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青年は自分と共に男の鑑賞物にされる

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天才的な科学者である男がまた、世の中を変える技術の進歩を成し遂げた。その情報はまたたく間に科学者の頭脳を独占しようと目論む世界中の組織へと知れ渡り、スパイである青年は自身が所属する組織への多大な利益を生み出すために、科学者が研究目的で所有している孤島へと足を踏み入れた。
その孤島へと辿り着くまでに、競合相手と海上で幾つもの死闘を繰り返した。孤島に上陸してからも、青年は先にやって来ていた者達との格闘を繰り広げ、研究者が自ら用意した警備ロボット達をかわし続けた。
そして青年はとうとう、孤島に立てられた建物の最下層に位置する空間へと辿り着いた。そこに至るまでに科学者の男は見つからなかったため、間違いなくそこに科学者がいるであろうという認識と共に、青年スパイは扉を施錠する電子ロックのハッキングに勤しむ。
手元の端末に映し出される数字の羅列を読み解きながら、青年は改めて頭の中に自身の任務を思い浮かべる。第一目標は、科学者が達成した技術の進歩についての詳細を掴むこと。第二目標は、大金を積まれても他人のためには研究を行わない偏屈な科学者の弱みを握り、あわよくば自らの組織へと招くこと。最優先事項と、失敗前提の目標を青年が再確認し終える頃、端末に『SUCCESS』の文字が表示され、扉を閉ざすロックが解除された。
二枚の扉が、左右の壁の中に収納され室内への通路が確保される。その開ききった扉の向こうに敵がいないことを確認すると、青年は最大限の警戒を抱きながら室内へと踏み込み、驚愕した。
そこには、あまりにも予想とかけ離れた異常すぎる光景が広がっていたからだ。

「何だ……これ……っ!?」

警戒しているはずの青年は、自分の目に映る室内の様子に思わず声を漏らし、呆然とした表情でゆっくりと驚愕の理由に近寄っていく。
すると、近寄られた側はくぐもった唸りを放ちながら、青年スパイに救いを求めた。それは、手足の存在しない肉体を吊るす鎖を甲高く鳴らし、淫らな玩具を固定された恥部を揺らしながら行われる透明なカプセル越しの哀願だ。

「うぶっ、むぐぅぅっ! うぁっ、あぉぉぉっ!」
「ふーっ、むぶっ、あぶぐぅぅぅ!」

本来腕と足が生えている場所に金属で作られた蓋を取り付けられ、その蓋に繋がれた鎖を強化ガラスで作られたカプセルの床と天井に結合された裸体を宙でめちゃくちゃにもがかせ、細いチューブが繋がっている黒のギャグボールを強く噛み締めながら、非道な拘束を施された男達は自分を外から眺めている青年に助けてくれと必死に叫ぶ。
だが、青年は彼らを助けない。想像など欠片もしていなかった物体に圧倒され思考能力を奪われた青年は自由と言葉を奪われた彼らが身悶える度に揺れる男根に巻き付けられたローター付きのベルトと尻穴を下から串刺しにして荒い掘削を繰り返している極太の張型による快楽責めを無言で観察しながら、いたぶられている者達で作られた通路を惰性で進んでいく。
任務を完全に忘れ、甘い悲鳴を聞きながら放心状態で歩く青年。そんな青年の目が、突如として見開かれる。目を見開いた青年は一つのカプセルに手を付き、中にいる者を見つめながら呟いた。

「これ……俺……!?」
「ふぅっ!? んま、むぉぉっ……!?」

自分と全く同じ顔。仲間達にすら教えていない下腹部のほくろ。紛れもない自分自身の変わり果てた姿をカプセル内に見付けた青年は表情を恐怖色に染めた。見付けられた側の青年も、手足を取り上げられていない自分をカプセルの外に確認し、喘ぎ混じりの困惑の声を発した。
時がとまったかのような感覚を味わいながら、二人はしばし視線を交わし合う。そうする内に、カプセルの外にいる青年はあることに思い至り戦慄を深めた。
そういえば、少し前に別のカプセル内に見た男は自分と対立している組織の構成員にそっくりじゃないか。入り口近くにいた青年は、直接会ったことは無いが自身の組織と友好関係にある組織の者じゃないか。あの男は、あの青年も。異様さに掻き消されていた情報が次から次へと押し寄せ、青年は背筋と心を凍り付かせる。もはや青年は、気付いてしまった事実に思考を支配されている。閉じ込められた自分が放つ唸りが、哀願から危険を知らせる物に変わっても青年はそれを把握出来ない。
完全に隙を晒し、動きのとまった青年の背後に無音で忍び寄ったアームは無防備な青年の背中を狙い、先端に取り付けた短い針を素早く突き刺し、強力な睡眠薬を流し込んで青年の意識を奪い取った。



青年が孤島から帰らなくなって、数週間。組織は任務失敗と判断し青年を見捨てて次の手を講じていた。
故に、青年に救助は訪れない。科学者によって望んでもいないのに生み出され実験材料兼淫らな鑑賞物として飼い殺しにされている哀れなクローン達を助け出す者はおろか、自身のクローンと並べて拘束され、科学者の寝室という最悪の特等席に飾られた青年を地獄から解放してくれる者もいない。

「さぁ、二人共。今日もたっぷり良い声で苦しんでおくれ。私の研究意欲を刺激する、極上の悶絶姿を晒して、愉しませておくれ」
「むっ、ぎゅぶぅぅっ! あぶっ、ぼむぅぅっ!」
「んーぅっ! はぶっ、ば、はみゅぅぅぅっ!」

手足を奪われ、二つのカプセルの中で吊るされた哀れな青年達は狂気に歪んだ笑みを浮かべながら恥部に与えられた責め具とギャグボールに繋がっているチューブを通して無理矢理に淫薬を摂取させる機構を起動させるボタンへと手を伸ばす科学者に向かって同じ顔を悲痛にしかめ、同じ声で聞き入れられない心からの懇願を発して、科学者にこれ以上無い幸福を味わわせるのだった。
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