男は冷えを忘れる程の熱に狂わされる

五月雨時雨

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男は冷えを忘れる程の熱に狂わされる

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夜の闇に覆われ、吹雪に見舞われている外の寒さに思いを馳せながら、ソファーにゆったりと腰掛けた男はグラスに注いだ酒を愉しみつつウッドデッキへと続くガラス戸の方に視線を向けている。
視覚で冷えを伝えてくるガラス戸の先の光景を眺めながら、温かな室内でくつろぐ男はガラス戸の前に設置した愉快な見世物を酒の肴として味わい、至福を際限無く積み重ねていく。

「んぉっ……はぅ、んまうぅ……っ!」

腰掛けた者の肉体から自由を奪うことを目的として作成された、拘束の機構を備えている一人掛けソファーの上で男が苦しげな唸りを発してもそれを堪能する男は目を細め口元を歪めるだけだ。
肘掛けに相当する部分に左右の膝裏を密着させられ、ソファーの側面から伸びた短い鎖の先にある黒革の枷を両足首にそれぞれ嵌められた男はもう、足を閉じたくても閉じられない。太ももに巻き付けられた黒革のベルトと左右の手首に装着された黒革の枷を南京錠を用いて遊び無く結合された男は、愉悦を剥き出しにした眼差しで自分を観察している男の目から無防備に露出させられた恥部を隠すことも叶わない。
背もたれと一体化しているガスマスクのような形状をした器具を頭部に取り付けられ、ソファーの座面下部に内蔵されたタンクから送り込まれる強力な媚薬ガス混じりの空気を用いた呼吸を強要されている男はもはや冬に、ガラス戸のすぐ近くに全裸で拘束されている事実を忘れる程の淫猥な火照りに為す術無く狂わされるしか無い。媚薬の吸入を抑える為に必要な呼吸の我慢を行う余裕さえも失うくらいに心と身体を甘く無慈悲に追い詰められた惨めな男は、淫蕩な熱に苛まれている何処にも逃げられぬ裸体をみっともなく膨張した男根を揺らめかせながら悶えさせる様子を雪が舞う屋外の様子と対比して愉しむ残忍な男を悦ばせる娯楽として、ただただ無抵抗に引きずり出され続けるしか無いのだ。

「あごっ、むぁ、おぉ、ふむあぁ……っ!」

頭部に与えられたマスク内に突き出している棒を噛まされた口で不明瞭な哀願を飛ばしながら、男は自らの吐息でかすかに曇ったゴーグルごしに許しを請う視線を寄せる。
自分の手で無様に裸体を慰めることも許されず、外部からの刺激すらももたらされぬまま淫らな欲望のみを呼吸に合わせて増幅させられる拷問から解放して欲しい。誇りを砕き尽くされ反抗心を欠片も残さず叩き潰された男は、無自覚に腰を揺すりつつ自分を苦しめている張本人の男に慈悲と快楽をねだる。
だが、冷酷な男はそれに応えない。一段と加速した悶絶を鑑賞する男は、分かりやすく屈服を深めた滑稽な男に気付いて笑みの黒さを濃くさせるのみで救いを認める素振りすら見せない。
残酷な男に捕まり、異常な嗜好を満足させる為の見世物に貶められた男に残された展開は何時とも分からぬ終わりを待ち侘びながら悶え苦しみ続けることだけで、男は予報に沿ってじょじょに激しくなる雪の勢いと連動するかのように理性と正気を淫欲に蝕まれ、雄として、人間として、正義の立場である捜査員としての尊厳をかなぐり捨てた懇願の痴態の悲痛さをより見応えのある物へと変化させていくのだった。
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