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第十章 呪力と言霊
第二節-02
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「で、部屋から消えた私を必死で探したってわけだ、藤崎さん」
慣れないながら、美咲は相手の名前を口にした。本音を言えば〈あんた〉と呼びたいところだったが、相手――藤崎は美咲を名前で呼ぶし、何より固有名詞を使わないのは失礼だと良心が咎めた。さすがに、下の名前で呼ぶのは抵抗があるが。
「さっきも言ったろ? ちょっとでも目を離した隙に消えたなんて知られたらオッサンが煩い」
「――伯父さんが怖いの?」
また、藤崎の言葉を無視して訊ねる。
藤崎も諦めたのか、特に突っ込みを入れることはしなかった。だが、少し答えを躊躇い、間を置いてから、「怖いに決まってる」と言葉を紡いだ。
「美咲――いや、桜姫への執着だけじゃない。あのオッサンはそもそも、何を考えてるか分かったもんじゃねえしな。綾乃の奴の話だと、時々、〈開かずの間〉に籠って何かしてるらしい」
〈開かずの間〉とは何なのか、と訊こうとしたが、すぐに思い当たることがあった。以前、藤崎達によって本家に連れて来られた時に藍田に通された蔵だ。あの蔵は誰でも入れる所ではない。普段は扉は鎖で厳重に繋がれ、さらに南京錠をかけられている。藍田ですら開けるのに相当難儀していたから、あんな苦労をしてまで中に入ろうとは誰も考えないだろう。
しかし、あの蔵で藍田は何をしているのか。確かに、あの蔵には〈何か〉があるようには思える。未だに輝きを失っていない桜姫の髪は見せられたが、それ以外にも。
「藤崎さんは、あの中に何があるか知ってるの?」
訊ねてから、美咲は、あ、と後悔した。
「知るわけねえだろ」
予想通りの答えだった。
「だいだい、あそこは本家筋でも特定の人間しか近付けない場所なんだ。ちょっとでも扉に触れようもんなら電撃を与えられる。下手すりゃ感電死しちまう」
「感電死……?」
「藍田家当主のチカラ、っつうやつ」
「伯父さんの、チカラ……?」
「――まさかお前、オッサンのチカラを知らねえのか?」
呆れたように藤崎に問われた美咲は、無言で首を横に振るしかなかった。
藍田は確かに恐ろしい。だが、藍田の持つ、真の〈チカラ〉については全く知らなかった。というより、そもそも興味がなかった。
確かによくよく考えたら、何のチカラもない者が、対鬼王と桜姫を倒す能力者の頂点に立てるわけがない。
「――なら、伯父さんは鬼王や桜姫を斃せるチカラもあるってこと……?」
恐る恐る訊くも、藤崎は、「そりゃ無理だな」とさも当然のように否定した。
「俺や綾乃、あとはあの南條って奴とかのチカラなら、器を傷付けずに妖鬼を斃せる。そもそも、俺達のチカラは生身の人間にはまず無効だからな。ただ、器が魂ごと鬼王に取り込まれてしまったら別だ。器と妖鬼が共倒れになっちまう」
「――じゃあ、伯父さんは……?」
「逆を考えればいい。オッサン――藍田家当主は妖鬼を消滅させることは出来ない。けど、生身の人間であれば……」
そこまで言うと、藤崎はジッと美咲を見据える。言い淀んでいる、というよりも、あえて美咲に先を言わせようとしている。
さすがに美咲も察した。だが、やはりまだ腑に落ちない部分がある。
慣れないながら、美咲は相手の名前を口にした。本音を言えば〈あんた〉と呼びたいところだったが、相手――藤崎は美咲を名前で呼ぶし、何より固有名詞を使わないのは失礼だと良心が咎めた。さすがに、下の名前で呼ぶのは抵抗があるが。
「さっきも言ったろ? ちょっとでも目を離した隙に消えたなんて知られたらオッサンが煩い」
「――伯父さんが怖いの?」
また、藤崎の言葉を無視して訊ねる。
藤崎も諦めたのか、特に突っ込みを入れることはしなかった。だが、少し答えを躊躇い、間を置いてから、「怖いに決まってる」と言葉を紡いだ。
「美咲――いや、桜姫への執着だけじゃない。あのオッサンはそもそも、何を考えてるか分かったもんじゃねえしな。綾乃の奴の話だと、時々、〈開かずの間〉に籠って何かしてるらしい」
〈開かずの間〉とは何なのか、と訊こうとしたが、すぐに思い当たることがあった。以前、藤崎達によって本家に連れて来られた時に藍田に通された蔵だ。あの蔵は誰でも入れる所ではない。普段は扉は鎖で厳重に繋がれ、さらに南京錠をかけられている。藍田ですら開けるのに相当難儀していたから、あんな苦労をしてまで中に入ろうとは誰も考えないだろう。
しかし、あの蔵で藍田は何をしているのか。確かに、あの蔵には〈何か〉があるようには思える。未だに輝きを失っていない桜姫の髪は見せられたが、それ以外にも。
「藤崎さんは、あの中に何があるか知ってるの?」
訊ねてから、美咲は、あ、と後悔した。
「知るわけねえだろ」
予想通りの答えだった。
「だいだい、あそこは本家筋でも特定の人間しか近付けない場所なんだ。ちょっとでも扉に触れようもんなら電撃を与えられる。下手すりゃ感電死しちまう」
「感電死……?」
「藍田家当主のチカラ、っつうやつ」
「伯父さんの、チカラ……?」
「――まさかお前、オッサンのチカラを知らねえのか?」
呆れたように藤崎に問われた美咲は、無言で首を横に振るしかなかった。
藍田は確かに恐ろしい。だが、藍田の持つ、真の〈チカラ〉については全く知らなかった。というより、そもそも興味がなかった。
確かによくよく考えたら、何のチカラもない者が、対鬼王と桜姫を倒す能力者の頂点に立てるわけがない。
「――なら、伯父さんは鬼王や桜姫を斃せるチカラもあるってこと……?」
恐る恐る訊くも、藤崎は、「そりゃ無理だな」とさも当然のように否定した。
「俺や綾乃、あとはあの南條って奴とかのチカラなら、器を傷付けずに妖鬼を斃せる。そもそも、俺達のチカラは生身の人間にはまず無効だからな。ただ、器が魂ごと鬼王に取り込まれてしまったら別だ。器と妖鬼が共倒れになっちまう」
「――じゃあ、伯父さんは……?」
「逆を考えればいい。オッサン――藍田家当主は妖鬼を消滅させることは出来ない。けど、生身の人間であれば……」
そこまで言うと、藤崎はジッと美咲を見据える。言い淀んでいる、というよりも、あえて美咲に先を言わせようとしている。
さすがに美咲も察した。だが、やはりまだ腑に落ちない部分がある。
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