どんな難題だって、奥様の頼みを聞くんだろう。
「カレン、入るわよ」
「はい、奥様」
時間はそうかからず、奥様が戻って来た。ただ違うのは、その膝元に見知った顏があること。
「こんにちは、カレン」
「こんにちは、アーサー様」
アーサー様。奥様の御子息で、このグラハム家の一人息子。
幼く高い声に、可愛らしい顔立ち。アーサー様が赤ん坊の頃から、私は知っている。奥様にアーサー様を抱っこさせて頂いたこともあり、可愛くて仕方がない。
「カレン。私のお願いなのだけれど、アーサー様も5歳になったわ。少しずつ教養などを身につけさせたいのだけれど、アーサー専任のメイドを務めてくれないかしら?」
「わ、私が、アーサー様の専任……!?」
「ええ。お願いよ、カレン。これはアーサー自身たっての希望なの」
「アーサー様が、私を……?」
歩き始めた頃よりも伸びた身長。おぼつかなかった足元が、今はしっかりと歩けるようになり。私の側にやってきたアーサー様が、私の手を握っていった。
「カレン。僕ね、カレンが大好きなんだ。だから、僕だけのメイドになってくれる?」
「まぁ、アーサーったら」
「あ、アーサー様!?」
5歳といえど、流石は伯爵家の御子息というべきか。
その一言に私は驚きながらも、胸がキュンとしてしまったのだった。
*******
「カレン。掃除が終わったら、紅茶を淹れてくれる?」
「はい、奥様。かしこまりました」
私の名前はカレン。しがないメイドだ。
自身の出自は、聞いた話によるとポツンと。小さな籠に入って、今仕えているお屋敷の前に置かれていたらしい。故郷も知らず、親の顏も知らず。何て親だと思ったが、今の私はメイドとして幸せな生活を送っているので考えないようにしている。
赤ん坊だった私を受け入れ。さらには働かせて下さっているのは、この国の中でも一番大きなお屋敷────グラハム家。貴族であり、この地区を収める伯爵家。奥様は、赤ん坊の私を一番に見つけ、すぐに抱きかかえて下さったらしい。その後、孤児院にだって入れることが出来たのに、奥様は私を孤児院に入れることはせず。使用人の子として育てて下さっている。
「ああ、そうだ。カレン」
「はい、奥様」
「お茶は、二人分ね? 貴方と私。二人きりで、私の部屋よ。分かった?」
「はい! はい奥様! すぐにお伺いします!」
奥様が戻って来たと思えば、ウインクを一つ。話の素振りに、ピンとくる私は、嬉しくて思わず小さく飛び跳ねた。奥様と二人きりのお茶会だ! と急いでいる掃除を済ませ、用具を片づけ。私は習った通りの美味しいお茶の淹れ方で、奥様へ紅茶を運んだ。
コンコン、とノックを二回。それから小さく咳払いをして、声をかける。
「奥様、カレンです。紅茶をお持ちしました」
ガチャリと開いた扉に、微笑む奥様。
「カレン、待っていたわ」
「失礼致します」
広いお屋敷の一室。奥様の部屋も広くて大きい。テーブルの上に、紅茶のセットと焼き菓子。
「奥様、一緒にクッキーをお持ちしました」
「嬉しいわ」
「さぁ、カレン。座って、この部屋には二人だけよ」
「はい、奥様」
二人きりの時、奥様は母親のように私に接して下さる。とても優しい奥様だ。
「カレン。最近の学校生活はどう?」
「まずまずです。文学ともに、グラハム家のメイドとして恥ずかしい評価は受けておりません!」
「まぁ、頼もしい。といっても……子供の成長とは早いものね。赤ん坊だったあなたが、もう12歳だなんて」
「奥様のおかげです。感謝しきれません」
「そんなことは無いわ。ところでカレン。お願いがあるのだけれど」
「お願い? 奥様が、私にですか?」
「ええ、カレンに是非お願いしたいことなの」
「何でしょう?」
「失礼、少し待っていてね」
ニコリと奥様が微笑んで、一度部屋を出る。奥様のお願いとは? と意外なことに、何だろう? と思いながら少しだけ緊張した。
(私に是非お願いしたいだなんて)
素直に嬉しい。きっと私は、どんな難題だって、奥様の頼みを聞くんだろう。
「カレン、入るわよ」
「はい、奥様」
時間はそうかからず、奥様が戻って来た。ただ違うのは、その膝元に見知った顏があること。
「こんにちは、カレン」
「こんにちは、アーサー様」
アーサー様。奥様の御子息で、このグラハム家の一人息子。
幼く高い声に、可愛らしい顔立ち。アーサー様が赤ん坊の頃から、私は知っている。奥様にアーサー様を抱っこさせて頂いたこともあり、可愛くて仕方がない。
「カレン。私のお願いなのだけれど、アーサー様も5歳になったわ。少しずつ教養などを身につけさせたいのだけれど、アーサー専任のメイドを務めてくれないかしら?」
「わ、私が、アーサー様の専任……!?」
「ええ。お願いよ、カレン。これはアーサー自身たっての希望なの」
「アーサー様が、私を……?」
歩き始めた頃よりも伸びた身長。おぼつかなかった足元が、今はしっかりと歩けるようになり。私の側にやってきたアーサー様が、私の手を握っていった。
「カレン。僕ね、カレンが大好きなんだ。だから、僕だけのメイドになってくれる?」
「まぁ、アーサーったら」
「あ、アーサー様!?」
5歳といえど、流石は伯爵家の御子息というべきか。
その一言に私は驚きながらも、胸がキュンとしてしまったのだった。
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