12 / 32
第三話 持つべきものは
Act.5-02
しおりを挟む
「――ごめん……」
紫織が謝罪を口にした。どうやら、涼香の反応を拒絶だと受け止めたらしい。
涼香は微苦笑を浮かべ、ゆっくりと立ち上がって紫織の頭の側に腰を下ろした。
「今日まさに、偶然再会したよ」
主語はあえて抜かした。だが、紫織は誰かを察したようだ。半身を起こし、涼香と並んで座り直すと、まじまじと視線を向けてきた。
「まだ、好きだったんだ……」
「呆れてる?」
肩を竦めながら問うと、紫織は首を横に振った。
「私だって、ずっと長いこと宏樹君に片想いを続けてたから。でも凄いね。涼香と朋也が再会したのって。だって、お互い連絡先は知らないんでしょ?」
「そりゃあね。そこまで親しい間柄だったわけじゃないし。ああでも、今日ご飯食べてから携帯番号とメールアドレス交換したわ」
「いつの間に……」
「ビックリした?」
「ビックリするに決まってるじゃない……」
紫織はそう言ってから、「でも」と満面の笑顔を見せながら言葉を紡いだ。
「ほんとに良かった。これがきっかけで距離が縮まるんじゃない?」
「だといいけどねえ」
涼香は上体を反らせ、足を組んだ。
「世の中、そんな都合のいいように出来ちゃいないからねえ。それに、私は別に高沢と深い関係になりたいなんて大それたことは思ってない。ほんのちょっとでも、私の存在が高沢の中に残ってくれれば充分だと思ってる」
「そう、なの……?」
「うん」
「そっか……」
紫織は少し哀しげに笑みを浮かべる。
「私、よけいなこと言っちゃったかな?」
「よけいなこと?」
怪訝に思いながら訊ねると、紫織は一呼吸置いてから口を開いた。
「『距離が縮まる』なんて軽率なこと言っちゃったから……」
涼香は呆気に取られ、けれどもすぐに声を上げて笑った。
「あっははは! そんなの軽率でも何でもないって! てか、紫織は昔っから細かいこと気にし過ぎだっての!」
「でも……」
「これ以上、『でも』はなし!」
そう言って、涼香は紫織の唇に人差し指をくっ付けた。
「正直言うと、紫織に今日の惚気話を聞いてもらおうと思ってたんだからさ。紫織がいいタイミングできっかけを作ってくれたから、こっちはラッキーだったわよ。つっても、私の話なんて大したもんじゃないけどね」
それでも興味ある? と訊くと、紫織は勢い良く首を縦に振り続ける。
「何でも話して! ほんと、涼香と朋也ってどんな会話するのか全く想像付かないから! すっごく興味ある!」
過剰なまでに期待されている。とはいえ、『大したもんじゃない』と前置きしているから、オチも何もない話にも喜んで耳を傾けてくれるだろう。紫織はそういう人間だ。
しかし、以前は紫織の恋愛話ばかり聴いていたはずだったのに、今はすっかり立場が逆転している。紫織の場合、収まる所に丸く収まって落ち着いたからというのもあるのだが。
結婚はまだのようだが、どこか余裕は感じられる。泣いている姿を何度も見ていただけに、本当に大人になったな、と改めて実感する。
(私はいつまでもガキのままだな……)
涼香の話を頷きながら聴いてくれる紫織を前に、涼香は思った。
【第三話 - End】
紫織が謝罪を口にした。どうやら、涼香の反応を拒絶だと受け止めたらしい。
涼香は微苦笑を浮かべ、ゆっくりと立ち上がって紫織の頭の側に腰を下ろした。
「今日まさに、偶然再会したよ」
主語はあえて抜かした。だが、紫織は誰かを察したようだ。半身を起こし、涼香と並んで座り直すと、まじまじと視線を向けてきた。
「まだ、好きだったんだ……」
「呆れてる?」
肩を竦めながら問うと、紫織は首を横に振った。
「私だって、ずっと長いこと宏樹君に片想いを続けてたから。でも凄いね。涼香と朋也が再会したのって。だって、お互い連絡先は知らないんでしょ?」
「そりゃあね。そこまで親しい間柄だったわけじゃないし。ああでも、今日ご飯食べてから携帯番号とメールアドレス交換したわ」
「いつの間に……」
「ビックリした?」
「ビックリするに決まってるじゃない……」
紫織はそう言ってから、「でも」と満面の笑顔を見せながら言葉を紡いだ。
「ほんとに良かった。これがきっかけで距離が縮まるんじゃない?」
「だといいけどねえ」
涼香は上体を反らせ、足を組んだ。
「世の中、そんな都合のいいように出来ちゃいないからねえ。それに、私は別に高沢と深い関係になりたいなんて大それたことは思ってない。ほんのちょっとでも、私の存在が高沢の中に残ってくれれば充分だと思ってる」
「そう、なの……?」
「うん」
「そっか……」
紫織は少し哀しげに笑みを浮かべる。
「私、よけいなこと言っちゃったかな?」
「よけいなこと?」
怪訝に思いながら訊ねると、紫織は一呼吸置いてから口を開いた。
「『距離が縮まる』なんて軽率なこと言っちゃったから……」
涼香は呆気に取られ、けれどもすぐに声を上げて笑った。
「あっははは! そんなの軽率でも何でもないって! てか、紫織は昔っから細かいこと気にし過ぎだっての!」
「でも……」
「これ以上、『でも』はなし!」
そう言って、涼香は紫織の唇に人差し指をくっ付けた。
「正直言うと、紫織に今日の惚気話を聞いてもらおうと思ってたんだからさ。紫織がいいタイミングできっかけを作ってくれたから、こっちはラッキーだったわよ。つっても、私の話なんて大したもんじゃないけどね」
それでも興味ある? と訊くと、紫織は勢い良く首を縦に振り続ける。
「何でも話して! ほんと、涼香と朋也ってどんな会話するのか全く想像付かないから! すっごく興味ある!」
過剰なまでに期待されている。とはいえ、『大したもんじゃない』と前置きしているから、オチも何もない話にも喜んで耳を傾けてくれるだろう。紫織はそういう人間だ。
しかし、以前は紫織の恋愛話ばかり聴いていたはずだったのに、今はすっかり立場が逆転している。紫織の場合、収まる所に丸く収まって落ち着いたからというのもあるのだが。
結婚はまだのようだが、どこか余裕は感じられる。泣いている姿を何度も見ていただけに、本当に大人になったな、と改めて実感する。
(私はいつまでもガキのままだな……)
涼香の話を頷きながら聴いてくれる紫織を前に、涼香は思った。
【第三話 - End】
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
雪花 ~四季の想い・第一幕~
雪原歌乃
青春
紫織はずっと、十歳も離れた幼なじみの宏樹に好意を寄せている。
だが、彼の弟・朋也が自分に恋愛感情を抱いていることに気付き、親友の涼香もまた……。
交錯する想いと想いが重なり合う日は?
※※※
時代設定は1990年代となっております。そのため、現在と比べると違和感を覚えられる点が多々あるかと思います。ご了承下さいませ。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる