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ビタースイートに隠し味
Act.1-01
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初雪が降った日にデートに誘われて以降、私は椎名課長とふたりきりで逢う機会が多くなっていた。
初デートの時は緊張した。お互い、プライベートの姿を知らないから、どうやって椎名課長と会話したらいいのか、などと散々悩んだ。
どうやら椎名課長も私と同じだったようで、とても緊張していたらしい。でも、緊張していたわりにはちゃんと私をリードしてくれたし、何かと気遣ってくれた。やはり、そこは年上の男性なのだな、と改めて感心した。
そして、今日も椎名課長と逢う約束をしている。ただ、逢う時間が夜だ。
実は夜に逢うのは初めてだった。一緒に酒でも飲まないか、と誘われた時は、さすがに少しばかり警戒した。
私達はまだ、正式に付き合っているわけではない。初デートの約束以来、椎名課長は特に何も言ってこないし、キスはおろか、手を繋ぐことすらしてこない。
もう、あれから半年は経っている。なのに、全く進展がないのは何故なのだろう。いや、もしかしたら、あえて夜のデートに誘ったのが進展の証拠なのか。
何にしても、気は抜けない。ふたりきりで逢うとなれば気合いが入る。化粧もバッチリし、服も先月の給料が入った時に買った、白地に赤い花があしらわれたワンピースを着てみた。ただ、男性は基本的に服装に無頓着だから、どんなに私がおしゃれしても全く気付いてくれないのだけど。
余裕を見て約束の十分前に待ち合わせ場所の駅に行ったはずなのに、椎名課長はすでに待っていた。
「すいません、お待たせしてしまって……」
つい、謝罪が口から出る。
案の定、と言うべきか、椎名課長はそんな私に向けて首を横に振って見せる。
「別に遅れたわけじゃないだろ? 謝る必要はない」
「でも……」
「俺が勝手に時間よりも早く来てしまったんだ。変に謝られてしまうとこっちが申しわけなくなる」
そこまで言われると、私も返す言葉がない。困惑して俯いていると、頭にふわりと優しいものが触れた。
「せっかく早く逢えたんだ。その分、ゆっくり過ごそう?」
椎名課長は私の頭を撫でる。
「――子供扱いしないで下さい……」
そんな憎まれ口が咄嗟に出たけれど、内心、椎名課長に触れられたことが嬉しかった。
◆◇◆◇
駅を出てから歩くこと約十分。椎名課長に伴われながら来た所はイタリアンのお店だった。ずっと気になってはいた所だったけれど、何となく入りづらくていつも素通りしていた。
入るなり、椎名課長は従業員のひとりに声をかけ、「予約していた椎名ですが」と名乗った。まさか、予約までしていてくれていたとは思わず、またさらに驚いてしまった。
私達は一番奥の席まで案内される。そして、落ち着くなり、メニューブックを開いた状態で真ん中に置かれた。
「ただいま、お水をお持ちしますので」
そう言って、従業員は一度離れた。
「苦手なものは特になかったよな?」
椎名課長に訊ねられ、私は、「ないです」と首を振る。
「好き嫌いは特に。あ、でも、極端に辛いものは苦手かも」
「そうか。じゃあ、酒は?」
「まあ、嗜む程度には」
「了解」
椎名課長はニコリと頷き、タイミング良く水を持ってきた従業員に注文した。
「アマトリチャーナと茄子のボロネーゼ、マルゲリータと鯛のカルパッチョ、生ハムのサラダ。それと白ワイン。あと、食後にアフォガードをふたつ」
そこまで言ってから、私に向き直り、「他に食べたいものとかある?」と訊ねてきた。
こっちの了承を得る前に、さっさと注文されてしまっている。でも、どれも私の大好物ばかりだったから、「特には」と答えた。
「お待ち下さいませ」
初デートの時は緊張した。お互い、プライベートの姿を知らないから、どうやって椎名課長と会話したらいいのか、などと散々悩んだ。
どうやら椎名課長も私と同じだったようで、とても緊張していたらしい。でも、緊張していたわりにはちゃんと私をリードしてくれたし、何かと気遣ってくれた。やはり、そこは年上の男性なのだな、と改めて感心した。
そして、今日も椎名課長と逢う約束をしている。ただ、逢う時間が夜だ。
実は夜に逢うのは初めてだった。一緒に酒でも飲まないか、と誘われた時は、さすがに少しばかり警戒した。
私達はまだ、正式に付き合っているわけではない。初デートの約束以来、椎名課長は特に何も言ってこないし、キスはおろか、手を繋ぐことすらしてこない。
もう、あれから半年は経っている。なのに、全く進展がないのは何故なのだろう。いや、もしかしたら、あえて夜のデートに誘ったのが進展の証拠なのか。
何にしても、気は抜けない。ふたりきりで逢うとなれば気合いが入る。化粧もバッチリし、服も先月の給料が入った時に買った、白地に赤い花があしらわれたワンピースを着てみた。ただ、男性は基本的に服装に無頓着だから、どんなに私がおしゃれしても全く気付いてくれないのだけど。
余裕を見て約束の十分前に待ち合わせ場所の駅に行ったはずなのに、椎名課長はすでに待っていた。
「すいません、お待たせしてしまって……」
つい、謝罪が口から出る。
案の定、と言うべきか、椎名課長はそんな私に向けて首を横に振って見せる。
「別に遅れたわけじゃないだろ? 謝る必要はない」
「でも……」
「俺が勝手に時間よりも早く来てしまったんだ。変に謝られてしまうとこっちが申しわけなくなる」
そこまで言われると、私も返す言葉がない。困惑して俯いていると、頭にふわりと優しいものが触れた。
「せっかく早く逢えたんだ。その分、ゆっくり過ごそう?」
椎名課長は私の頭を撫でる。
「――子供扱いしないで下さい……」
そんな憎まれ口が咄嗟に出たけれど、内心、椎名課長に触れられたことが嬉しかった。
◆◇◆◇
駅を出てから歩くこと約十分。椎名課長に伴われながら来た所はイタリアンのお店だった。ずっと気になってはいた所だったけれど、何となく入りづらくていつも素通りしていた。
入るなり、椎名課長は従業員のひとりに声をかけ、「予約していた椎名ですが」と名乗った。まさか、予約までしていてくれていたとは思わず、またさらに驚いてしまった。
私達は一番奥の席まで案内される。そして、落ち着くなり、メニューブックを開いた状態で真ん中に置かれた。
「ただいま、お水をお持ちしますので」
そう言って、従業員は一度離れた。
「苦手なものは特になかったよな?」
椎名課長に訊ねられ、私は、「ないです」と首を振る。
「好き嫌いは特に。あ、でも、極端に辛いものは苦手かも」
「そうか。じゃあ、酒は?」
「まあ、嗜む程度には」
「了解」
椎名課長はニコリと頷き、タイミング良く水を持ってきた従業員に注文した。
「アマトリチャーナと茄子のボロネーゼ、マルゲリータと鯛のカルパッチョ、生ハムのサラダ。それと白ワイン。あと、食後にアフォガードをふたつ」
そこまで言ってから、私に向き直り、「他に食べたいものとかある?」と訊ねてきた。
こっちの了承を得る前に、さっさと注文されてしまっている。でも、どれも私の大好物ばかりだったから、「特には」と答えた。
「お待ち下さいませ」
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