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Act.4-02
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「葵? 誰かお客さん?」
声を聴き付けたのか、葵の母親が庭に現れた。
「あ、こんにちは。お邪魔しています」
陽太母がすかさず葵母に挨拶すると、葵母は「あら」と満面の笑みを浮かべた。
「西山さん、いらっしゃい。ヒマワリを見に来てくれたんですか?」
「ええ。と言っても、お恥ずかしいことに今日までこちらで種を植えていたことを知らずにいたんです。
葵ちゃんにも言ったのですけど、ウチの陽太がご迷惑をおかけしてしまって……」
「いえいえ、そんなの全く気にしなくていいんですよー」
葵母はカラカラと笑った。
「お陰さまで私にも楽しみがひとつ増えましたから。それに何より、子供達が本当に嬉しそうでしたもの」
「そうでしたか。なら、安心しました」
陽太母も、葵母に釣られるように笑顔を見せた。
「さて、それじゃあ写真を撮りましょうか」
陽太母はカメラを顔の高さまで上げると、「ふたりとも、ヒマワリの前に並びなさい」と促してきた。
「うん! ほら、葵ちゃん!」
「ええー……、絶対撮ってもらわなきゃダメなの……?」
「もちろん!」
全く乗り気でない葵に、陽太はきっぱりと答えた。
「今日は初めてここにヒマワリが咲いた日なんだから! 一生の記念だよ!」
「んな大袈裟な……」
「つべこべ言わない! ほらっ!」
いつもは葵の後ろを着いて来てばかりの陽太が、今日は何故か逆にリードを取っている。嫌がる葵の腕を強引に引っ張ると、陽太は自分の隣に葵を立たせた。
(もう……、陽太だけで十分でしょ……)
心の中で不満を言いながら、葵はデジカメを構える陽太母を見つめる。
「じゃ、撮るわよー! あ、葵ちゃん! 顔が固いわよ! リラックスリラックス!」
(そんなこと言われたってえ……)
カメラを前に、葵はいつになく弱気になっている。
もう、絶対にイヤだ! と思っていたのだが――
「葵ちゃん」
隣の陽太が優しく声をかけてきた。
「葵ちゃんはイヤかもしれないけど、これは冗談じゃなくほんとに想い出なの。だから、今日だけは我慢してよ、ね?」
「う、うん……。分かった」
葵が答えると、陽太は嬉しそうに大きく頷いて彼女の手をそっと握った。
葵の鼓動が、トクトクと脈打った。手を繋ぐのは初めてではないし、こんな気持ちになることもなかった。
なのに、今は違う。言葉では上手く言い表せないが、何か特別なものが手を通じて伝わってくる。
「さあ! 今度こそ撮るわよ!」
陽太母は再びカメラを構えると、「イチたすイチはー?」とベタな合言葉を口にした。
葵と陽太は「せえの!」と呼吸を揃える。
「ニー!」
同時に答えると、陽太母はタイミングよくシャッターを切る。
「あらっ! ふたりとも可愛いじゃないのー!」
「うんうん! 最高の笑顔だわ!」
二人の母親は、デジカメの画面を見ながらはしゃいでいる。
「じゃ、せっかくだからもう一回撮っちゃおう! ちょっとポーズを変えてみよっか!」
陽太母はすっかり調子付いている。
それは葵母も同じで、今度はふたりの所へ来て、立ち位置の指導に入ったほどだった。
「こんな感じでどうですか?」
大まかに位置を決めた葵母は、陽太母に確認していた。
「あ、いいじゃないですか! よし! では次はそれで撮りましょう!」
陽太母はもう一度カメラを構え、先ほどと同様にベタな合言葉を言った。
それを何度も繰り返されるうちに、葵もさすがに慣れてきた。最初は笑顔にぎこちなさがあったが、そのうち、カメラを前にしても自然に笑えるようになっていた。
声を聴き付けたのか、葵の母親が庭に現れた。
「あ、こんにちは。お邪魔しています」
陽太母がすかさず葵母に挨拶すると、葵母は「あら」と満面の笑みを浮かべた。
「西山さん、いらっしゃい。ヒマワリを見に来てくれたんですか?」
「ええ。と言っても、お恥ずかしいことに今日までこちらで種を植えていたことを知らずにいたんです。
葵ちゃんにも言ったのですけど、ウチの陽太がご迷惑をおかけしてしまって……」
「いえいえ、そんなの全く気にしなくていいんですよー」
葵母はカラカラと笑った。
「お陰さまで私にも楽しみがひとつ増えましたから。それに何より、子供達が本当に嬉しそうでしたもの」
「そうでしたか。なら、安心しました」
陽太母も、葵母に釣られるように笑顔を見せた。
「さて、それじゃあ写真を撮りましょうか」
陽太母はカメラを顔の高さまで上げると、「ふたりとも、ヒマワリの前に並びなさい」と促してきた。
「うん! ほら、葵ちゃん!」
「ええー……、絶対撮ってもらわなきゃダメなの……?」
「もちろん!」
全く乗り気でない葵に、陽太はきっぱりと答えた。
「今日は初めてここにヒマワリが咲いた日なんだから! 一生の記念だよ!」
「んな大袈裟な……」
「つべこべ言わない! ほらっ!」
いつもは葵の後ろを着いて来てばかりの陽太が、今日は何故か逆にリードを取っている。嫌がる葵の腕を強引に引っ張ると、陽太は自分の隣に葵を立たせた。
(もう……、陽太だけで十分でしょ……)
心の中で不満を言いながら、葵はデジカメを構える陽太母を見つめる。
「じゃ、撮るわよー! あ、葵ちゃん! 顔が固いわよ! リラックスリラックス!」
(そんなこと言われたってえ……)
カメラを前に、葵はいつになく弱気になっている。
もう、絶対にイヤだ! と思っていたのだが――
「葵ちゃん」
隣の陽太が優しく声をかけてきた。
「葵ちゃんはイヤかもしれないけど、これは冗談じゃなくほんとに想い出なの。だから、今日だけは我慢してよ、ね?」
「う、うん……。分かった」
葵が答えると、陽太は嬉しそうに大きく頷いて彼女の手をそっと握った。
葵の鼓動が、トクトクと脈打った。手を繋ぐのは初めてではないし、こんな気持ちになることもなかった。
なのに、今は違う。言葉では上手く言い表せないが、何か特別なものが手を通じて伝わってくる。
「さあ! 今度こそ撮るわよ!」
陽太母は再びカメラを構えると、「イチたすイチはー?」とベタな合言葉を口にした。
葵と陽太は「せえの!」と呼吸を揃える。
「ニー!」
同時に答えると、陽太母はタイミングよくシャッターを切る。
「あらっ! ふたりとも可愛いじゃないのー!」
「うんうん! 最高の笑顔だわ!」
二人の母親は、デジカメの画面を見ながらはしゃいでいる。
「じゃ、せっかくだからもう一回撮っちゃおう! ちょっとポーズを変えてみよっか!」
陽太母はすっかり調子付いている。
それは葵母も同じで、今度はふたりの所へ来て、立ち位置の指導に入ったほどだった。
「こんな感じでどうですか?」
大まかに位置を決めた葵母は、陽太母に確認していた。
「あ、いいじゃないですか! よし! では次はそれで撮りましょう!」
陽太母はもう一度カメラを構え、先ほどと同様にベタな合言葉を言った。
それを何度も繰り返されるうちに、葵もさすがに慣れてきた。最初は笑顔にぎこちなさがあったが、そのうち、カメラを前にしても自然に笑えるようになっていた。
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