5 / 7
Act.4-02
しおりを挟む
「葵? 誰かお客さん?」
声を聴き付けたのか、葵の母親が庭に現れた。
「あ、こんにちは。お邪魔しています」
陽太母がすかさず葵母に挨拶すると、葵母は「あら」と満面の笑みを浮かべた。
「西山さん、いらっしゃい。ヒマワリを見に来てくれたんですか?」
「ええ。と言っても、お恥ずかしいことに今日までこちらで種を植えていたことを知らずにいたんです。
葵ちゃんにも言ったのですけど、ウチの陽太がご迷惑をおかけしてしまって……」
「いえいえ、そんなの全く気にしなくていいんですよー」
葵母はカラカラと笑った。
「お陰さまで私にも楽しみがひとつ増えましたから。それに何より、子供達が本当に嬉しそうでしたもの」
「そうでしたか。なら、安心しました」
陽太母も、葵母に釣られるように笑顔を見せた。
「さて、それじゃあ写真を撮りましょうか」
陽太母はカメラを顔の高さまで上げると、「ふたりとも、ヒマワリの前に並びなさい」と促してきた。
「うん! ほら、葵ちゃん!」
「ええー……、絶対撮ってもらわなきゃダメなの……?」
「もちろん!」
全く乗り気でない葵に、陽太はきっぱりと答えた。
「今日は初めてここにヒマワリが咲いた日なんだから! 一生の記念だよ!」
「んな大袈裟な……」
「つべこべ言わない! ほらっ!」
いつもは葵の後ろを着いて来てばかりの陽太が、今日は何故か逆にリードを取っている。嫌がる葵の腕を強引に引っ張ると、陽太は自分の隣に葵を立たせた。
(もう……、陽太だけで十分でしょ……)
心の中で不満を言いながら、葵はデジカメを構える陽太母を見つめる。
「じゃ、撮るわよー! あ、葵ちゃん! 顔が固いわよ! リラックスリラックス!」
(そんなこと言われたってえ……)
カメラを前に、葵はいつになく弱気になっている。
もう、絶対にイヤだ! と思っていたのだが――
「葵ちゃん」
隣の陽太が優しく声をかけてきた。
「葵ちゃんはイヤかもしれないけど、これは冗談じゃなくほんとに想い出なの。だから、今日だけは我慢してよ、ね?」
「う、うん……。分かった」
葵が答えると、陽太は嬉しそうに大きく頷いて彼女の手をそっと握った。
葵の鼓動が、トクトクと脈打った。手を繋ぐのは初めてではないし、こんな気持ちになることもなかった。
なのに、今は違う。言葉では上手く言い表せないが、何か特別なものが手を通じて伝わってくる。
「さあ! 今度こそ撮るわよ!」
陽太母は再びカメラを構えると、「イチたすイチはー?」とベタな合言葉を口にした。
葵と陽太は「せえの!」と呼吸を揃える。
「ニー!」
同時に答えると、陽太母はタイミングよくシャッターを切る。
「あらっ! ふたりとも可愛いじゃないのー!」
「うんうん! 最高の笑顔だわ!」
二人の母親は、デジカメの画面を見ながらはしゃいでいる。
「じゃ、せっかくだからもう一回撮っちゃおう! ちょっとポーズを変えてみよっか!」
陽太母はすっかり調子付いている。
それは葵母も同じで、今度はふたりの所へ来て、立ち位置の指導に入ったほどだった。
「こんな感じでどうですか?」
大まかに位置を決めた葵母は、陽太母に確認していた。
「あ、いいじゃないですか! よし! では次はそれで撮りましょう!」
陽太母はもう一度カメラを構え、先ほどと同様にベタな合言葉を言った。
それを何度も繰り返されるうちに、葵もさすがに慣れてきた。最初は笑顔にぎこちなさがあったが、そのうち、カメラを前にしても自然に笑えるようになっていた。
声を聴き付けたのか、葵の母親が庭に現れた。
「あ、こんにちは。お邪魔しています」
陽太母がすかさず葵母に挨拶すると、葵母は「あら」と満面の笑みを浮かべた。
「西山さん、いらっしゃい。ヒマワリを見に来てくれたんですか?」
「ええ。と言っても、お恥ずかしいことに今日までこちらで種を植えていたことを知らずにいたんです。
葵ちゃんにも言ったのですけど、ウチの陽太がご迷惑をおかけしてしまって……」
「いえいえ、そんなの全く気にしなくていいんですよー」
葵母はカラカラと笑った。
「お陰さまで私にも楽しみがひとつ増えましたから。それに何より、子供達が本当に嬉しそうでしたもの」
「そうでしたか。なら、安心しました」
陽太母も、葵母に釣られるように笑顔を見せた。
「さて、それじゃあ写真を撮りましょうか」
陽太母はカメラを顔の高さまで上げると、「ふたりとも、ヒマワリの前に並びなさい」と促してきた。
「うん! ほら、葵ちゃん!」
「ええー……、絶対撮ってもらわなきゃダメなの……?」
「もちろん!」
全く乗り気でない葵に、陽太はきっぱりと答えた。
「今日は初めてここにヒマワリが咲いた日なんだから! 一生の記念だよ!」
「んな大袈裟な……」
「つべこべ言わない! ほらっ!」
いつもは葵の後ろを着いて来てばかりの陽太が、今日は何故か逆にリードを取っている。嫌がる葵の腕を強引に引っ張ると、陽太は自分の隣に葵を立たせた。
(もう……、陽太だけで十分でしょ……)
心の中で不満を言いながら、葵はデジカメを構える陽太母を見つめる。
「じゃ、撮るわよー! あ、葵ちゃん! 顔が固いわよ! リラックスリラックス!」
(そんなこと言われたってえ……)
カメラを前に、葵はいつになく弱気になっている。
もう、絶対にイヤだ! と思っていたのだが――
「葵ちゃん」
隣の陽太が優しく声をかけてきた。
「葵ちゃんはイヤかもしれないけど、これは冗談じゃなくほんとに想い出なの。だから、今日だけは我慢してよ、ね?」
「う、うん……。分かった」
葵が答えると、陽太は嬉しそうに大きく頷いて彼女の手をそっと握った。
葵の鼓動が、トクトクと脈打った。手を繋ぐのは初めてではないし、こんな気持ちになることもなかった。
なのに、今は違う。言葉では上手く言い表せないが、何か特別なものが手を通じて伝わってくる。
「さあ! 今度こそ撮るわよ!」
陽太母は再びカメラを構えると、「イチたすイチはー?」とベタな合言葉を口にした。
葵と陽太は「せえの!」と呼吸を揃える。
「ニー!」
同時に答えると、陽太母はタイミングよくシャッターを切る。
「あらっ! ふたりとも可愛いじゃないのー!」
「うんうん! 最高の笑顔だわ!」
二人の母親は、デジカメの画面を見ながらはしゃいでいる。
「じゃ、せっかくだからもう一回撮っちゃおう! ちょっとポーズを変えてみよっか!」
陽太母はすっかり調子付いている。
それは葵母も同じで、今度はふたりの所へ来て、立ち位置の指導に入ったほどだった。
「こんな感じでどうですか?」
大まかに位置を決めた葵母は、陽太母に確認していた。
「あ、いいじゃないですか! よし! では次はそれで撮りましょう!」
陽太母はもう一度カメラを構え、先ほどと同様にベタな合言葉を言った。
それを何度も繰り返されるうちに、葵もさすがに慣れてきた。最初は笑顔にぎこちなさがあったが、そのうち、カメラを前にしても自然に笑えるようになっていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる