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8話
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一行は揃って中庭へ出る。日没が近づき、史岐が作業をしていた時よりもだいぶ暗くなっていた。
匠がペンライトを取り出した。資料を取りに行った時、ついでに見つけてきたのだろう。彼は、それでポットを端から照らしていく。
「もう全部芽が出ましたね」匠が呟いた。
「蔓が伸びているわ」真波がポットの一つに手をかざす。しかし、彼女は何かに注意している様子で、植物体には手を触れなかった。「葉っぱの縁がぎざぎざしているし、なんだかやっぱり、ヒョウタンに似ているわねえ」
「支柱を立てておきましょうか」
「あ、それ、良いわね」
「手伝います」史岐は腕まくりして進み出る。
「じゃあ、そっちは頼むよ」匠はペンライトを脇に挟み、腰のポーチからメジャを取り出した。「僕らはここに残って記録を取ろう」匠はそれを、脇にいる利玖に手渡す。「あとで葉面積を計算したいから、本葉が出ていたら長辺と短辺を測って、形がわかるように写真も撮ろう」
「気温は? ネットのデータを拾ってきますか?」
「いや、ここ、近くで測定をやっていると思えないから……」
匠は再びポーチに手を入れ、銀色の円盤のようなものを取り出してフラワーラックに置いた。
「これで測ろう。家庭用だから精度には期待出来ないけど。一応、湿度もわかるらしいよ」
匠が置いた円盤は、片面に透明なパネルがはまっていて、内側に二種類のメータがあった。針も二つあり、それぞれで温度と湿度を測っているらしい。本来はインテリアとして室内に置いて使うのだろう、とわかるデザインだった。
匠と利玖は専門用語を使って会話を始め、すぐに何の話をしているのか、史岐にはわからなくなった。
「わたし達はあっちでやろっか」
真波がそう言いながら離れを指さし、史岐は頷いて、彼女に従った。
離れに戻り、ブルーシートの上に座って作業を始めた。
支柱作りに使えそうな資材も十分に揃っている。鉢に挿したスティックに紐を結んで支えるタイプから、ネットを張って広い面積をカバーするタイプまで、様々な種類のものが作れそうだった。
「さて、どうしようかしら」真波が両手に持ったスティックを見比べる。片方は平たい木製で、もう片方は緑色の細いパイプだった。「作るのが簡単なのは、アサガオの鉢植えみたいに挿して縛るだけのものだけど」
「十六個となると大変ですよね」
「そうなのよねえ」
「あの、ここって窓が南東向きですよね」史岐は、開けっ放しの掃き出し窓の方を見た。「今日はもう日没なので、関係ありませんが、窓側の壁にネットを立てかけて育てれば、明日の昼間は日が当たって、室内からも観察しやすいんじゃないでしょうか」
「おお、良いね。それでいこう」
ブルーシート上の道具を移動させてスペースを作り、スティックを平行に並べてネットを被せた。何箇所か紐で縛って、ずれないように固定する。
「史岐君、上手いねえ」
「いえ……。知り合いが葡萄畑をやっていて、時々、手伝っていましたから」
「そっか、そっか」真波は頷き、史岐を見て微笑む。「利玖が最初に、あなたに電話したんだってね。付き合ってくれてありがとうね。本当に予定はないの?」
「大丈夫です」史岐も笑みを返した。「それに、ここまで来たら、僕も、種がどこまで育つか見てみたいですから」
「危ない事になるかもよ」真波が前屈みになって声を低くする。「というか、十中八九、やばい物だと思うわ」
「あの、じゃあ、止めなくて良いんですか?」
「そこはね、わたしも君と同じで……」真波は首を傾けて苦笑した。「でも、ここにいたら、色々と打てる手もあるからね」
匠がペンライトを取り出した。資料を取りに行った時、ついでに見つけてきたのだろう。彼は、それでポットを端から照らしていく。
「もう全部芽が出ましたね」匠が呟いた。
「蔓が伸びているわ」真波がポットの一つに手をかざす。しかし、彼女は何かに注意している様子で、植物体には手を触れなかった。「葉っぱの縁がぎざぎざしているし、なんだかやっぱり、ヒョウタンに似ているわねえ」
「支柱を立てておきましょうか」
「あ、それ、良いわね」
「手伝います」史岐は腕まくりして進み出る。
「じゃあ、そっちは頼むよ」匠はペンライトを脇に挟み、腰のポーチからメジャを取り出した。「僕らはここに残って記録を取ろう」匠はそれを、脇にいる利玖に手渡す。「あとで葉面積を計算したいから、本葉が出ていたら長辺と短辺を測って、形がわかるように写真も撮ろう」
「気温は? ネットのデータを拾ってきますか?」
「いや、ここ、近くで測定をやっていると思えないから……」
匠は再びポーチに手を入れ、銀色の円盤のようなものを取り出してフラワーラックに置いた。
「これで測ろう。家庭用だから精度には期待出来ないけど。一応、湿度もわかるらしいよ」
匠が置いた円盤は、片面に透明なパネルがはまっていて、内側に二種類のメータがあった。針も二つあり、それぞれで温度と湿度を測っているらしい。本来はインテリアとして室内に置いて使うのだろう、とわかるデザインだった。
匠と利玖は専門用語を使って会話を始め、すぐに何の話をしているのか、史岐にはわからなくなった。
「わたし達はあっちでやろっか」
真波がそう言いながら離れを指さし、史岐は頷いて、彼女に従った。
離れに戻り、ブルーシートの上に座って作業を始めた。
支柱作りに使えそうな資材も十分に揃っている。鉢に挿したスティックに紐を結んで支えるタイプから、ネットを張って広い面積をカバーするタイプまで、様々な種類のものが作れそうだった。
「さて、どうしようかしら」真波が両手に持ったスティックを見比べる。片方は平たい木製で、もう片方は緑色の細いパイプだった。「作るのが簡単なのは、アサガオの鉢植えみたいに挿して縛るだけのものだけど」
「十六個となると大変ですよね」
「そうなのよねえ」
「あの、ここって窓が南東向きですよね」史岐は、開けっ放しの掃き出し窓の方を見た。「今日はもう日没なので、関係ありませんが、窓側の壁にネットを立てかけて育てれば、明日の昼間は日が当たって、室内からも観察しやすいんじゃないでしょうか」
「おお、良いね。それでいこう」
ブルーシート上の道具を移動させてスペースを作り、スティックを平行に並べてネットを被せた。何箇所か紐で縛って、ずれないように固定する。
「史岐君、上手いねえ」
「いえ……。知り合いが葡萄畑をやっていて、時々、手伝っていましたから」
「そっか、そっか」真波は頷き、史岐を見て微笑む。「利玖が最初に、あなたに電話したんだってね。付き合ってくれてありがとうね。本当に予定はないの?」
「大丈夫です」史岐も笑みを返した。「それに、ここまで来たら、僕も、種がどこまで育つか見てみたいですから」
「危ない事になるかもよ」真波が前屈みになって声を低くする。「というか、十中八九、やばい物だと思うわ」
「あの、じゃあ、止めなくて良いんですか?」
「そこはね、わたしも君と同じで……」真波は首を傾けて苦笑した。「でも、ここにいたら、色々と打てる手もあるからね」
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