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13話
trance
しおりを挟む城という城を攻め落とし、里々を焚き払う。
天下取りの野望は、底の見えぬ井戸のように地を這いずる――
数国を領有した大名や武将でさえも恐れを為した地蜘蛛衆が、何百という軍勢を率いてこの忍びの境へ刃を剥けた。
小高い山道から見下ろす・・・薄明るい月夜にひっそりと黒い森の影が浮かび上がっていた。
軍勢は音もなくその四方を囲む。
「――何人たりとも、我の邪魔はさせぬ・・・・」
地蜘蛛衆、頭領――棕玄は、呟くように眼下の境を見据えながら云う。そして、ゆっくりと腰から下げた太刀を抜き頭上高く揚げると、
「その呪術とやら、見せてもらおうではないか――!」
不敵な笑みを見せ布告を言い放つと、闇空に揚げた太刀を力強く大地へ突き刺した。
ゴゴゴォォ―――ッ!
大地を揺るがす地鳴りと共に、突き刺した太刀の下から地が捲れ上がり、這うように裂けていく。
「――来る・・・・!」
咲弥の全身の気が発つ。
瞬時に直臣を背に庇った。
同時に、菊千代と美緑の二人が結界の強化に回ったが――、
間に合わない――!
「・・・くっ・・・・」
「・・・・ちっ!」
二人は凄まじい地割れに吹き飛ばされた。
「・・・直臣様――?」
咲弥の背に護られていた直臣が、静かにその前へ現れた。
ぐっと睨み据えたその両眼の先に、既に、棕玄の姿があった。
「・・・殺してよい命などないぞ・・・奪ってよい命など一つもないぞ――!棕玄っ!お前の野望のままにはさせぬ!」
直臣の怒りが、その濃紺の眸に揺らいでいる。
そして、手にしていた刀を抜くと、突風の如く駆け出した。
「うぉぉぉ――・・・っ!」
大切なものを失った・・・
計り知れないその怒り、悲しみ全てを、直臣は渾身に湛えて刀を振り翳す!
キィィ――ン!
耳に衝く刀の擦れ合う音が闇夜に響く――
「お前に、この私が倒せるのか――?」
交じり合う刀の間から棕玄は不気味な笑みを浮かべて直臣を見下す。
頭領の動きに合わせて、何百もの軍勢が襲い掛かった!
それに応戦して、美緑と菊千代が空を舞う。
――「我が名に於いて、その御霊を我が身の力とせん!」――
風が幾数の軍勢を薙ぎ払い、川の水はその姿を変え、龍となり軍勢に喰らい付く。
「・・・さすがは呪術を持つ者らよ。だが、お前にはその力さえない。それで私に牙を剥くとは・・・浅墓な奴よ!」
全ての哀惜と憎悪を込めて勇み向かう直臣を、棕玄は容易く圧しやった。
直臣の躰が、まるで布切れのように宙を飛んだ――
勢いの崩れたその一瞬を狙い、棕玄は刀を振り上げて直臣を襲う――!
―――!
倒れそうになる直臣の躰を咲弥の腕がしっかりと支える。
それと同時に、鈍い音がした。
その片方の腕で棕玄が振り下ろした切先を防いでいた。
流れ滴る鮮血――
「――咲弥!」
「・・・貴方を失いたくない――」
切なくその眸が伝えている。
何があろうとも、貴方だけは護ろうと――
「お前が・・・!あの眼術を持つという男――その呪術こそ私が求めていたもの・・・どうだ、私と手を組まぬか?このままでは其方たちに勝ち目はないぞ。況してや、其の者の命など護りきれるものではないぞ」
そう言う棕玄の視線は直臣を追った。
「――お前と、手を組む気なぞない・・・・・!」
伏されたままの眸の奥で、咲弥の憎しみが奮い立つ。
ゆっくりと咲弥の指先から、髪先から、全身を包み込んで気が発ち昇る。
「咲弥――・・・・!」
自分の知っている咲弥ではない・・・、そう覚った。
「――大丈夫・・・・」
自分に向けられたその切ないまでに優しい微笑み・・・・それまでだった。
咲弥の閉じられていた瞼が開くと、空間が静止した。
「咲・・・・弥――・・・・っ!」
そして、全ての意識は止まった―――
ドォォォ――ン!
「―――・・・・・!」
貫くような激しい音にビクッと躰が震えて、眼が覚めた。
(・・・雷・・・・か――)
雨が小降りになるまで・・・って休んでいたのがいつの間にか眠ってた。
「ふぅ・・・・・」
部室の窓から見える外の景色は、陽射しが戻ってきてた。
雲の切れ間から降りてくる陽に、小雨がきらきら輝いてる。
また、蝉が啼き始める――
それは夢――って思いながらも、あまりにもリアル過ぎる睡眠状態だ。いつも。だから、何となく疲れた感じがする。
部室の窓から差し込んでくる陽射しが眩しかった。その反応で、俺は目を細める。それから、
(・・・行くか・・・・・)
――何処に・・・・?
――何を求めて・・・?
何をしようとしているのか、何がしたいのか――自分にも分からない。
だけど、自分の中の無意識的何かが、俺を動かしてるんだ。
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