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武人は従順で淫猥な犬へと作り変えられる

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悪を憎み、己の肉体一つで邪な者達を打ちのめしてきた気高き武人の面影はもう、何処にも無い。
手足を彩る逞しき筋肉の鎧は、ふわふわの白い毛に覆われている犬の足を模したグローブとブーツを強調するだけの存在でしか無い。美しく割れた腹筋と引き締まった尻肉は、はしたなく興奮しきり透明な蜜を零している男根と醜悪なイボを無数に生やした張型を奥深くまで飲み込んでいる尻穴から垂れ下がった白い犬の尻尾飾りを引き立てる材料でしか無い。鋭き眼差しで悪を射抜き、静かなる正義の怒りを放っていた男の目と口はもはや、頭部にあてがわれた白い犬の耳飾りに合わせた甘える目線と、悦び色に塗れた熱い吐息を零すだけの器官へと成り下がっている。
卑劣な敵の罠に嵌まり、育て上げた技の数々を持ってしても決して拒めぬ強力な催眠効果を有した音波でこれまでの自分を跡形も無く塗り潰された今の男は、畏怖と敬愛を寄せられる武人ではない。今の男は、自分が人間であることさえも忘れさせられた従順にして淫猥な犬だ。
己の全てを無慈悲に作り変えられた哀れな男は、嫌悪していたはずの悪の首領に心からの忠誠を誓い、嘘偽りの無い愛情と欲情を膨らませる無様な飼い犬でしか無いのだ。

「はっ、はぉ、んぉんっ……」

自分を支配する主に対して無理矢理に植え付けさせられた大好きの感情を何の疑いも無く胸に募らせながら、男は時折抑えきれぬ淫蕩な鳴き声を漏らしつつ命令に従って鼻での呼吸を繰り返す。
言い付けられた通りに腹筋と張り詰めた男根を見せ付ける形で足を大きく開いた中腰の体勢を取り、胸筋の上ではしたなく自己主張している男の物とは思えぬ程の長さへと育成された乳首を犬の装飾を纏った裸体に震えに合わせてぷるぷると揺らしながら、男は胴体を左右から挟み込む位置となるよう折り畳まされた腕の高さを維持しつつ、ベッドに腰掛けた主が眼前に突き付けた男根の淫臭を一生懸命に嗅ぎ、愛しい匂いがもたらす至福と主の指示を忠実に守っている事実が覚えさせてくる歪んだ愉悦に浸っている。

「ぅふ、んぁ、わぅ……あぉぉ……んっ」

惨めな犬の姿を当然の物として受け入れ、人間の言葉を禁じられた口で迷い無く犬の鳴き声を発し、鼻腔を甘く嬲ってくる淫臭によって際限無く積み重なっていく発情が味わわせてくる苦しみすらも幸せとして認識しながら逞しき裸体を何処までも火照らせていく滑稽な犬の男。自分を幾度と無く雌犬へと貶め、快楽の淵へと追いやった主の男根を潤んだ瞳で物欲しげに眺めながら、だらしなく開いた口から垂れ下がった舌を無意識に眼前の男根の方へと伸ばしている無様極まりない犬の男。
そうして愉快に発情を高め、意識全てを男根と男根が生み出す悦楽に征服された犬を存分に堪能した非道な悪の首領は、横目で時計を眺め匂いを嗅がせ始めてから三十分が経過したことを把握すると、ベッドの上に置いていた左右の手を動かして犬の頭部を引き寄せながら、舌を男根へと触れさせずにしっかりと我慢出来たご褒美と称して次の生殺しを嬉々として与えた。

「はい、よく頑張ったね、○○。それじゃ今度は、お口に私のおチ○チンをくわえさせてあげよう。絶対に、舐め舐めしちゃダメだよ? 口の中に入れた状態で舐めずにまた三十分耐えられたら、○○が大好きな私のおチ○チンをたっぷりとぺろぺろさせてあげるからね? ぺろぺろさせて欲しかったら、ちゃんと我慢するんだよ、分かったね?」
「んぐ、あむぅ……はむぅんっ」

舌の上に主の男根が乗っているのに、奉仕を行うことは許されない。元の形を留めぬ程に改造された本能が求めるままに舌を這わせたいのに、新たな命令を下された犬は口内を喉近くまで貫いた主の男根をうずうずと小刻みに跳ねる舌のベッドで受けとめることしか出来ない。
ただ淫臭を吸入させられるだけの責めから、男根の味を直接感じているのにその味に浸ることは認められない責めへと突き落とされた男は、一層激しく膨らんだ欲望に目を剥いて悶絶しそんな悶絶すらも被虐の幸福へと変換しながら、必死で舌に制止を送りつつ体勢が崩れないよう保つ努力の様と、体内で暴れ回る出口を見失った淫欲の勢いを表わすかのように腸壁を蠢かせて尻穴を穿つ張型と繋がっている尻尾を上下に情けなく振る光景で自分の何もかもを掌握した主を愉しませ、悪と対峙していた頃の自分をまた、己の手が届かぬ場所へと追いやっていくのだった。
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