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Act.8-03
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砂夜の指先が、俺の輪郭をゆっくりとなぞる。
俺は愛おしさが込み上げ、その手を握り締めた。
砂夜は瞠目した。今の彼女は、俺の心が読める。ならば、この先に何をしようとしているか察しが付いているはずだ。
俺はもう片方の腕で、砂夜の肩を抱き締める。先ほどとは違い、壊れ物を扱うように優しく抱き寄せた。
砂夜の瞳が閉じられた。微かに、唇が震えている。
俺も躊躇いつつ、砂夜に口付けた。
初めてで、これから、二度と触れ合うことのない唇と唇。この柔らかくて温かな感触を忘れたくない。俺は、祈るように強く想った。
◇◆◇◆
長い時をかけて、どちらからともなく唇が離れた。
「――そろそろ行かないと……」
砂夜が立ち上がろうとするのを、俺は、咄嗟に腕を掴んで引き止めた。
「――あの時と進歩ないよ、宮崎……」
困ったように、砂夜が苦笑いする。多分、今の俺は今にも泣き出してしまいそうな顔をしているに違いない。
「私は見守ってる。宮崎のことをずっと……。姿は見えなくても、私はちゃんと、宮崎の側にいるから。だから心配しないで」
砂夜は一度、その場に屈み込んだ。何をするのかと思ったら、落ちたままになっていたジッポー入りの小箱を拾い上げ、俺の手に握らせた。
「これも、捨てる気がないならちゃんと使ってやってよ。箱にしまいっ放しじゃ、ただの宝の持ち腐れだよ?」
特注で文字入れしてもらって高く付いたんだから、と、最後に付け足した。
俺は再び渡されたジッポーを見つめ、〈Love forever〉の刻印を親指で擦る。
「強く生きな」
砂夜は俺の手をそっと解き、身体をふわりと宙に浮かせる。と、背中から、一対の翼が姿を現した。
俺を振り返ることもなく、強気な天使は星空に向かって羽ばたいてゆく。
砂夜の姿が完全に見えなくなるまで、そう時間はかからなかった。砂夜は今度こそ、俺から離れて行ってしまった。
残されたのは、ジッポーと手紙だけだった。
「――Love forever……」
俺はひとりごちると、初めて、ジッポーを点火させた。カシャリと音が鳴り、橙色の炎が、風に煽られながら揺らめく。
その時、目の前に一粒の欠片がポツリと落ちてきた。
俺は夜空を仰いだ。星が瞬く中、生まれたての雪が、ひとつ、またひとつと舞い降りる。
まさかとは思った。けれども、偶然にしては出来過ぎている。
「――砂夜……?」
一度も本人に呼んだことのない下の名前で問いかけるが、返事は戻ってこない。
「俺への誕生日とクリスマスプレゼントってトコか?」
ついさっきまで感じていた哀しみは嘘のように、俺の心に、温かな気持ちが広がっていた。
俺はジッポーに向けて、白い息を吹きかける。ケーキはないけれど、ささやかな蝋燭代わりだ。
◆◇◆◇
砂夜、お前は、時間は戻せない、って言ってた。
けど、生まれ変わりだったらありだよな?
俺とお前、縁があるのなら、来世では一緒に幸せになろう。
その時は、俺からお前に言ってやるよ。
永遠に、お前を愛してる――
【Love forever-End】
俺は愛おしさが込み上げ、その手を握り締めた。
砂夜は瞠目した。今の彼女は、俺の心が読める。ならば、この先に何をしようとしているか察しが付いているはずだ。
俺はもう片方の腕で、砂夜の肩を抱き締める。先ほどとは違い、壊れ物を扱うように優しく抱き寄せた。
砂夜の瞳が閉じられた。微かに、唇が震えている。
俺も躊躇いつつ、砂夜に口付けた。
初めてで、これから、二度と触れ合うことのない唇と唇。この柔らかくて温かな感触を忘れたくない。俺は、祈るように強く想った。
◇◆◇◆
長い時をかけて、どちらからともなく唇が離れた。
「――そろそろ行かないと……」
砂夜が立ち上がろうとするのを、俺は、咄嗟に腕を掴んで引き止めた。
「――あの時と進歩ないよ、宮崎……」
困ったように、砂夜が苦笑いする。多分、今の俺は今にも泣き出してしまいそうな顔をしているに違いない。
「私は見守ってる。宮崎のことをずっと……。姿は見えなくても、私はちゃんと、宮崎の側にいるから。だから心配しないで」
砂夜は一度、その場に屈み込んだ。何をするのかと思ったら、落ちたままになっていたジッポー入りの小箱を拾い上げ、俺の手に握らせた。
「これも、捨てる気がないならちゃんと使ってやってよ。箱にしまいっ放しじゃ、ただの宝の持ち腐れだよ?」
特注で文字入れしてもらって高く付いたんだから、と、最後に付け足した。
俺は再び渡されたジッポーを見つめ、〈Love forever〉の刻印を親指で擦る。
「強く生きな」
砂夜は俺の手をそっと解き、身体をふわりと宙に浮かせる。と、背中から、一対の翼が姿を現した。
俺を振り返ることもなく、強気な天使は星空に向かって羽ばたいてゆく。
砂夜の姿が完全に見えなくなるまで、そう時間はかからなかった。砂夜は今度こそ、俺から離れて行ってしまった。
残されたのは、ジッポーと手紙だけだった。
「――Love forever……」
俺はひとりごちると、初めて、ジッポーを点火させた。カシャリと音が鳴り、橙色の炎が、風に煽られながら揺らめく。
その時、目の前に一粒の欠片がポツリと落ちてきた。
俺は夜空を仰いだ。星が瞬く中、生まれたての雪が、ひとつ、またひとつと舞い降りる。
まさかとは思った。けれども、偶然にしては出来過ぎている。
「――砂夜……?」
一度も本人に呼んだことのない下の名前で問いかけるが、返事は戻ってこない。
「俺への誕生日とクリスマスプレゼントってトコか?」
ついさっきまで感じていた哀しみは嘘のように、俺の心に、温かな気持ちが広がっていた。
俺はジッポーに向けて、白い息を吹きかける。ケーキはないけれど、ささやかな蝋燭代わりだ。
◆◇◆◇
砂夜、お前は、時間は戻せない、って言ってた。
けど、生まれ変わりだったらありだよな?
俺とお前、縁があるのなら、来世では一緒に幸せになろう。
その時は、俺からお前に言ってやるよ。
永遠に、お前を愛してる――
【Love forever-End】
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