甘い彼とほろ苦彼女

雪原歌乃

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ビタースイートに隠し味

Act.3☆

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 リビングでの真都さんの宣言通り、私は休む間もなく愛され続けた。今まで淡白なイメージが強かっただけに、性欲の塊だったとは予想だにしなかったことだ。
 ただ、私も私で真都さんを求め、気付けば私から真都さんの上で腰を動かしていた。
「奈波、もっと乱れてみて?」
「や……あっ……はずかし……はぁ……っ……」
「恥ずかしがってるようには見えないけど?」
 そう言いながら、真都さんが下から突き上げてくる。
「いや……っ……あぁ……っ……」
 何度も昇りつめ、私の頭は真っ白になっている。不意に、自分は何をしているのかと冷静になるものの、真都さんからの執拗な責めにそんな思考もすぐに吹っ飛んでしまう。
 今度は、私が真都さんを見上げる格好になる。強弱を付けながら何度も挿入され、意識が飛びそうになる。
 セックス自体は好きでも嫌いでもなかった。でも、好きな人とこうして繋がっていると幸せを感じて、いつまでも一緒にいたいと思う。
「はぁ……っ……」
 真都さんから色めいた吐息が漏れる。身体からは汗が流れ、私の口へと落ちてくる。
 律動が加速した。そろそろ絶頂なんだな、と喘ぎながらも考えていたら、真都さんの身体が私の身体にぐったりとのしかかってきた。
「悪い……。ちょっとだけ、このままで……」
 私よりの体格の良い真都さんの身体は重い。けれど、それ以上に私に甘えてくる真都さんが愛おしい。
 私は背中に手を回し、真都さんを抱き締めた。噴き出した汗で全身が濡れている。
「――奈波、笑わないで聴いてくれるか?」
 まだ繋がったままの状態で、真都さんがおもむろに訊ねてくる。
「俺と奈波、一緒に溶け合ったらどうなると思う?」
 何が言いたいのか、と少し怪訝に思う。笑う以前の話だ。
 でも、訊いている真都さんは至って真面目なのだろう。だから、こっちも真剣に考えて答えた方が良い気がする。
「甘さと苦みがほど良く混ざり合う感じ、とか?」
 自分でも何を言っているのか分からないと思いつつ答えたけれど、真都さんにはそれが満足のいく返しだったらしい。
「じゃあ、俺が甘いアイスで奈波が苦いコーヒーってトコかな?」
「――普通、逆じゃないですか?」
「奈波の方が俺より冷静だろ?」
「冷静ってわけでもないと思いますけど……」
 適当に濁しながらも、的を射ているとは思った。
 ふたりきりの時の真都さんは甘い。どこか幼さも垣間見せるし、現に今も十歳も年上とは思えないほどの甘えっぷりだ。
 それに対して、私はふたりきりでも甘さとは無縁な気がする。普段は気張っている真都さんを支えるため、私が大人になって真都さんにとっての居心地の良い場所にしようと思っているところは確かにある。元々、私は何故か年上年下に関わらずに甘えられる傾向にあったのだけど。
 そんなことを考えている間に、真都さんの身体が離れた。ナカから真都さん自身を抜かれると、少し淋しさを覚えた。
 真都さんは黙々と避妊具の後始末をする。そして、濡れそぼった私の秘所もティッシュで拭い、ひとしきり終わってから私に腕枕をした状態で横になった。
「いい加減、出しっぱなしの食器を片付けないと……」
 そう言いながら身じろぎするも、「ダメ」と真都さんは許してくれない。
「言っただろ? 今夜は寝かせない、って」
「食器を洗うのもダメなんですか……?」
「そんなの、朝になったらやればいいだろ?」
「――衛生上良くないです……」
「いいよ。どうせここは俺のウチなんだし」
「そうゆう問題じゃないですよ……」
「いいから。今夜は俺の好きなようにさせてもらう」
「――まさか、まだやる気ですか……?」
「少し休んで体力回復したらね」
「――何回目ですか……」
 私は深い溜め息を吐くのが精いっぱいだった。さすがに疲れている。いい加減寝たいと思うのだけど、本気で寝かせるつもりはないらしい。
 天使の面した悪魔が私に無邪気な笑みを向けてくる。怖いと思いつつ、もう諦めるしかないのかと覚悟を決めた。
「楽しみはこれからだよ、奈波?」
 甘いだけではない。私をどこまでも酔わせようとする魔力もある。真都さんはブランデー入りのアフォガードそのものだ。
 ――きっと、気付かないうちに溶かされてしまう。たくさん……
 真都さんに抱き締められながら、私はぼんやりと考えていた。

【ビタースイートに隠し味-End】
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