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Act.1-02
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(これが……、噂の幽霊……?)
不思議と、恐怖心は消えていた。代わりに、遥人は呆然として、しばしの間、少女を凝視する。
少女もまた、黙って遥人を見つめ返していた。長い睫毛を時折瞬かせ、しかし、すぐに思い立ったようにゆっくりと遥人に近付くと、白い手をそっと伸ばす。
遥人の頬に、ひんやりとした感触が伝わってくる。相手は幽霊だから肉体は持っていないと思っていたのに、少女は確かに、遥人に触れてきた。
「ああ……」
少女から、微かな吐息が漏れた。
遥人はなおもそのまま立ち尽くす。すると、少女はもう片方の手も伸ばし、遥人の顔を挟み込んだ。
「――やっぱり……」
夜の静寂に溶け込んでしまいそうな声音で、少女は囁く。だが、遥人には、少女が『やっぱり』と口にした意味が分からない。
訝しく思いながら首を傾げる遥人に、少女は哀しげな笑みを向けてきた。
「まだ、想い出して下さらないのですね……?」
少女の言葉に、遥人はさらに戸惑いを覚えた。
少女とは初対面。いや、そもそも幽霊と関わりがあるはずがない。しかも、少女の姿を見る限り、遥人が生まれるずっと昔の人間だ。想像するに、数十年――いや、数百年は経っているはず。
「あのさ」
遥人はおもむろに口を動かした。
「俺、あんたとどこかで逢った?」
遥人の問いに、少女は曖昧に笑う。やはり、どこか淋しさを帯びている。
「――運命とは、非常に残酷なものです……」
少女がポツリと呟いた。遥人を知っている理由を教えてくれるのかと思ったが、少女の口から出たのは、答えとは全く関係のないものだった。
「わたくしはずっと、あなたを待ち続けておりました。何度も、何度も、季節を重ねながら……。そうして、ようやく出逢えました。――あなたと、今度こそ添い遂げられるように……」
何言ってんだ、と遥人は笑い飛ばすつもりだった。しかし、出来なかった。少女は真っ直ぐに遥人を見据え、遥人もまた、少女に釘付けとなる。
また、ふたりの間に沈黙が流れた。春先のひんやりとした風がさわさわと吹き、遥人の全身を掠め、少女の長い髪を緩やかに凪いでゆく。
しばらくして、遥人の頬に触れていた少女の手がゆっくりと離れた。
「もう少しだけ、待たねばならないようですね」
少女はそう言うと、口元に笑みを湛えた。
「わたくしは、ずっとここにいます。ですから……、また、こうして逢いに来て下さいますか……?」
「――うん」
ほとんど無意識に、遥人は頷いていた。少女に逢う理由なんてない。ないはずなのに、何故か、これからも少女と逢わなくてはならない。そんな気がした。
困惑している遥人とは対照的に、少女は先ほどとは打って変わり、嬉しそうに満面の笑みを見せた。
「わたくし、待っております。あなたが、わたくしを想い出して下さるまで、ずっと……」
不思議と、恐怖心は消えていた。代わりに、遥人は呆然として、しばしの間、少女を凝視する。
少女もまた、黙って遥人を見つめ返していた。長い睫毛を時折瞬かせ、しかし、すぐに思い立ったようにゆっくりと遥人に近付くと、白い手をそっと伸ばす。
遥人の頬に、ひんやりとした感触が伝わってくる。相手は幽霊だから肉体は持っていないと思っていたのに、少女は確かに、遥人に触れてきた。
「ああ……」
少女から、微かな吐息が漏れた。
遥人はなおもそのまま立ち尽くす。すると、少女はもう片方の手も伸ばし、遥人の顔を挟み込んだ。
「――やっぱり……」
夜の静寂に溶け込んでしまいそうな声音で、少女は囁く。だが、遥人には、少女が『やっぱり』と口にした意味が分からない。
訝しく思いながら首を傾げる遥人に、少女は哀しげな笑みを向けてきた。
「まだ、想い出して下さらないのですね……?」
少女の言葉に、遥人はさらに戸惑いを覚えた。
少女とは初対面。いや、そもそも幽霊と関わりがあるはずがない。しかも、少女の姿を見る限り、遥人が生まれるずっと昔の人間だ。想像するに、数十年――いや、数百年は経っているはず。
「あのさ」
遥人はおもむろに口を動かした。
「俺、あんたとどこかで逢った?」
遥人の問いに、少女は曖昧に笑う。やはり、どこか淋しさを帯びている。
「――運命とは、非常に残酷なものです……」
少女がポツリと呟いた。遥人を知っている理由を教えてくれるのかと思ったが、少女の口から出たのは、答えとは全く関係のないものだった。
「わたくしはずっと、あなたを待ち続けておりました。何度も、何度も、季節を重ねながら……。そうして、ようやく出逢えました。――あなたと、今度こそ添い遂げられるように……」
何言ってんだ、と遥人は笑い飛ばすつもりだった。しかし、出来なかった。少女は真っ直ぐに遥人を見据え、遥人もまた、少女に釘付けとなる。
また、ふたりの間に沈黙が流れた。春先のひんやりとした風がさわさわと吹き、遥人の全身を掠め、少女の長い髪を緩やかに凪いでゆく。
しばらくして、遥人の頬に触れていた少女の手がゆっくりと離れた。
「もう少しだけ、待たねばならないようですね」
少女はそう言うと、口元に笑みを湛えた。
「わたくしは、ずっとここにいます。ですから……、また、こうして逢いに来て下さいますか……?」
「――うん」
ほとんど無意識に、遥人は頷いていた。少女に逢う理由なんてない。ないはずなのに、何故か、これからも少女と逢わなくてはならない。そんな気がした。
困惑している遥人とは対照的に、少女は先ほどとは打って変わり、嬉しそうに満面の笑みを見せた。
「わたくし、待っております。あなたが、わたくしを想い出して下さるまで、ずっと……」
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