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7話
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離れに残った三人はポットを外へ運んだ。
地面が平らで、日陰にならない場所を探してフラワーラックを置き、そこに十六個のポットを並べていく。すべてのポットに均等に日が当たるように、配置には工夫が必要だった。
匠が資料探しの為に離脱しているので、史岐が率先して力仕事を引き受ける。
まだ所々に雪の残る季節とはいえ、日射しは確実に春に近づいて、熱と眩しさを強めていた。重い物を持って動き回っていると汗ばむくらいだ。
「良いお日和で助かったわあ」
作業が完了した中庭を見て、真波がしみじみとそう口にしたが、健やかな成長を願っている場合なのかどうかは疑問が残る。
史岐がスポーツドリンクのペットボトルを一本もらって休憩していると、匠が戻ってきた。
「良い具合ですね」彼は中庭を一瞥して、真波と同じような感想を口にする。「しかし、日が落ちたらあの辺りは真っ暗ですね。何か光源を用意しないと」
「あ、それなら物置にガーデンライトが……」
真波は立ち上がりかけたが、入り口に立つ息子と目が合い、そこで数秒間静止。にっこりと笑って、元の位置に座り直した。
「──じゃなくて。やっと皆が揃ったんだから、話しておかなくちゃ」
真波は両手を膝に置き、表情を引き締める。
「あの種は、明日、業者の方に見て頂く事になりました。母屋に靴を置きに行った時、電話をかけてご相談させて頂いたの。そうしたら、今日はもう時間がないから無理だけど、明日の朝一番に道具を揃えてこちらに向かって下さるとの事だったわ」
「種の扱いについては、何か?」匠が質問する。
「もう芽が出始めているのなら、無理に成長を妨げるよりも、植物としての成り行きに任せて様子を見ながら育てる方が良いかもしれないとおっしゃっていたわ」真波は顎を引くようにして頷く。「わたしも同意見よ」
「では、寝ずの番になりますね」利玖が物憂げに頬杖をついて言った。「生きもの相手に『待った』は通用しませんから」
「隣の部屋に布団を敷いて交代で寝たら良いよ。四人もいるんだから」
「ちょっと、匠、史岐君を入れたら駄目よ。お客様なんだから」
「あ、いえ……」史岐は慌てて片手を広げた。「大丈夫です。その……、僕は、植物にも生物学にも詳しくないので、色々と教えて貰わなければいけませんが、それでも良ければお手伝いさせてください」
「え? あら、まあ……」真波は目を丸くして史岐を見つめ、それから無邪気な笑顔で利玖を見る。「優しいのね、史岐君」
「なんでわたしに言うんですか?」
「あの、いいですか?」匠が控えめに片手を挙げた。「そろそろ、種の様子を見に行った方が良いんじゃ」
地面が平らで、日陰にならない場所を探してフラワーラックを置き、そこに十六個のポットを並べていく。すべてのポットに均等に日が当たるように、配置には工夫が必要だった。
匠が資料探しの為に離脱しているので、史岐が率先して力仕事を引き受ける。
まだ所々に雪の残る季節とはいえ、日射しは確実に春に近づいて、熱と眩しさを強めていた。重い物を持って動き回っていると汗ばむくらいだ。
「良いお日和で助かったわあ」
作業が完了した中庭を見て、真波がしみじみとそう口にしたが、健やかな成長を願っている場合なのかどうかは疑問が残る。
史岐がスポーツドリンクのペットボトルを一本もらって休憩していると、匠が戻ってきた。
「良い具合ですね」彼は中庭を一瞥して、真波と同じような感想を口にする。「しかし、日が落ちたらあの辺りは真っ暗ですね。何か光源を用意しないと」
「あ、それなら物置にガーデンライトが……」
真波は立ち上がりかけたが、入り口に立つ息子と目が合い、そこで数秒間静止。にっこりと笑って、元の位置に座り直した。
「──じゃなくて。やっと皆が揃ったんだから、話しておかなくちゃ」
真波は両手を膝に置き、表情を引き締める。
「あの種は、明日、業者の方に見て頂く事になりました。母屋に靴を置きに行った時、電話をかけてご相談させて頂いたの。そうしたら、今日はもう時間がないから無理だけど、明日の朝一番に道具を揃えてこちらに向かって下さるとの事だったわ」
「種の扱いについては、何か?」匠が質問する。
「もう芽が出始めているのなら、無理に成長を妨げるよりも、植物としての成り行きに任せて様子を見ながら育てる方が良いかもしれないとおっしゃっていたわ」真波は顎を引くようにして頷く。「わたしも同意見よ」
「では、寝ずの番になりますね」利玖が物憂げに頬杖をついて言った。「生きもの相手に『待った』は通用しませんから」
「隣の部屋に布団を敷いて交代で寝たら良いよ。四人もいるんだから」
「ちょっと、匠、史岐君を入れたら駄目よ。お客様なんだから」
「あ、いえ……」史岐は慌てて片手を広げた。「大丈夫です。その……、僕は、植物にも生物学にも詳しくないので、色々と教えて貰わなければいけませんが、それでも良ければお手伝いさせてください」
「え? あら、まあ……」真波は目を丸くして史岐を見つめ、それから無邪気な笑顔で利玖を見る。「優しいのね、史岐君」
「なんでわたしに言うんですか?」
「あの、いいですか?」匠が控えめに片手を挙げた。「そろそろ、種の様子を見に行った方が良いんじゃ」
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