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Act.4-01
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時は過ぎ、葵達の小学校は長い夏休みへと入った。小学校生活最後の夏休みだし、今年は葵の家の庭に植えたヒマワリも見られる。
種を植えたあと、母親は父親に話をしたそうだが、案の定、勝手に植えたことに対して渋い表情を見せたそうだ。しかし、そこで母親が子供達の喜ぶ顔が見たいからと即座に説得に入り、最終的には仕方ないとばかりに納得してくれたようだった。
陽太は毎日欠かさず葵の家を訪れた。葵と共に水を撒き、「早く咲け咲け」とまるで呪文でも唱えるようにヒマワリに話しかける。
その甲斐あってか、ヒマワリは葵や陽太の身長も優に超すほど成長を遂げた。黄色い大輪の花を満開にさせる日も、もうそこまで迫っている。
「明日になったら咲いてるかなあ?」
陽太はヒマワリを見上げながら言った。
「僕、花が咲くのをすっごく楽しみにしてたから! 花が咲いたら、お母さんに頼んで葵ちゃんと一緒に写真を撮ってもらおうと思ってるんだ!」
「写真かあ……」
陽太の言葉に、葵は眉根を寄せた。
「あたし、写真映りがチョー悪いからなあ……。それに、陽太と並ぶともっと酷さが増しちゃうもん……」
「え? 別に葵ちゃん写真映りは悪くないでしょ? それに、どうして僕がいるとダメなの?」
「――それは一生、陽太には分かんないことだよ……」
「ふうん……」
陽太は怪訝そうに首を捻っていたが、すぐに興味を失ったのか、またいつものように呪文を唱え出した。
(ほんとに女の子よりも可愛いんだから……。腹立つなあ……)
唇をツンと尖らせながら、葵はしばらく陽太の横顔を睨み続けた。
◆◇◆◇
数日後、陽太の予想通り、ヒマワリは一斉に花を咲かせていた。
「わあ! 咲いた咲いたー!」
陽太は花を見るなり、飛び上がって喜びを表現していた。
「それじゃ、早速写真を撮ってもらおう! 葵ちゃん、お母さんを呼んで来るから待っててねー!」
「えっ……! ま、まっ……!」
引き留める間もなく、陽太は意気揚々とスキップしながらその場を離れてしまった。
「もう……」
葵は溜め息をひとつ吐くと、陽太の背中に向かって叫んだ。
「陽太ー! あんまり走っちゃダメだよー!」
◆◇◆◇
しばらくして、陽太は自分の母親を伴って戻って来た。
陽太母の手には、シルバーの小さなデジタルカメラが握られている。
「あらあ! 立派に咲かせたわねえ」
陽太母はヒマワリを目にするなり、感嘆の声を上げた。そして、今度は葵に視線を向けてきた。
「葵ちゃん、ウチの子のわがままに付き合わせちゃってごめんね。まさか、沢木さんちで種を植えてたなんて、全然知らなかったわ」
申しわけなさそうにしている陽太母に対し、葵は「ううん」と首を振った。
「私も育てるのとっても楽しかったから。それに、お母さんもかなり乗り気だったしね」
葵の言葉に嘘偽りはいっさいない。最初は確かに父親への懸念もあって渋りはしたものの、最終的には育てるのが楽しくて仕方なくなっていたのだ。
種を植えたあと、母親は父親に話をしたそうだが、案の定、勝手に植えたことに対して渋い表情を見せたそうだ。しかし、そこで母親が子供達の喜ぶ顔が見たいからと即座に説得に入り、最終的には仕方ないとばかりに納得してくれたようだった。
陽太は毎日欠かさず葵の家を訪れた。葵と共に水を撒き、「早く咲け咲け」とまるで呪文でも唱えるようにヒマワリに話しかける。
その甲斐あってか、ヒマワリは葵や陽太の身長も優に超すほど成長を遂げた。黄色い大輪の花を満開にさせる日も、もうそこまで迫っている。
「明日になったら咲いてるかなあ?」
陽太はヒマワリを見上げながら言った。
「僕、花が咲くのをすっごく楽しみにしてたから! 花が咲いたら、お母さんに頼んで葵ちゃんと一緒に写真を撮ってもらおうと思ってるんだ!」
「写真かあ……」
陽太の言葉に、葵は眉根を寄せた。
「あたし、写真映りがチョー悪いからなあ……。それに、陽太と並ぶともっと酷さが増しちゃうもん……」
「え? 別に葵ちゃん写真映りは悪くないでしょ? それに、どうして僕がいるとダメなの?」
「――それは一生、陽太には分かんないことだよ……」
「ふうん……」
陽太は怪訝そうに首を捻っていたが、すぐに興味を失ったのか、またいつものように呪文を唱え出した。
(ほんとに女の子よりも可愛いんだから……。腹立つなあ……)
唇をツンと尖らせながら、葵はしばらく陽太の横顔を睨み続けた。
◆◇◆◇
数日後、陽太の予想通り、ヒマワリは一斉に花を咲かせていた。
「わあ! 咲いた咲いたー!」
陽太は花を見るなり、飛び上がって喜びを表現していた。
「それじゃ、早速写真を撮ってもらおう! 葵ちゃん、お母さんを呼んで来るから待っててねー!」
「えっ……! ま、まっ……!」
引き留める間もなく、陽太は意気揚々とスキップしながらその場を離れてしまった。
「もう……」
葵は溜め息をひとつ吐くと、陽太の背中に向かって叫んだ。
「陽太ー! あんまり走っちゃダメだよー!」
◆◇◆◇
しばらくして、陽太は自分の母親を伴って戻って来た。
陽太母の手には、シルバーの小さなデジタルカメラが握られている。
「あらあ! 立派に咲かせたわねえ」
陽太母はヒマワリを目にするなり、感嘆の声を上げた。そして、今度は葵に視線を向けてきた。
「葵ちゃん、ウチの子のわがままに付き合わせちゃってごめんね。まさか、沢木さんちで種を植えてたなんて、全然知らなかったわ」
申しわけなさそうにしている陽太母に対し、葵は「ううん」と首を振った。
「私も育てるのとっても楽しかったから。それに、お母さんもかなり乗り気だったしね」
葵の言葉に嘘偽りはいっさいない。最初は確かに父親への懸念もあって渋りはしたものの、最終的には育てるのが楽しくて仕方なくなっていたのだ。
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【素材】
足成
足成
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