42 / 67
第十話 雪花舞う季節に
Act.1
しおりを挟む
約束の日曜日となった。
昨晩は早めに寝ようと思い、十一時頃に床に就いたのだが、すっかり興奮してしまい、結局、明け方近くまで寝付けなかった。お陰で今は、少々寝不足気味だった。
(大丈夫かな……)
身支度を整え、リビングでトーストとホットミルクという軽い朝食を摂っていたが、時おりウトウトしてしまう。
「紫織、食べながら寝ない!」
母親に一喝されて慌てて目を覚ますも、それでも、数分と経たないうちに夢の世界へと落ちそうになる。
そんな紫織に、母親は深い溜め息を吐きながら言った。
「ねえ、今日は無理にでも出かけなきゃいけないわけ? 断れないの?」
「うーん……、それは無理……」
寝惚けながらも、紫織はきっぱりと否定した。
母親は怪訝そうにしながら、「どうして?」と重ねて訊ねてきた。
「あんた最近、なんか様子が変よねえ? いつもならば、用事よりも家でダラダラすることを最優先するのに……」
母親にまじまじと見つめられた紫織は、少しずつ頭が冴えてくるを感じた。同時に、全身から冷や汗がじんわりと湧き出る。
「なっ、何でもないよ」
紫織は急いでトーストを口に押し込むと、それをミルクで流し込み、母親の視線から逃げるようにリビングを飛び出した。
◆◇◆◇
約束の時間までは三十分ほどあったが、紫織はいそいそと家を出た。ちなみに待ち合わせ場所はそれぞれの家の近くではなく、あえて最寄りの駅前にした。家の前だと、どうしても朋也と鉢合わせしてしまう可能性がある。もちろん、駅も安全とは言いきれないのだが。
(宏樹君、なんて言って出て来るんだろ?)
駅まで続く道を足早に歩きながら、紫織は思った。
宏樹のことだから、飄々として、もっともらしい嘘を吐くだろう。しかし、同時に後ろめたさも感じているに違いない。
宏樹は紫織を可愛がってくれているが、実の弟である朋也もまた、うんと大切に想っている。それは紫織もよく分かっていた。
駅に着くと、紫織はコンクリートの階段を駆け上がる。
腕時計を見ると、待ち合わせにはまだ少し早かったが、いつになく気持ちが昂ぶっていた。
紫織は階段を登りきり、重いガラス扉を押して、待合室の中に足を踏み入れた。
人はちらほらと見受けられたが、宏樹らしい姿は見当たらない。
(ちょっと早かったもんね)
紫織は空いている椅子に腰を下ろすと、ぼんやりと辺りを見回した。
古びた駅の内部には大きな時刻表が掲げられており、地域のアピール用のポスターもあちこちに貼られている。
ふと、その中の一枚の右上が剥がれかかっているのが目に飛び込んだ。しばらく経つうちに、画びょうが落ちてしまったのだろう。
角が剥がれたポスターは、扉が開くたびに風に煽られて小さく揺れる。ポスターの中に映っている女性は白い歯を見せながら満面の笑顔を浮かべているが、それが紫織には、よけいに物悲しく感じた。
昨晩は早めに寝ようと思い、十一時頃に床に就いたのだが、すっかり興奮してしまい、結局、明け方近くまで寝付けなかった。お陰で今は、少々寝不足気味だった。
(大丈夫かな……)
身支度を整え、リビングでトーストとホットミルクという軽い朝食を摂っていたが、時おりウトウトしてしまう。
「紫織、食べながら寝ない!」
母親に一喝されて慌てて目を覚ますも、それでも、数分と経たないうちに夢の世界へと落ちそうになる。
そんな紫織に、母親は深い溜め息を吐きながら言った。
「ねえ、今日は無理にでも出かけなきゃいけないわけ? 断れないの?」
「うーん……、それは無理……」
寝惚けながらも、紫織はきっぱりと否定した。
母親は怪訝そうにしながら、「どうして?」と重ねて訊ねてきた。
「あんた最近、なんか様子が変よねえ? いつもならば、用事よりも家でダラダラすることを最優先するのに……」
母親にまじまじと見つめられた紫織は、少しずつ頭が冴えてくるを感じた。同時に、全身から冷や汗がじんわりと湧き出る。
「なっ、何でもないよ」
紫織は急いでトーストを口に押し込むと、それをミルクで流し込み、母親の視線から逃げるようにリビングを飛び出した。
◆◇◆◇
約束の時間までは三十分ほどあったが、紫織はいそいそと家を出た。ちなみに待ち合わせ場所はそれぞれの家の近くではなく、あえて最寄りの駅前にした。家の前だと、どうしても朋也と鉢合わせしてしまう可能性がある。もちろん、駅も安全とは言いきれないのだが。
(宏樹君、なんて言って出て来るんだろ?)
駅まで続く道を足早に歩きながら、紫織は思った。
宏樹のことだから、飄々として、もっともらしい嘘を吐くだろう。しかし、同時に後ろめたさも感じているに違いない。
宏樹は紫織を可愛がってくれているが、実の弟である朋也もまた、うんと大切に想っている。それは紫織もよく分かっていた。
駅に着くと、紫織はコンクリートの階段を駆け上がる。
腕時計を見ると、待ち合わせにはまだ少し早かったが、いつになく気持ちが昂ぶっていた。
紫織は階段を登りきり、重いガラス扉を押して、待合室の中に足を踏み入れた。
人はちらほらと見受けられたが、宏樹らしい姿は見当たらない。
(ちょっと早かったもんね)
紫織は空いている椅子に腰を下ろすと、ぼんやりと辺りを見回した。
古びた駅の内部には大きな時刻表が掲げられており、地域のアピール用のポスターもあちこちに貼られている。
ふと、その中の一枚の右上が剥がれかかっているのが目に飛び込んだ。しばらく経つうちに、画びょうが落ちてしまったのだろう。
角が剥がれたポスターは、扉が開くたびに風に煽られて小さく揺れる。ポスターの中に映っている女性は白い歯を見せながら満面の笑顔を浮かべているが、それが紫織には、よけいに物悲しく感じた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
春風 ~四季の想い・第二幕~
雪原歌乃
青春
短大卒業後、事務職に就いて二年目が経過した涼香。一方で、朋也は高校卒業してすぐ、自立して職に就いた。
それぞれ違う道を歩むふたりが再会した時、運命の歯車はゆっくりと動き始める――
※※※
こちらは『雪花』のスピンオフ、六年後が舞台となっています。多少のネタバレを含みますので、先に『雪花』を読まれることを推奨します。特に気にならない方は、こちらから読んで頂いても構いません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる