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Act.3
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食事も終盤に差しかかった頃、陽太は、「そうそう」と何かを想い出したかのように口を開いた。
「僕、今日はいいもの持って来たんだ」
「いいもの?」
ほぐした魚の最後の一口分を口に運びかけて、葵は訊ねた。
すると、陽太は自分のズボンのポケットを探り始め、そこから透明な小袋を取り出した。
その中には、白黒が混じった涙型の粒が入っている。
「――これって、ヒマワリの種、だよね?」
確認するように問うと、陽太は呆れたように「当たり前でしょ」と溜め息を交えながら答えた。
いつになく横柄な態度となった陽太に、葵はついムッとしてしまった。
「わ、分かってるよ。一応訊いてみただけじゃん」
「そうなの?」
「そうなの! いちいち訊き返さなくていいから!」
葵が声を荒らげると、陽太は身体をビクリと反応させた。
「葵」
そこへ母親がすかさず入ってきた。
「そんなにキツく言うことないでしょう。見なさい? ハル君怖がってるじゃないの」
母親はそう言うと、陽太の頭を優しく撫でていた。
「ご、ごめん……」
言いたいことは山ほどあったが、これ以上は無駄だと葵も思い、結局、素直に謝罪を口にしてしまった。
そんな葵に母親は満足げに頷くと、今度は陽太に「ねえ」と声をかけた。
「ハル君、そのヒマワリの種はどうするの?」
「これ? もちろん植えるんだよ!」
母親に慰められてすっかり機嫌の戻った陽太は、満面の笑顔で言う。
「けど、僕の家の庭は狭いから植えられなくて。だから、代わりに葵ちゃんちで育てちゃおうかな、って思ったんだ」
「あらま!」
母親の表情がパッと輝いた。
「それって素敵じゃない! ね、葵もそう思うでしょ?」
「いや、確かにヒマワリは好きだけど……。でも、勝手に植えたりしたらお父さんに怒られない?」
「大丈夫よ」
葵の心配をよそに、母親は自信満々に答えた。
「お父さんにはお母さんが責任持って説得するから。ま、反対される前に植えちゃえば文句なんて言えなくなるわよ」
「うわっ! 最低な母親だな……」
「なんとでも言いなさいな」
葵が突っ込みを入れると、母親は両腕を前で組んで踏ん反り返った。
◆◇◆◇
葵が食事を済ませてから、三人は外に出て庭へと入った。
母親は一度物置へ引っ込むと、そこからスコップを探し出して、葵と陽太へそれぞれ渡した。
「まだあったはずなんだけど、仕方ないわね。ふたりで植えるといいわ」
「うん」
「分かった!」
葵と陽太は同時に頷くと、花壇の空いている場所へ移動し、そこにしゃがみ込んでスコップで小さな穴を横並びに掘っていった。そこへ陽太が持参したヒマワリの種を一粒ずつ置き、上から優しく土を被せた。
「さ、水を撒くわよ」
母親はいつの間にか用意していたじょうろを使い、土の上から霧雨のような水をかけてゆく。
「よし! こんな感じでいいでしょう!」
水をあらかたかけ終わると、ついでだから、と言いながら他の植物にも水を与えていた。
(ずっとウチにいるこの子達よりも、新参者のヒマワリを最優先させちゃうってどうなんだろ……?)
つい、葵は他の植物達に同情してしまった。
「ねえねえ葵ちゃん!」
葵の思いとは裏腹に、陽太は無邪気な笑顔で頬杖を突いている。
「夏休みに入ったら、ここはヒマワリでいっぱいになるんだよね? 楽しみだねえ! 早く夏休みがくるといいなあ」
ヒマワリの種が植えられた土を、陽太は幸せそうに見つめていた。
そんな顔を見ていると、葵も釣られて口元に笑みが浮かんでくる。
「そうだね、あたしも夏休みが楽しみだよ」
自然と、葵はそう口にしていた。
「僕、今日はいいもの持って来たんだ」
「いいもの?」
ほぐした魚の最後の一口分を口に運びかけて、葵は訊ねた。
すると、陽太は自分のズボンのポケットを探り始め、そこから透明な小袋を取り出した。
その中には、白黒が混じった涙型の粒が入っている。
「――これって、ヒマワリの種、だよね?」
確認するように問うと、陽太は呆れたように「当たり前でしょ」と溜め息を交えながら答えた。
いつになく横柄な態度となった陽太に、葵はついムッとしてしまった。
「わ、分かってるよ。一応訊いてみただけじゃん」
「そうなの?」
「そうなの! いちいち訊き返さなくていいから!」
葵が声を荒らげると、陽太は身体をビクリと反応させた。
「葵」
そこへ母親がすかさず入ってきた。
「そんなにキツく言うことないでしょう。見なさい? ハル君怖がってるじゃないの」
母親はそう言うと、陽太の頭を優しく撫でていた。
「ご、ごめん……」
言いたいことは山ほどあったが、これ以上は無駄だと葵も思い、結局、素直に謝罪を口にしてしまった。
そんな葵に母親は満足げに頷くと、今度は陽太に「ねえ」と声をかけた。
「ハル君、そのヒマワリの種はどうするの?」
「これ? もちろん植えるんだよ!」
母親に慰められてすっかり機嫌の戻った陽太は、満面の笑顔で言う。
「けど、僕の家の庭は狭いから植えられなくて。だから、代わりに葵ちゃんちで育てちゃおうかな、って思ったんだ」
「あらま!」
母親の表情がパッと輝いた。
「それって素敵じゃない! ね、葵もそう思うでしょ?」
「いや、確かにヒマワリは好きだけど……。でも、勝手に植えたりしたらお父さんに怒られない?」
「大丈夫よ」
葵の心配をよそに、母親は自信満々に答えた。
「お父さんにはお母さんが責任持って説得するから。ま、反対される前に植えちゃえば文句なんて言えなくなるわよ」
「うわっ! 最低な母親だな……」
「なんとでも言いなさいな」
葵が突っ込みを入れると、母親は両腕を前で組んで踏ん反り返った。
◆◇◆◇
葵が食事を済ませてから、三人は外に出て庭へと入った。
母親は一度物置へ引っ込むと、そこからスコップを探し出して、葵と陽太へそれぞれ渡した。
「まだあったはずなんだけど、仕方ないわね。ふたりで植えるといいわ」
「うん」
「分かった!」
葵と陽太は同時に頷くと、花壇の空いている場所へ移動し、そこにしゃがみ込んでスコップで小さな穴を横並びに掘っていった。そこへ陽太が持参したヒマワリの種を一粒ずつ置き、上から優しく土を被せた。
「さ、水を撒くわよ」
母親はいつの間にか用意していたじょうろを使い、土の上から霧雨のような水をかけてゆく。
「よし! こんな感じでいいでしょう!」
水をあらかたかけ終わると、ついでだから、と言いながら他の植物にも水を与えていた。
(ずっとウチにいるこの子達よりも、新参者のヒマワリを最優先させちゃうってどうなんだろ……?)
つい、葵は他の植物達に同情してしまった。
「ねえねえ葵ちゃん!」
葵の思いとは裏腹に、陽太は無邪気な笑顔で頬杖を突いている。
「夏休みに入ったら、ここはヒマワリでいっぱいになるんだよね? 楽しみだねえ! 早く夏休みがくるといいなあ」
ヒマワリの種が植えられた土を、陽太は幸せそうに見つめていた。
そんな顔を見ていると、葵も釣られて口元に笑みが浮かんでくる。
「そうだね、あたしも夏休みが楽しみだよ」
自然と、葵はそう口にしていた。
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