12 / 20
12話
しおりを挟む
カシミヤのセータの上にコーデュロイのシャツを羽織って、利玖は部屋を出た。ボトムは動きやすいスキニーパンツにするか、もう少しフォーマルな見た目のものを合わせるか悩んだが、客人に挨拶をするのなら淑女らしい格好をしていた方が良いかと思い、セータと同じ黒のタイトスカートを選ぶ。
しかし、玄関から一歩外に出た所で動けなくなった。
右足の膝から下が氷水に浸かったように冷たい。
見下ろすと、ロングのタイトスカートには片側にだけスリットが入っていた。膝の半分とふくらはぎが、そこから剥き出しになっている。こんなデザインだとは思っていなかったので、下にはストッキングしか履いていなかった。
一度引き返して、厚手のタイツに履き替えてくるべきか悩んでいると、中庭の方から足音が近づいてきた。
「あ、利玖ちゃん」史岐が母屋の陰から姿を覗かせる。「今、皆、あっちで……」
彼は半分振り返って、自分の歩いて来た方向を指さしながら近づいてきたが、柱にしがみつくような姿勢で硬直している利玖に気づくと足を止めた。
「大丈夫?」どうやら、服装についての心配らしい。
「駄目、寒いです」利玖はぶるぶると首を振る。「史岐さん、お迎えに来て頂いたのに申し訳ないのですが、一旦何も見なかった事にして、待っていてもらえないでしょうか」
「別に構わないけど……」史岐は再び離れの方を指さす。「着替えてくるなら、急いだ方が良いかもしれないよ。さっき、最後の花が萎んで、もう少ししたらどこかに実が生るんじゃないかって話していた所だから」
「え?」利玖はあっさり柱から離れた。「行きます。今、すぐに」
歩き始めると、隣に史岐がついて来る。
彼の表情を見て、利玖は歩く早さを落とした。
「すみませんでした。わたしのせいで……」彼女の視線はブーツを履いた爪先に移る。「史岐さんがご無事で、本当に良かった」
「利玖ちゃんのせいじゃないよ」史岐が前を向いたまま答える。「それに、僕はこういうの、しょっちゅうだから」
「しょっちゅう」
「待って。リテイク」史岐が片手を上げた。「僕は、精気にあてられた後も意識があった。鼻血が止まるまでしばらくかかったけどね。だけど、煙草を吸って、芦月さんからもらった薬湯を飲んだら、だいぶ調子が戻ったよ」
「そうですか……」利玖は肩から力を抜く。「業者の方、芦月さんとおっしゃるのですか?」
「いや、芦月さんは、助手のほう。業者の人は字が難しかったから、名刺をもらって覚えた方が良いんじゃないかな」史岐はそう言ってから、首をひねった。「だけど、あれは……、業者というか、何というか……」
「どんな方なんですか?」
「うーん」史岐は唸る。「ちょっと、僕のボキャブラリでは及ばない」
しかし、玄関から一歩外に出た所で動けなくなった。
右足の膝から下が氷水に浸かったように冷たい。
見下ろすと、ロングのタイトスカートには片側にだけスリットが入っていた。膝の半分とふくらはぎが、そこから剥き出しになっている。こんなデザインだとは思っていなかったので、下にはストッキングしか履いていなかった。
一度引き返して、厚手のタイツに履き替えてくるべきか悩んでいると、中庭の方から足音が近づいてきた。
「あ、利玖ちゃん」史岐が母屋の陰から姿を覗かせる。「今、皆、あっちで……」
彼は半分振り返って、自分の歩いて来た方向を指さしながら近づいてきたが、柱にしがみつくような姿勢で硬直している利玖に気づくと足を止めた。
「大丈夫?」どうやら、服装についての心配らしい。
「駄目、寒いです」利玖はぶるぶると首を振る。「史岐さん、お迎えに来て頂いたのに申し訳ないのですが、一旦何も見なかった事にして、待っていてもらえないでしょうか」
「別に構わないけど……」史岐は再び離れの方を指さす。「着替えてくるなら、急いだ方が良いかもしれないよ。さっき、最後の花が萎んで、もう少ししたらどこかに実が生るんじゃないかって話していた所だから」
「え?」利玖はあっさり柱から離れた。「行きます。今、すぐに」
歩き始めると、隣に史岐がついて来る。
彼の表情を見て、利玖は歩く早さを落とした。
「すみませんでした。わたしのせいで……」彼女の視線はブーツを履いた爪先に移る。「史岐さんがご無事で、本当に良かった」
「利玖ちゃんのせいじゃないよ」史岐が前を向いたまま答える。「それに、僕はこういうの、しょっちゅうだから」
「しょっちゅう」
「待って。リテイク」史岐が片手を上げた。「僕は、精気にあてられた後も意識があった。鼻血が止まるまでしばらくかかったけどね。だけど、煙草を吸って、芦月さんからもらった薬湯を飲んだら、だいぶ調子が戻ったよ」
「そうですか……」利玖は肩から力を抜く。「業者の方、芦月さんとおっしゃるのですか?」
「いや、芦月さんは、助手のほう。業者の人は字が難しかったから、名刺をもらって覚えた方が良いんじゃないかな」史岐はそう言ってから、首をひねった。「だけど、あれは……、業者というか、何というか……」
「どんな方なんですか?」
「うーん」史岐は唸る。「ちょっと、僕のボキャブラリでは及ばない」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
光波標識 I find you.
梅室しば
キャラ文芸
【船でブラキストン線を跨いで北海道へ。「まがい魚」の呪いから友を救え。】
喉に『五十六番』と名付けられた妖を寄生させている大学生・熊野史岐には、霊視の力を持つ友人がいる。彼の名は冨田柊牙。ごく普通の大学生として生活していた柊牙は、姉の結婚祝いの為に北海道へ帰省した時、奇妙な魚の切り身を口にしてから失明を示唆するような悪夢に悩まされるようになる。潟杜から遠く離れた地で受けた呪いをいかにして解くか。頭を悩ませる史岐達に発破をかけたのは、未成年にして旧家の当主、そして『九番』と呼ばれる強力な妖を使役する少女・槻本美蕗だった。
※本作はホームページ及び「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜
西浦夕緋
キャラ文芸
【和風BL】【累計2万4千PV超】15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。
彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。
亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。
罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、
そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。
「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」
李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。
「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」
李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。
狐メイドは 絆されない
一花八華
キャラ文芸
たまもさん(9歳)は、狐メイドです。傾国の美女で悪女だった記憶があります。現在、魔術師のセイの元に身を寄せています。ただ…セイは、元安倍晴明という陰陽師で、たまもさんの宿敵で…。
美悪女を目指す、たまもさんとたまもさんを溺愛するセイのほのぼの日常ショートストーリーです。狐メイドは、宿敵なんかに絆されない☆
完結に設定にしていますが、たまに更新します。
※表紙は、mさんに塗っていただきました。柔らかな色彩!ありがとうございます!
エリア51戦線~リカバリー~
島田つき
キャラ文芸
今時のギャル(?)佐藤と、奇妙な特撮オタク鈴木。彼らの日常に迫る異変。本当にあった都市伝説――被害にあう友達――その正体は。
漫画で投稿している「エリア51戦線」の小説版です。
自サイトのものを改稿し、漫画準拠の設定にしてあります。
漫画でまだ投稿していない部分のストーリーが出てくるので、ネタバレ注意です。
また、微妙に漫画版とは流れや台詞が違ったり、心理が掘り下げられていたりするので、これはこれで楽しめる内容となっているかと思います。
ブラックベリーの霊能学
猫宮乾
キャラ文芸
新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる