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Extra.2 壊されるほどに
Act.2-02
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「あっちで飲んでみましょう」
カクテルのグラスをふたつ持った衛也君に促され、再び部屋に戻る。
衛也君はグラスをテーブルに置くと、また台所へ向かい、個別包装されたサラミとチーズのおつまみを持って戻って来た。
「すいません、腹の足しになるようなものがなくて……」
そう言いながら、袋を破って中身をコタツの中心に広げる。日本酒ベースとはいえ、カクテル用のおつまみじゃないな、とは思ったけれど、やっぱり突っ込みは心の中だけに留めた。
「それじゃあ、今日も一日お疲れ様でした」
衛也君のこの言葉を合図に互いのグラスがぶつかり合い、乾いた音が響く。
私と衛也君は同時にグラスに口を付けた。グリーンティーリキュールの味だろうか。ほんのりと甘い。そして、レモンジュースの酸っぱさが相まって飲みやすい。
「美味しい」
正直な感想を口にしたのに、衛也君は「ほんとですか?」と恐る恐る訊ねてくる。衛也君には合わなかったのだろうか。そう思って問い返してみると、そんなことはない、と首を横に振った。
「失敗したわりには美味く出来たと思ってます。――でも、俺はもうちょっと酒が強めでも良かったかな? これはやっぱり女性向けかもしれませんね」
「なるほど」
私はチーズを咀嚼してから、それをカクテルで流し込んだ。
「だったら、レモンジュースはよけいに入れない方が良かったかもしれないわね。ジンも多いままで正解だったってことじゃない?」
「ですね。ジンが多く入った時は失敗したと思いましたけど、俺にはかえって入れ過ぎの方がちょうど良かったかもしれないです」
「今からでもジンを追加したら?」
「――いや、やめときます。あれ、相当強いですから……。でも、日本酒ならばジンより度数低めだから追加してもいいかな?」
そう言うと、本当に台所に行って日本酒の瓶をそのまま持ってきた。そして、無造作に自分のグラスに注いでゆく。これではただの日本酒割りだ。
「俺には洒落た酒は合わないってことです」
衛也君は口の端を上げ、日本酒割りを呷る。明らかに、先ほどよりも美味しそうに飲んでいた。
あっという間にグラスを空にすると、今度は日本酒をそのまま注ぐ。やっぱり、衛也君の言葉通り、変に凝ったお酒よりもプレーンなものが彼の口には合っているのだろう。
「――意外とオヤジよね……」
つい、本音がポロリと出てしまった。しまった、と思ったけれど、衛也君は気にした様子はなく、むしろ、悪戯っぽく歯を見せて笑った。
「実は、酒デビュー当初から甘ったるいのはあまり得意じゃなかったですから。飲めなくはないですけど、進んで飲もうとは思わなかったです。今でもですね」
「――じゃあ、今日は無理させたんじゃない?」
「言ったでしょ? そのカクテルは夕純さんが作ってくれた肉じゃがのお礼だって」
衛也君は日本酒を喉に流し込んでから続けた。
「無理したと言われれば無理したトコは確かにありますけど……。でも、夕純さんが美味しいと思って飲んでくれたならそれが何よりです。ネットで見付けた時も、夕純さんのイメージに凄くピッタリだと思ったから」
「――私、こんなに優しい感じじゃないと思うけど……」
まだ三分の一ほど残っているカクテルを眺めながら言うと、衛也君は、「また」と呆れたように苦笑いした。
「夕純さん自身がどう思ってようと、俺にとっては夕純さんは優しい早春のイメージそのものですよ。口では強がりを言ってても、実はとても繊細だから心配で目が離せない」
衛也君はグラスを置いた。そして、私との距離を縮めると、そのまま肩越しに抱き締めてきた。
鼓動が、トクン、と脈打つ。衛也君が私のために作ってくれたカクテルだけのせいじゃない。身体が徐々に熱を帯び、衛也君を求めてしまう。
カクテルのグラスをふたつ持った衛也君に促され、再び部屋に戻る。
衛也君はグラスをテーブルに置くと、また台所へ向かい、個別包装されたサラミとチーズのおつまみを持って戻って来た。
「すいません、腹の足しになるようなものがなくて……」
そう言いながら、袋を破って中身をコタツの中心に広げる。日本酒ベースとはいえ、カクテル用のおつまみじゃないな、とは思ったけれど、やっぱり突っ込みは心の中だけに留めた。
「それじゃあ、今日も一日お疲れ様でした」
衛也君のこの言葉を合図に互いのグラスがぶつかり合い、乾いた音が響く。
私と衛也君は同時にグラスに口を付けた。グリーンティーリキュールの味だろうか。ほんのりと甘い。そして、レモンジュースの酸っぱさが相まって飲みやすい。
「美味しい」
正直な感想を口にしたのに、衛也君は「ほんとですか?」と恐る恐る訊ねてくる。衛也君には合わなかったのだろうか。そう思って問い返してみると、そんなことはない、と首を横に振った。
「失敗したわりには美味く出来たと思ってます。――でも、俺はもうちょっと酒が強めでも良かったかな? これはやっぱり女性向けかもしれませんね」
「なるほど」
私はチーズを咀嚼してから、それをカクテルで流し込んだ。
「だったら、レモンジュースはよけいに入れない方が良かったかもしれないわね。ジンも多いままで正解だったってことじゃない?」
「ですね。ジンが多く入った時は失敗したと思いましたけど、俺にはかえって入れ過ぎの方がちょうど良かったかもしれないです」
「今からでもジンを追加したら?」
「――いや、やめときます。あれ、相当強いですから……。でも、日本酒ならばジンより度数低めだから追加してもいいかな?」
そう言うと、本当に台所に行って日本酒の瓶をそのまま持ってきた。そして、無造作に自分のグラスに注いでゆく。これではただの日本酒割りだ。
「俺には洒落た酒は合わないってことです」
衛也君は口の端を上げ、日本酒割りを呷る。明らかに、先ほどよりも美味しそうに飲んでいた。
あっという間にグラスを空にすると、今度は日本酒をそのまま注ぐ。やっぱり、衛也君の言葉通り、変に凝ったお酒よりもプレーンなものが彼の口には合っているのだろう。
「――意外とオヤジよね……」
つい、本音がポロリと出てしまった。しまった、と思ったけれど、衛也君は気にした様子はなく、むしろ、悪戯っぽく歯を見せて笑った。
「実は、酒デビュー当初から甘ったるいのはあまり得意じゃなかったですから。飲めなくはないですけど、進んで飲もうとは思わなかったです。今でもですね」
「――じゃあ、今日は無理させたんじゃない?」
「言ったでしょ? そのカクテルは夕純さんが作ってくれた肉じゃがのお礼だって」
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鼓動が、トクン、と脈打つ。衛也君が私のために作ってくれたカクテルだけのせいじゃない。身体が徐々に熱を帯び、衛也君を求めてしまう。
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